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25話 カエルの賢人(仮)


「儂はヨクトート。知恵の神に仕えた預言者ヨラン・メドの弟子にして、ゲッコウ族一の賢人なり」

「「……」」


 私もヤナも色々とツッコミたいことがありすぎて、目の前の事象の処理が追い付かない。


 アドライアンさんの依頼を受け、依頼エリアの指し示す通り南門方面の湿地を進んだ。

 すると森があったので、ずんずんと奥へ。

 道中水トカゲを数体倒したくらいで、それほど魔物はいなかった。

 あるいはエルフの種族特性である《光風》が働き、敵に発見されにくく、素早さがプラスされ身軽に動けたのもあるだろう。


 さらに森を進み該当エリアに差し掛かると、突如池が現れた。

 どこか神聖な空気を感じるその池の周囲をヤナと二人で探索。

 指輪を探しつつ景色に見とれていると──突如しゃべるカエルが現れ今に至る。


「(……なあ)」

「(はい)」

「(ツッコミどころ満載でさ)」

「(はい)」

「(とりあえず一個ずつ言おうか)」

「(そうですわね……)」

「あ、あー……その。俺はシルヴァン」

「わたくしは柳丸ですわ」

「ほう。シルヴァンに柳丸か。……して、賢人たる儂に何用か?」

「「……」」


 突如勝手に現れただけなのに、何用と問われても……。

 私とヤナは心を一つにしながら、気になったことへと一つ一つツッコミを入れていくことに。


「えっと、ゲッコウ族……?」

「左様」

「(ゲッコーって、ヤモリですわよね……?)」


 ヤナと顔を見合わせて再度賢人とやらを見る。


 カエルだ。


 誰がどう見ても、服を着て立っている人間でいえば子供の背丈のカエルだ。

 それも賢人と言われても違和感のない服装。

 右手には杖も持っている。


 だが、改めて言われてみれば……ヤモリの顔とカエルの顔。

 その愛らしいとも称せる顔だけをクローズアップすれば、すぐに区別がつくものではない。

 私たちはその体つきの違いからカエルとヤモリをすぐに別の生物だと判別する。

 しかし、顔だけを見れば……。


「(ヤモカエル族……?)」

「(かもしれませんわね……)」


 ひとまず種族はヤモリとカエルのハイブリッド種族と思うことにした。


「その、……賢()?」

「左様」


 ヤモカエルだ。


 どう見ても人ではない。

 言うなれば賢いヤモカエルだ。

 しかし『人』と付いたからといって、必ず人間であるかと問われれば自信はない。

 エルフもマフマフ族も、夜人も何もかもを『人』と称するのだから、賢いヤモカエルが賢人であっても何ら不思議ではないのだ。


「えっと……、ヨラン・メド?」

「左様」


 誰。


「誰……」

「誰……」

「………………えっ」


 ここにきて賢人の真顔が崩れた。


 今までの威厳たっぷりドヤ顔賢人は虚像であったかのように、その大きな瞳をキョロキョロと左右に動かし徐々に頬(仮)を赤らめた。


「……」

「……」

「……」


 しばし、辺りに静寂が訪れた。


 池の水面はわずかな風を受け波紋を描き、それすらもこの空間では娯楽であるかのように映る。

 周囲の小動物からすれば何をも発しない三人よりも、水の波紋の揺れ動きを見ていた方が幾分か有意義というものだ。


「えっと……」

「「……」」

「ヨラン・メドの預言書、ご存知でない?」

「「(こくり)」」


 私とヤナが静かに頷けば、ヨクトートなる賢人は効果音でも付きそうなほど大ショックを受けていた。


「そ、……そんな!!」

「急に可愛いな……」


 威厳たっぷりドヤ顔の虚像がはがれ、なにやら少年のように可愛らしい反応を見せるヨクトートさん。


「で、でも……君からは確かにグオ=ラ・クリマの聖性を感じるよ!?」

「俺?」


 プニプニした指をビシッと指される私。

 あの湖面にぶっ刺さった神器の力を感じるって……何事?


「……? あ」

「どうした魔女よ」

「魔女なの!?」

「もしかして、クラスクエ?」

「? ……あー! バブルミスティックの?」

「そそ」


 なるほどね。

 特定のクラスにだけ関係のある、クラスクエスト。

 大抵は特別なスキルを取得したり、何らかの機能が解放されるイベントだ。

 その起点となるエリアがたまたまアドライアンさんの依頼エリアと被ったってワケ。

 バブルミスティック以外のクラスでここに来ても何も起きないのか。


「連鎖したなぁ」

「ですわねぇ」

「え? え?」


 これぞゲーム序盤の醍醐味。

 メインストーリー進まない問題だ。

 今はまだ二つのクエストのみであるから問題ない。

 これが三つ四つと螺旋を描くが如く重なると、どんどんメインストーリーのクエストは追いやられていき、しまいには翌日以降に持ち越して直前までのストーリーを忘れてしまうこともしばしば。


 これが完全フリーシナリオでなければ、私たちは本格的に寄り道街道を爆走していたに違いない。


「カエルさん、早く言ってよ~も~」

「!? かっ、カエルではなくヨクトートである!」

「ヨラン・メドの預言書っていうのが、クラスクエに必要なアイテムなんでしょうかね?」

《……》

「なんと、儂の勘違いであったか……」


 勘違いでクエストが起動するのも面白い話だ。


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