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24話 ハートブレイクと聖流祭


「──実は、任務中に恋人とお揃いの指輪を失くしてしまったのだ」

「………………」

「お姉さまの表情が終わってますわ……」


 なぜだ? どこで道を違えてしまったんだ?


 冒険者と親密になりたいという依頼主、神殿騎士アドライアンさん。

 金の短髪騎士キャラで美形。恐らく二十歳前後。

 やや吊り上がる目元はクールにも見えるが、表情は熱き使命感を滲ませ真面目な人柄がうかがえる。

 この世界の騎士の基準は知らないが、マイ知見によると騎士になるには時間や能力、人望。あるいは人脈などが必要だと思われる。若手の美形騎士というだけで、女性が黄色い声を挙げるのも納得というもの。


 初手、拍手喝采不可避。


 よくよくお姿を拝見すればオルドフォンスさんと違い見た目からも分かるほどの筋肉質な体型ながら、騎士の甲冑を身に纏うその姿はスマートにも映る。

 それもそのはず。

 私がいつも好んで装備する甲冑とは少し異なり、『神殿騎士』らしく、神官服のようにゆったりとした布も身に纏っている。

 肩や腕、脚装備は雄々しいながらも、胴体は神官のローブのように縦のラインが強調されているのだ。


 さすがだ。ありがとう、ブラエ・ヴェルト。

 良く分かっていると言わざるを得ないデザイン。


 甲冑部分の身体を大きく見せる割合と、縦のラインで膨張を抑える割合が見事にマッチ。

 第一印象は、『推せる』。

 正直な話、好みとしては長髪キャラを好きになることが多いのだが、そんなこと関係ないとでもいうようにアドライアンさんと親密になることに一切の躊躇いもなかった。


 ただそれだけだったはずなのに……。


 依頼内容が恋人とのお揃いの指輪……だと!?


「(なあ)」

「(はい)」

「(この問題放置してたら、俺ルートにならないか?)」

「(ならねぇよ)」

「(他の択求む……)」

「(詰んでますわね)」


 イベントを起こすだけ起こして放置し、恋人とのケンカに発展。からの私と親密ルート。

 ここからの一発逆転を望むなら、これしかないはず……!


 ……しかし、同時にプレイヤーとしての良心の呵責が沸き起こる。


 困っている人を見捨てるのか?

 いくらゲームとはいえ、愛し合う二人の仲を引き裂くのか?


 そんな自問自答が流星のように脳内を過った。

 結果──


「………………、お引き受けしよう」

「(あら素直ですわ)」

「! 本当か!? 助かる……」


 水のサファイアの如き美しい青色の瞳を伏せ、思わず涙しそうなほど安堵した様子のアドライアンさん。


 くっ……。

 親密なご関係にはなれなくとも、イケメンを手助けすることはイケハン全一にしてプロ騎士の私の使命だと思えば……このくらいの傷……っ。


「なに……容易いことだ」

「(すごく複雑そうな表情ですけど)」


 痛む胸を思わず手で抑えた。

 バブルミスティックの青のスーツは、誇らしげに張りのある艶やかな感触を私にもたらしてくれる。


 まだ、やれる──


 私にはオルドフォンスさんに良し男さん、それに未だご尊顔を拝謁していない闇のイケメン神エレヴォスもついているからな……!!


「ご自分でも探しには行きましたの?」

「ああ、もちろんだ。だがその時には見付けられなくてな。後日改めて探そうとも思ったのだが、近頃はニト・ラナにも不穏な気配が……おっと」

「「!」」


 私のマスター・イケハン・イヤーは聞き逃しなどしなかった。


「仕事が忙しいというワケだな?」

「あ、ああ。そうなのだ」

「それは最近のことでしょうか?」

「神殿騎士の仕事は多岐に渡る。神殿周辺の警備、神官の護衛。街や街周辺への巡回と様々だ。祭事があるなら尚のこと仕方がない……」

「「祭事?」」


 ヤナと私はキーワードとなりそうな言葉を聞き返す。

 神殿騎士アドライアンさん。

 親密な関係こそ諦めるが、スタイル良し男さん(仮)の所属する団体の情報は引き出させてもらうからな……覚悟しろ!!


「知らないか? ラナ教には様々な祭事があるが、基本的には神殿内で行われるものがほとんど。だが、此度の『聖流祭』は一般の者にも関係がある。神器グオ=ラ・クリマからもたらされる聖水を神官の祈りで更に聖性を高め、街中を流れる水路の水の加護を更新するんだ」

「! へぇ……」

「水路の水にはそのような効果があるのですわね」


 なるほど。

 街の近くに魔物がいるというのに街中の安全が保証されているのは、そういう設定なのか。


「祭の際には普段神官しか見ることのできない宝具や祭具も見ることができる。……だからこそ、招かれざる客も紛れていることがあるのだがな」

「宝具か……」


 それが良し男さん達の狙い……?


「──ともかく、冒険者の者らには街を守るために今後も様々な依頼が出されることだろう。どうか、今回のみならず力を貸してほしい」

「まかせろり」


 なるほどね。聖流祭というイベントを介して、各プレイヤーで色んな事件に遭遇するってワケ。問題起きすぎだろというツッコミ待ちだろうか。

 はたまた、現実でも表になる事件というのは一握りで、実際のところ多くの問題は目に映らない場所で処理されていると。そういう示唆なんだろうか。


「深いな……」

「恐らく深読みだと思いますわよ」


 仕方がない。

 聖流祭。ラナ教や神殿が主体となるイベント……ということはつまり、それを手助けするということはオルドフォンスさんのお力になるということ。


 イケメンNPCの憂いを払うというのは、イケハン全一にしてプロ騎士たる私の務めだ。

 やらない理由がない。

 そうだろう?


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