23話 神殿騎士の嘆き
「ってなワケで」
「引き続き依頼を受けましょう」
各自3400エル前後の手持ちだけでは先々の不安無しにショッピングを楽しめないと判断した私たちは、引き続き冒険者ランクを上げるため依頼を受けることに。
《見習い》冒険者が受けることが出来る依頼ボードの前には、私たちの他に三人の冒険者が依頼を見繕っていた。
「もっと混んでいるかと思ったがな」
「皆さん街の探索をしたり、依頼先で別の依頼が連鎖しているんじゃありません?」
「なるほど。現地依頼ってワケ」
非常に現実的な話をすると、冒険者ギルドを通して依頼を出すには手数料がかかるだろう。もちろんその分多くの冒険者の眼に留まるため、解決が早くなるメリットも。
しかし街の者が「あー、アレ欲しいけど別に急ぎってワケじゃないしなぁ~」と思っていたとしたら、わざわざ冒険者ギルドには依頼を出さないかもしれない。
もしくは公衆の面前に出すには忍びない、やんごとなき事情の依頼があるかもしれない。
ギルドで受ける依頼とは別に現地で受ける依頼があったとしても、なんら不思議ではない。
そうして良く冒険の最初に陥りがちな、サブクエ消化でメインストーリー進まない問題に直面するのだ。
ブラエ・ヴェルトが完全フリーシナリオならば、尚のこと寄り道クエストは多いだろう。
「やはり時にはフィールドワークも重要だということだな。果報は寝て待てと言うが、それは仕込みが終わった後の話。待っていては始まらないことだってある」
「イケメンハンターのフィールドワークって、ちょっと字面がイヤですわね……」
「オルドフォンスさんに関しては依頼を待つ他ないが……そうだな」
スタイル良し男さん(仮)、あるいは彼の属する団体さんとのイベントは待っていては始まらない……か?
「うーん……」
「あ。いいことを思い付きましたわ」
「ん?」
「オルドフォンスさんとも、良し男さんとも関わりのありそうなイケメン神殿騎士の依頼を受けてはいかがでしょう?」
「──っ!! もしやそなた……天才か?」
「えへ」
盲点とはまさにこのこと。
オルドフォンスさんはラナ教の神官長補佐。
そんな彼が言っていた神殿騎士というのは、恐らく神殿や神官の護衛を担う者ら。
オルドフォンスさんだけではなく、神殿の警護を担うのであれば……良し男さんの団体の情報をお持ちかもしれない。
「その前に良し男さんのお名前を知りたいですわね」
「それな」
本当にそれ。
むしろそれ一択。
名前とは存在を冠するものであり、推しを奉ずる際に必要不可欠なもの。
いつまでもスタイル良し男さん(仮)とお呼びするのも忍びない。
「では神殿騎士からの依頼でイケメンセンサーを発動してみてはいかがでしょう?」
「まかせろり」
もはやイケメンセンサーに何のツッコミもしなくなったヤナは、随分とイケハン活動に馴染んでいる。
だが、それでいい。
この活動が周囲へと波及すれば、それだけイケメン捕獲効率が上がるというものだ。
「──イケメンの嘆きよ……我が手中へと集え……」
「やっぱり怖いですわ……」
第七感を用いてイケメンの嘆きエネルギーを掌へ集約する。
「……」
「どうでしょう……」
納品依頼。
討伐依頼。
運搬依頼。
護衛依頼。
……ん?
「捜索依頼……?」
「なんでしょうね」
人、失せ物、あるいはペットの捜索だろうか。
「依頼者は神殿騎士アドライアン。概要は……内密にお願いしたいこと……?」
「まぁ、ワケありですわね……」
人には誰しも内密にお願いしたいことは沢山あるだろう。
イケハン全一に言わせれば、それは基本的に表には出さないことだ。
推しの筋肉が見えるようなグッズを出してほしい。
推しとデートイベントを実装してほしい。
推しが全員主人公を好きになってほしい。
運営に内密にお願いしたいことは星の数ほどあれど、プレイアンケートにすら書いたことはないものばかり。
だが、この神殿騎士アドライアンさんは冒険者になら打ち明けてもいい……いや、冒険者にしか打ち明けることができないという。
「匂わせか……」
「日本語でお願いいたしますね」
それはつまり……何らかの秘密を共有し、この世界の主人公たる冒険者と親密な関係になることを示唆している。
「任せろ。得意分野だ」
「不安ですわ……」
「他の者に取られるわけにはいかないからな。さっそく引き受けようではないか!」
私は一切の迷いなく依頼画面から選択し、受注した。
「行くぞ、魔女よ」
「こういう時の行動力はすごいですわね……」
待っていろ、神殿騎士アドライアンさん。
あなたのプロ騎士シルヴァンが、今参りますとも──!!




