22話 自分を信じ、自分を疑う
「冒険者ランク【2】、無事昇格也」
「やりましたわ~」
《見習い》冒険者として日々修行を積む我々も、ランク【2】と相成った。
ギルド受付で納品した際にログが流れ、受付の女性からも「おめでとうございます!」と声を掛けていただいた。
「己の才能が怖い……」
「わたくしはお姉さまの思考が怖いですわ」
順調。万事オーケー、順風満帆といったところ。
この世界でのイケメンハンターとしての地位も、徐々に確固たるものとなっていく。
「成長を実感できるってのが、ゲームの良いところだよな」
「ですわねぇ」
現実での成長というものは、どうしても判別がつきにくい。
特に精神面での成長ならなおさらだ。
スポーツや売上のように記録や数値にして実感したり、解けなかった問題を解いたりと実感できる部分も多くあるものの。
しかしそれを達成するまでの道のりというのは常に自分の中の不安との戦いだろう。
克己心が重要ってワケ。
「でも対戦ゲームにおきましては、成長が実感しづらくドツボにはまることもありますのよ」
「ほう。魔女でもそうなのか」
意外だ。
冷静沈着、DPSにして影の司令塔とゲームフレンド内で呼ばれているこの男にしては意外な悩みである。
「ええ、よく陥りますわ。気を付けるべきことは全て気を付けているのに結果が伴わなかったりしますと、努力の方向性を間違えているのかしら? と疑心暗鬼になってしまいますの。特に昇格戦で負けがこむ時は、自分のメンタルの弱さと自分が培ってきたものが通用しないことに愕然といたしますわね。そこから這い上がれるヴィジョンが一瞬見えなくなりますわ」
「やはりどれだけ自分を信じることが大切だとはいえ、結果に表れないと不安にもなるだろうな。前を見続ける素直さと共に、定期的な見直しも必要なのか」
「本当そうですわ。自分を信じると共に、自分を最も疑う……物事の両面というのは、何事においても重要ですわね」
「深いな……」
イケハン活動においてはどうだろう?
物事の両面……。
たとえば、そうだな。
敵キャラが推しになってしまった時。
オフゲにおいては、プレイヤーは往々にして主人公に自分を重ねるもの。
そんな中、残酷で知られる敵キャラの裏の一面……実は母親を殺された悲しみで闇堕ちをしたり、自分と同じ境遇の者にはめっぽう甘かったり。
そうした裏事情を知ってしまうと、主人公は完全なる『善』側の人間なのだろうかと一瞬疑問が生じる。
あるいは、『善』と『善』との戦い。
場合によっては『偽善』と『善』の戦いになってしまう恐れも。
苦しい。
どちら側にも感情移入が出来てしまうと、プレイヤーの胸の内は張り裂けそうな想いに満ち溢れる。
自分を信じると共に、自分を最も疑う……か。
「それはとても合理的で……、苦しいな」
「ええ、本当に」
いったい何の話をしていたか等記憶の彼方。
私の胸の内は、純粋な主人公キャラと残酷なイケメン推しキャラの双方の陣営に肩入れし張り裂けそうになっていた。
「ところで魔女よ」
「はい」
「何の話だったか」
「冒険者ランク【2】に昇格したというお話ですわ」
「それだ!」
しかしランク帯でいえば未だ《見習い》枠。
受けられる依頼というのは、ランク帯により依頼ボードが異なる。
我々は依然、同じ枠組みの中に囚われたままだ。
「……お?」
「あら」
ログをきちんと確認すると、ランクアップ報酬として1000エルが振り込まれていた……だと!?
「おいおい、給料制なら早く言ってもらわねば困るな」
「お金を稼ぐ手段は他にもありそうですわね」
時給900エル以下に愕然としていたのも束の間、希望が見えてきた。
金策は……一つではないのだ!




