21話 フューチャー・ヴィジョン
「ほほー。理解」
「直近が怒涛の展開過ぎて、すっかり忘れておりました」
《……》
リアル休憩後再ログイン。
情報を取ることがゲームにおいて重要と考えているヤナ。
しかし私のイケハン活動にすっかり気を取られ、インフォ画面を開くという初歩的な行為もすっかり記憶の彼方となっていた。
まるで辞典のようにプレイ中に出てきた単語やキーワードの基本情報がいくつか並んでいる。どうやらオルドフォンスさんに自己紹介をしてもらった際、『ラナ教』の基本情報が解放されたようだ。
『ラナ教』に関する項目を選ぶと、急展開も納得な情報が載っていた。
「聖神でもあり邪神でもある水の神ゼ=ラナ。生と死を司るラナ教には宗派が二つあり、彼らは現在対立していると。で、この街にある神殿は聖神としてのラナを祭っていて、他種族とも融和的。一方水の中にある水霊族の本拠地では邪神としてのラナを祭っていて、水神の恩恵であるグオ=ラ・クリマの所有権を巡り近年対立が激化中……と」
「なんかアポスラナさんみたいな感じだな」
シロさんとクロさんから成る、【水のサファイア】で召喚された精霊さんの姿を思い浮かべた。
「うーん」
「なんか、益々スタイル良し男さん(仮)の動機……分かんないな」
「そうですわねぇ」
彼が水霊族なら話は早いが、外見的特徴だけを見れば人間だった。
もしくは、外見では分からないが実は水霊族なんだろうか。
「ともかく、ですわ」
「ん?」
「グオ=ラ・クリマの所有権を巡っているということは、今はまだどちらの物でもないと」
「おう」
「で、良し男さん? たちの団体は、この都を水に沈めたいがために神殿に侵入しようとしたとすれば──」
「グオ=ラ・クリマに関する何かが、神殿にある?」
「ってことですわよねぇ」
大変だ。
ただイケメンを追っていただけのはずが、この街の存亡の危機にまで発展してしまった。
「これが、主人公の宿命か……」
「主人公は街の危機に逆ハーレムなんて考えないと思いますわ」
「これ他のプレイヤーだとどういう展開なんだろうな」
「それぞれ違う団員とのストーリーが展開されるとか?」
「なるほどね」
つまり、このストーリー分岐を追っていけば──
「オルドフォンスさんと良し男さん、両方の好感度ゲット……ってワケ!」
「それはまぁ、どういうオチになるか次第ですわねぇ」
「たしかに!?」
バッドエンドだけは回避せねば!?
「とにもかくにも、オルドフォンスさんもまた依頼を出すとおっしゃっていましたし……」
「やはり金か……」
「ギルドで納品依頼がないか、見てみましょう」
次にオルドフォンスさんから依頼を頼まれた際、レベル不足、装備不足で失敗するわけにはいかない。
戦力増強のためのお金を求めて、ギルドへ納品依頼が無いか見に行くことにした。
◇◆◇
「イエーイ。あったー」
「良かったですわね」
比較的ドロップ率の高そうな『水ネズミの皮』。
手持ちも多いので、これを店で売るよりも多く報酬が手に入る納品依頼を探した。
依頼ボードの前で依頼一覧画面を見繕っていると、商業ギルドからの依頼として『水ネズミの皮』を4個納品する依頼があった。
早速選択して冒険者ギルドの受付で納品!
本来店で売ると、単価100エルが4個で400エルの売却益だ。
だが今回の納品依頼による報酬は、依頼の手間賃なのか500エルが上乗せされている。
計900エルをゲット!!
……。
ゲット……。
ゲッ、ト……。
「…………」
「……まぁ、まだスタート地点ですので」
どうやら内に秘めた想いが顔に出ていたらしい。
世知辛い──
低レベル同士とはいえ、あれだけの激闘を繰り広げた私たち。
ゲームのプレイヤーとしてではなく、この世界の住人としていえばまさに命懸けで依頼を果たしたというのに。
得られたお金というのは、現実でアルバイトをしたかのような稼ぎ。場合によってはそれすら下回る。
リアル志向というのが時に悲しさをもたらすとは……。
VRMMO奥が深すぎる。
「億万長者への道のりは遠い……」
「まぁ。お姉さま、億万長者を目指していたんですの?」
「逆ハーレム後宮の維持費には必要だろう」
「たしかに?」
イケメンNPCを一か所に集める場所……。
プレイヤー拠点のようなシステムが実装されていれば、恐らくそういったことも可能だろう。
ただ、ヤナと二人ならまだしも、それだけの人数を収容する拠点。
相当広い物件を買わねばなるまい。
金だ。
やはり、どれだけ綺麗事を言おうとそれが大切であることに変わりはない。
「宮殿とか買えるのかな」
「本格的ですわね……」
夢と希望はでっかく。
目標と日々の一歩は堅実に。
そうだろう?




