20話 水の園
「驚きの展開を迎えて早1分」
「ナレーション挟むほど時間は経っておりませんわよ」
どうやら私たちはイケメンが奏でるストーリー分岐に入ったらしい。
一旦路地で状況を整理する。
「そもそもの話、もしやオルドフォンスさんの依頼を受ける前提条件が、スタイル良し男さん(仮)と接触することだったのか?」
「あるいは彼も『オレたち』と称していましたし、特定の団体さんの誰かと接触したら……とかでしょうかね」
「なるほどな……」
イケメンがイケメンを呼ぶ綿密な伏線になっていると。
これは運営側にもイケメンハンター(※二次元限定)が居るに違いない。
攻略すれば、当初の目的である逆ハーレム。
これに公式もお墨付きで築けるってワケ。
イケハン接待イベント、受けて立とうじゃないか!!
「十中八九、先ほどの彼が言っていた『あいつ』はオルドフォンスさん。オルドフォンスさんの言っていた、神殿への侵入者というのが先ほどの彼……ということですわね」
「神殿に、何かあるのか?」
《……》
私とヤナは、商業区画から離れた場所にある高台──主要な公共施設が立ち並ぶエリアを見た。
「……」
考えろ。
スーパー・イケハン・ブレインをもってして、神殿の秘密を解き明かせ──!
「貴重なものがあるんでしょうかねぇ」
「金だな」
「身も蓋もない……」
ブラエ・ヴェルトの運営は、プレイヤーに度々哲学的な解釈を寄越してくる。
『自由とは何か』。
『金はたとえゲームであろうと重要』。
リアルでも度々考えるようなことを、ファンタジーな事象をもって訴えかけてくる。
「よく出来たゲームだな」
「悟るには早すぎますわ……」
「恐らく、彼らは盗賊団と見た」
「盗賊団が水霊族以外の種族を憎んでいる理由は?」
「相続の面だな」
「やたら現実的な理由ですわね……。水に棲めない種族を駆逐って……、具体的にどうやるつもりなんでしょう?」
「ふむ……」
《……》
考えろ。
私は水霊族の王。
水に棲むイケメンを統べし者。
そんな私が水イケメンを狙う他の種族を追い払うのだとしたら、どんな方法を取る……?
「……!」
「なにか思いつきましたか?」
「……水の中に、後宮を作る!」
「何の話?」
これだ!
きっとこれが彼らのハーレムを築く方法だ!
「ですが、一理あるかもしれませんわ。水の中に家を造る……つまり、水に棲めない他の種族を追い払うために、この都を水の中に沈める……ということでは?」
「! それは大変だ」
「ええ。かなりまずいですわよね」
「先ほどの国宝級イケメンであるスタイル良し男さん(仮)が、死んでしまう!」
「他の方々の心配もしてくださ…………、あれ?」
「? どうした魔女よ」
外見だけでいえば国宝級美女のヤナは、首を傾げた。
「彼も人間なのに……まるで、水霊族の側に立ったかのようなことを言うのですわね」
「! たしかに……」
この都を水に沈める算段が本当だとしたら、そもそも彼も生きられないのでは?
「うーん」
「うーん」
美女とイケメンエルフ騎士(※ヒーラーの姿)が腕を組みながら悩む姿は大層絵になることだろう。
だが、実際問題彼らの狙いは全く予想できない。
イケハン・マスター・ブレインをもってしても、何も分からない。
「ん?」
と、私とヤナのシステムに、休憩を促すアナウンスが入った。
久しぶりに聞いたナビさんのお声は、自我を抑えてただただプレイ時間が連続二時間を超えるため適度に休憩するように……と義務的な声が響いた。
「濃密な時間だな」
「本当ですわね」
サービス開始のスタダの雰囲気を味わい、ジェムリンカーやバブルミスティックの精霊さんたちに癒され。
水トカゲを成敗し、オルドフォンスさんやスタイル良し男さん(仮)と遭遇して、水トカゲパーリィ。
上々だ。
こんな濃密な二時間、リアルでは中々味わえまい。
「ありがとう、ブラエ・ヴェルト」
「感謝ですわねぇ」
イケメンはもとより、きゃわな精霊さん。
旅先でも滅多にお目に掛かれないようなファンタジーな景色。
全てにおいて、助かる。
「考えていても分かりませんし……ひとまず、休憩しましょうか」
「そうだな。ご飯も食べて、30分後?」
「と言ってもこの後すぐ会うんですけれど」
「それな」
ひとまず考えていても埒が明かないので、久々にお仕事ぶりを拝見したナビさんに従い、リアル休憩をとることにした。




