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17話 プロヴィデンス・ブライダル


「おー」

「活気がありますわね」


 改めて、活気あふれる商業地区っぽい大通りを探索開始。

 通りを正面に捉えると、目の前に広がるのは私たちの予想を超える規模の大通りだった。


「なるほど。めっちゃ大きい通りの真ん中を、水路が走っているってワケ」


 正面の石畳の道は、現実の道路と比べても横幅が広い。

 左手には店や建物が並び、右手には水路に沿って船やゴンドラ、あるいは水上カフェ等が並ぶ。

 そして水路を挟んで反対側には、全く同じような構造の通りがある。

 両側を足して一つの大通りなのだから、相当デカい通りだ。

 先刻の私たちはその全容を完全には把握しきれていなかった。


「観光の目玉の一つでしょうね」

「ショッピングエリアだな~」

「水上タクシーもあるみたいですわ」


 水路を行き来するゴンドラにはNPCではなくプレイヤーと思われる人々の姿も。

 何らかの方法で水上タクシーを解放できるのだろう。


 きっと、金だ。

 金が全てを解決するはず。


「やはり金か……」

「素材を売りましょうかねぇ」


 私とヤナはざわざわと活気溢れる通りに一歩足を踏み入れた。


「ほう……」

「やはりといいますか、潮の香りはしませんわね」


 人々の声が多く聴こえるこの場所で、時折水路でちゃぷんと水の跳ねる音が聞こえる。

 海辺の街のような雰囲気を醸し出すが、しかし香りは海とは異なる。

 やはりこの街は、あのグオ=ラ・クリマという神器がもたらした魔法水が溜まった、大きな湖の上にあるのだろう。

 周りの景色に見とれつつ石畳の上を歩く。

 と、ヤナが意気揚々とコツコツ鳴らしていた靴音が、徐々に元気が無くなっていく。


「それにしても……、はぁ。……ヒールって、歩くの大変ですのね」

「女の武装、舐めるなよ小僧」

「こればかりは反論できませんわ」


 どうやらリアルほどの靴擦れによる痛みはもたらさないものの、ヒールの高さが割とあるブーツを履いているヤナは歩きにくいようだ。

 いや、歩けるには歩けるのだが、歩き方が不格好になると言えばいいのか。

 本来の地面との設置点である(かかと)が底上げされることにより、歩く度に膝がカクンとなる。


 ヒールを履き慣れていないとあるあるな光景に、私は思わずヤナに称賛を送った。


「今は辛いかもしれぬ。……だが、挑戦した者だけが結果を得ることができるのだ」

「はい。頑張りますわ」


 ヤナが何を目指しているのかは不明だが、まぁリアルだと足が痛くなるしゲームの中で練習するに越したことはないだろう。


「──あら」

「どうした、魔女よ」

「見てくださいな」


 立ち止まってヒールについて語っていると、ヤナが水路の方を指差した。


「あれって……」

「結婚式?」


 見ると、ラッコさんのヴェールやイルカさんの尻尾リングなどをモチーフにしたかのような、明らかに何かを祝っているかのように神秘的で壮麗な装飾の施されたゴンドラが水路を通ろうとしている。


 周りには、ラッコさんとイルカさんが交通整理のために護衛騎士もびっくりなほど規則正しくゴンドラに着いて泳いでいる。


 そしてゴンドラに乗った二人……。

 水霊族のお嬢さんと、人間? の男性。

 男性はバブルミスティックの服装とタイマン張れそうな白いタキシード。

 お嬢さんは水霊族の伝統衣装なのか、頭部はラッコさんヴェールに宝石をあしらったサークレット。

 全体的に神秘的な踊り子や巫女のように所々肌や鱗を露出させた、レースが可愛らしい服装を身に纏っている。


 幸せそうに見つめ合い、祝福を送る沿道の者らに手を振り返す。

 ハピネスだ。

 このゴンドラを中心に、半径百メートル以内はハピネスに包まれている。

 イケメンハンターの出る幕ではないものの、……心地よい。


 さすがにゲーム開始当日にプレイヤーが式を挙げることは無いと思うので、NPCのイベントだろう。


「プレイヤー側のシステムにも実装されるんかねぇ~」

「されてもゲーム()()後でいいんじゃありません?」

「……ん?」

「?」


 ……?

 今、こやつはなんと──


「…………お、おうっ!? し、心臓に悪いわー。そ、それってもしかして伝説のぷ、プププ、プロ……プロ……」

「失礼。タイミングが大切だと言いますし、今のは忘れてくださいな」



 まさか、伝説の──ッ!!



プロヴィデンス(神の意志)!?」

「なんでだよ」


 噂には聞いたことがあった──

 想い合う者同士の前にだけ起こり得る現象……。

 そう、まるでちっぽけな存在である人間に突如として訪れる幸福……神の福音、世界からの祝福。


 この世は自分のためにあるとさえ錯覚しそうになる高尚にして至高の幸せ。

 まさか、実在したとはな……。


「俺にはまだ早い」

「まぁ」

「なぜならまだ、全てのイケメン(※二次元限定)を攻略していないからな」

「それ一生かかりますわよね?」

「ヤナよ。老いてもなお、我がイケメンハントを存分に見届けるがよい」

「!! それってまさか、伝説の──」


 どう受け取るかはそなた次第。

 しかし、イケメンハント(※二次元限定)界隈に、『終局』の二文字は存在しないのだ。



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