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プロローグ ~イケハン全一、降臨~


「──イケメンハンターの朝は早い……」


「イケメンが朝早いとは限らんだろ」

「……」


 正論論破、諸行無常。

 西高東低、冬の空。


 ああ、かなしきかな。

 心に北からの冷たい風が吹き込んできたかのようだ。


 こんなログイン初っ端(しょっぱな)開始ゼロ秒から夢も希望も打ち砕かれたのならば、何を糧に生きろというのか。

 君は、いったい何のためにゲームをプレイしているというのかね。


「……柳丸(やなぎまる)よ」

「ははっ」

「そなた……もし、眼前に推しの百合ップルが現れたら、どうする?」

「そ、それは……っ」


 ぐっと言い淀む相方。中身はただの社畜理系研究者の同居人。

 しかしこのフルダイブ型VRMMOゲーム『ブラエ・ヴェルト』の世界においては、現実世界の美女も裸足で逃げ出すほどの美しい顔立ち、豊満な胸元、細身の体型。長身のうえさらにヒールを着こなす、実にけしからん系美女キャラだ。

 リアルの性別と異なるキャラを選んでいるのは私も同じなので何も言えないが、それにしたってキャラメイクが凝っている。


 まるで自分が世界の神となったかのように、己の分身をゴッドハンドで創り出す……。ゲーマーにとって、馴染み深くも神聖なキャラメイクとは、一種の自己表現なのかもしれない。


「その……、あまりに尊きまばゆさゆえに草葉の一部となり、影に徹して息を潜め、全力で神に感謝しつつ拝み倒すかと」

「うむ」


 分かっているではないか。

 そう、『感謝』だ。


 クールな美形キャラがデレる瞬間も。


 俺様系なキャラが悲しき過去を打ち明ける時も。


 子犬系男子がいざという時に頼れる姿を見せる時も。


 全てにおいて、『感謝』でしかない。



 ──()()()()()



 この言葉が、推しという存在をマイワールドにて形作る。


 私はこの世界にイケメンハント……もとい、『感謝』を届けにきたのだ。


「ハンターとはいえ、何も狩猟するだけが全てではない。BでLなイケメンキャラ達を見付けるのはもちろん、我は彼らの安寧をも望んでいるのだ」

「はぁ……」


 言ってて自分でもなにを言っているのかはよく分かっていない。

 しかし、頭で考えるよりも先に口を飛び出す言葉……それにこそ、意味がある。


 現実社会では『空気を読んで』飲み込む言葉のなんと多いことか!


 たとえエア多数決を採って確実に相手に非があるようなことでも、相手の立場、気持ち、周りとの兼ね合い、さまざまな環境。

 すべてを瞬時に読み判断して、心と脳でこねくり回した『適切な』言葉を紡ぎ出す。

 それが人間社会。誰かの我慢や優しさで成り立っている。


 しかしそれで成り立つものを公然と『私のおかげっしょ!』等とは到底言えない。言う気もない。

 なぜなら、自分自身もまた気付かぬうちに誰かの優しさや我慢に助けられているかもしれないからだ。


 人が他人の心を100パーセント理解し合うことが出来ない世界、それも仕方のないこと。


 だからこそ。


 このVRMMO、つまり仮想世界において。

『自分』の欲、『自分』の正義、『自分』の望み。


 それらに忠実に従うというのは、現実の疲れを癒すという行為に等しいのである。


 もちろん全力でふざけるのはこの柳丸──ヤナと、NPC相手のみである。


 いくら仮想世界といっても各プレイヤーキャラの中身は人間だ。

 彼らは私と同様に傷付き、感動し、喜び、悲しむ存在。

 現実と同様の対応を心掛ける。


 本能に従い私の口から紡がれた『イケメンハント(※二次元限定)』。

 それこそ、心に宿す真の願望であり、我が使命なのだ──!!


「ゆくぞ!! イケメンの治安は──我が守る!!」

「あなたが一番危険ですけど……」

「何を言う! 我は【パラディン】ぞ!? 全てのイケメンを守りし者だ!!」

「イケメン以外も守れや」


 待っていろ、まだ見ぬイケメンNPC達よ!


 この夢女子にして腐女子。

 あらゆる癖をこじらせし者が──今行くぞ!!



※主人公の特性上、今後『イケメン』という言葉が頻出することとなります。

予めご了承くださいませ。

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