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オレのお気に入りに手を出すなんて、勇気あるなぁ
「クリオ様っ…」
「クリオ、おかえり」
「ただいま、フォル。顔を見せて」
言われた通り顔を見せる。クリオは私の頬を労わるように撫でて言った。
「赤くなってる。痛かったでしょ、ごめんね」
「クリオは悪くない。このくらいなんでもないわ」
「…」
クリオはもう一度ゆっくりとわたしの頬を撫でて、次にわたしの頭を優しく撫でた。
「オレのお気に入りに手を出すなんて、勇気あるなぁ」
ボソッと呟かれた言葉に、私のために怒ってくれているのだと悟る。
「私は気にしてない」
「オレは気にするよ」
そんな会話に被せるように、存在すら忘れていた彼女が叫んだ。
「クリオ様、なんでそんな小娘にそんなにっ…」
余計なことをする人だ。
別に元から庇うつもりはないが、これでクリオの怒りのスイッチはさらに入っただろう。
「…小娘、ね。この子はフォルトゥーナ。フォルトゥーナという名前があるよ」
「クリオ様っ…」
「…フォル、少しの間部屋に戻っていてくれるかい?」
「わかった」
彼女の横をすり抜けて、そのままドアを開けて部屋を出る。
背後から冷たい空気を感じたが、私にできることはない。