親子のようだけれど、別に養子になる気もないわ
クリオは私の立ち位置をはっきりさせない。
そのくせめちゃくちゃ可愛がる。
だから、私の存在を邪魔に思う人が出てくるのも無理はないことだった。
「…」
「聞いてますの?」
「クリオと結婚したいから、クリオがこぶつきだと困る。だから出て行け」
「そうですわ」
クリオが領地の視察でいない隙にきた、辺境伯家のお嬢様。
クリオとの結婚を夢見ているらしい。
だから、その邪魔になりそうな私を排除しようとしている。
「大体、クリオ様を呼び捨てなんて何様なのかしら」
「クリオが強要してきた。私のせいじゃない」
「…なんて生意気な子供かしら!」
生意気な子供であるのは否定しない。けれど、貴女もクリオのいない隙にきておいて偉そうにしないでほしい。
けれどそれを口に出せば余計に面倒くさくなることはわかっている。
黙っておこう。
「その服だって、クリオ様から与えられたものでしょう?服だけじゃない、今の生活の全てをクリオ様から与えられたのでしょう。申し訳ないと思わないの?」
「有り難いとは思ってる。クリオは私の恩人」
「なら、出て行きなさい」
「クリオが望まない限り、それはない」
怒りに燃えた目でこちらを見てくるお嬢様。
けれど譲るつもりはない。
「私の言うことが聞けないの!?クリオ様から寵愛を受けるのは私よ!貴女は邪魔なの!」
「クリオは私の恩人。クリオを裏切る気はない。クリオが望む限り私はクリオのそばにいる」
「このっ…」
「けど…私たちの間柄は親子のようだけれど、別に養子になる気もないわ。だからクリオはこぶつきなんかじゃないし、好きなアピールすればいい」
私がそう言えば、彼女はさらに激怒する。
「だから、そのアピールをするのに貴女が邪魔なの!消えてよ!」
「私がいるからって遠ざけられるならその程度。私がいてもいなくても関係なく、クリオから愛されることはない」
「この!」
パシンッと音がして、頬を引っ叩かれた。
「お嬢様!」
「ピエタ、気にしないで」
「貴女、お嬢様なんて呼ばれてるの!?なんて生意気な!」
さらにパシンッと頬を叩かれた。
けれどこの程度の暴力ならば、特になんともない。
もっと苛烈な暴力に慣れているから。
「貴女に何を言われても、何をされても。私はクリオのそばにいる」
「…どうして邪魔をするの!」
「邪魔なんてしてない」
そこに、聞き慣れた声が聞こえた。
「…なにをしているの?」
その声は少しだけ、怒りを滲ませていた。