とりあえず婚約で手を打とう
「まあ、そういうことで。十八歳を迎えるまでは、とりあえず婚約で手を打とう」
「そうね」
「オレと将来、結婚していただけますか?」
一応、ケジメだ。
フォルの前に跪いて婚約指輪を渡す。
フォルはまたも驚いた表情で固まる。
今日のフォルは珍しく表情豊かだ。
オレがそうさせたのだけど。
「驚いた。貴方そんなものいつのまに用意したの?」
「ふふ、フォルのために腕のいい錬金術師に急ぎで注文したんだ!デザインにもこだわったから、フォルによく似合うはずだよ。受け取ってくれるかな」
「もちろん受け取るわ。クリオと一緒に居られる証になるもの」
フォルの左手をとって、薬指に指輪をはめた。
フォルは珍しく瞳をキラキラさせて指輪を見つめる。
「こんなに素敵な贈り物、もらっていいのかしら」
「気に入ってもらえて嬉しいよ」
「だって貴方と一緒に居られる証をもらえるだけで嬉しいのに、貴方と初めてお出かけした大切な思い出の天の雫をイメージした婚約指輪をもらえるんだもの」
「あ、気付いてくれたんだ。フォルとの思い出といえばこれかなって」
フォルはオレの言葉に微笑む。
そして自分の指にはめられた婚約指輪に口付けをしてから言った。
「クリオ、クリオの婚約指輪は私が嵌める」
「いいのかい?じゃあこれ」
指輪を渡せば、フォルが慣れない手つきでオレの左手をとって薬指に嵌める。
「似合うかい?」
「ばっちりよ。私は?」
「もちろん似合う」
フォルに言う。
「じゃあ、これからフォルの戸籍を作るから」
「大丈夫なの?」
「うん、伝手はあるし方法なんていくらでもあるからね」
「詳しくは聞かないでおくわ」
「やだなぁ、ちゃんと合法な手段だよ」
フォルに聞かせる気はないけれど。
「戸籍ができたら、遠縁の親戚にでも頼んで名目上だけとはいえ養子になってもらうよ」
「うん」
「そうしたら婚約しようね」
「わかっているわ」
楽しみだなぁと頬を緩めるオレに、フォルは仕方のない人…と言いつつ婚約指輪を優しく撫でていた。




