貴方も幸せを感じて欲しいの
クリオが魔術書を片っ端から大量に買ってくれた。
私はそれを三ヶ月で読破して、魔術書に記載されていた全ての魔術を習得した。
その間もクリオはなにも変わらない。
私を幸せにすることだけを優先してばかり。
「ねえ、クリオ」
「なんだい?フォル」
「貴方は幸せ?」
「もちろん!オレは何もかもに恵まれているからね!」
多分、クリオのその言葉に嘘はない。
実際クリオは恵まれた人間だし、本人もそれを理解していて納得している。
でもだからといって、自分そっちのけで可哀想な子…私を幸せにしようとするのは歪だ。
だけどクリオは何を言っても変わらないだろう。優しくて、そのくせ認知が歪んでいるから。
私はクリオのおかげで幸せになれたが、もう幸せだよと言ったところでどうせ聞きやしないだろう。
「ねえ、クリオ。私は私に全てを与えてくれる貴方に恩返しがしたい」
「え、そんなの気にしなくていいのに」
「いいえ、私がそうしたいの。私は貴方のおかげで温かな寝床も美味しい食べ物も、清潔で素敵な服も得た。毎日安全で、貴方といる時はとても満たされている。だから、貴方にも色々なものを返したい」
「そっか。フォルがそんなにもオレとの生活で満たされたと思ってくれるなんて、嬉しいなぁ」
「ええ、だから見ててね」
クリオの頬を両手で挟んで、目を合わせて言う。
「貴方にもっともっと幸せを感じさせてあげる」
その日から私は、日常のちょっとした幸せをクリオに与えることにした。
「気持ちいい?」
「うん、気持ちいいよ」
クリオに肩もみをする。
正直クリオならいつだってプロのマッサージ師を呼べるだろうし、なんならヴィゴーレさんにでもやらせればそれで十分なんだろうとは思う。
けれど私がやることに意味があるのだ。
「手は疲れない?」
「ええ。貴方が気持ちよさそうにしてくれるのを見るのが幸せだから」
「そうか!フォルにとってはこれが幸せなんだね!」
フォルは変わってるなぁと言いつつもニコニコなクリオに手応えを感じる。
そう、そうして小さな幸せをたくさん感じでくれたらいい。
満たされている自覚があるからこそ、他者を…私を優先しようとする貴方だから。
私があげられるものなんて、このくらいだけど。
それで幸せを感じてくれたら、それが私には何より嬉しい。
「でも、フォルは変わってるね」
「え?」
「自分が満たされるより、オレが満たされるのを見るのが幸せだなんて」
「…そうね」
ならば変わってる者同士、やっぱりお揃いね。




