名前すらないらしいのでオレが与えてあげようね
商人が到着するまでの間に、この子に食事を与える。
お風呂に入って診察と治療を受ける間に、たくさん作っておいてもらってある。
「さあ、たらふく食べていいんだよ」
「ありがとう、いただきます」
手を合わせて食べるこの子は、食べ方も綺麗だ。
躾はされているらしい。
「美味しいかい?」
「ええ、とても」
もきゅもきゅと食べる姿は年相応に見えて可愛らしい。
ご馳走さまでした、と手を合わせた時にはテーブルの上の料理は全て無くなっていた。
「すごく良い食べっぷりだったね」
「お腹が空いていたし、治療は済んでいたから。すごく美味しかったわ、本当にありがとう。料理人さんも、ありがとう」
料理人はこの子の言葉に満足そうに笑って頭を下げた。
お礼を言えるのはいいことだね。
「さて、君の名前を聞いていいかい?」
「名前はないわ、アルビノの扱いなんて知っているでしょう?」
アルビノはその希少性から、魔術の触媒に使われることが多い。爪とか髪とか血とか。
そうでない場合は忌み子として虐待されることもある。この子の今まで受けてきた扱いは、それだけで予想できた。
けれど名前すらもらえていないなんて、なんて可哀想なんだろう。
「なら、俺が与えてあげようね」
「要らないわ」
「フォルトゥーナ」
フォルトゥーナ。この国の言葉で、貴女に幸運を。
「…そう、それが私の名前?」
「うん、どうかな」
「嫌ではないわ。わかった、これからはそう名乗ります」
世界には可哀想なものが溢れている。
本来の役目を忘れて私腹を肥やす神官も、自分たちの利益だけを考えて平民たちを搾取する貴族も、国のことだけを考えて国民のことは考えられない王族も、力無い平民たちや棄民たちも。
オレはこんなにも恵まれているのに、他の者たちはみんななにかが欠落している。
とっても可哀想だから、オレの手が届く範囲は全部助けてあげないと。
フォルトゥーナもとても可哀想な子だけれど、オレがこの手できっと幸せにしてあげようね。
「フォルトゥーナ、君はオレが守るからね」
「…貴方は私に優しくしてくれるけれど、貴方になんのメリットがあるの?」
「ん?メリット?」
なんの話だろうか。