この人ったら、気に入らない人はオーバーキルするのね
「ただいま、フォル」
「おかえりなさい、クリオ。随分と時間がかかっていたけれど、またどこかに行っていたの?」
「さっきの彼女に制裁をね」
制裁を、ね。
普段は狂ったほど優しいこの人でもそんなことをするのね。
「何をしたの?」
「彼女を連れて彼女の実家に行ったよ。そこで彼女のしたことを説明して、うちと縁を切るか彼女と縁を切るかを迫った」
「へえ、どっちを選んだの?」
「彼女は実家に縁を切られたよ。その場で勘当を言い渡されて、正式な手続きを済ませて貴族籍からも抜かれた。行くあてもなく困っていたから、彼女のような境遇でも受け入れてくれる娼館を紹介してあげたら泣いていたよ」
この人ったら、気に入らない人はオーバーキルするのね。
やりすぎだわ。
けれど私のためにそこまでしたのだと考えると、なにも言えないのよね。
「そう…貴方はそれでよかったの?」
「オレは昔から割と、自分の敵には容赦なかったし。いつものことだよ」
やだわ。
この人敵に回しちゃいけないタイプの人だわ。
「貴方って意外と怖い人ね」
「これでも貴族の中では優しい方だと思うけどなぁ」
「普段は狂ったほど優しいと思うわ。だからこそギャップが怖いのよ」
「オレが怖いかい?」
「正直、私は守られている側だからそんなには。でも、やっぱり怖い人だとは思うわ」
彼はその答えに笑う。
「フォル自身がオレを怖いなら話は別だけど、怖い人と認識しているだけで怖くはないなら別にいいや」
「勝手な人」
「貴族の生まれで勝手じゃない人なんて、オレはみたことないなぁ。というより、人間なんて元々勝手なものだろう?」
「それはそう」
勝手じゃない人間なんていない。
どんなに高尚な人間だって、少しくらいは自分勝手な面はあるだろう。
私が彼を怖い人と認識しながらも怖くないのは、彼が私を害さないと知っているから。
これだって十分に身勝手な話だ。
「まあとにかく、君を害する者は退けたから安心していいよ」
「ちょっと過激すぎるけど、ありがとう」
「頬はちゃんと冷やしたかい?」
「ええ、貴方が帰ってくるちょっと前まで氷嚢で。お陰でだいぶ治ったわ」
「でもまだちょっと赤いね。おいで、このくらいまで治ったならオレでも回復魔術でなんとかできる」
彼が私の頬に手を当てて回復魔術で治す。頬は完全に治って、それだけでなく切ってしまった口の中まで治った。
「ありがとう、もう大丈夫」
「今日は留守にしてごめんね。なるべくフォルのそばにいるようにするから」
「ありがとう。でも本当にもう大丈夫よ」
私に対してだけでなく誰にでも優しい人だけれど、私のためにこんなに苛烈に怒ってくれる。
怖い人なのに、なんとなく嬉しく感じてしまったのはきっと私もおかしいのね。




