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露店

「さてどこに行こうか」

リナは地図と観光ガイドを手に取りながら目的地を決める。

「私はとりあえず露店に行きたいかな」

「シルは言ったことないの?」

「小さいころ何度か来たことあるよ、でもいつ来ても楽しいからまた行きたくなっちゃて」

「それならまずは露店行こう」

お店を出て小さい路地を抜けると大通りに出る。両脇にはお店が立ち並んでいる。

「まだ空いていないね」

シルは人がまばらな通りを見てつぶやく

ちょっと早かったかなと思いつつ、私は懐中時計を見るとまだ8時半だ。

「ん~、この辺のお店が開店するのは1時間くらい後かな~」

「露店空いてる?」

シルは少し心配そうにこちらを見る。

「そのことなら朝市も兼ねてるから大丈夫だよ」

「朝市?村でやっているような」

「少し違うけどやっていることは大体同じ」

「それなら大丈夫そうね」

開店時間を気にしつつも通りを進む。

「さっきから気になっているけど、服装がみんなおしゃれ」

「確かに芋っぽくはないかも」

はははと私は笑う。村では朝の農作業を終えた人たちがその服装のまま買い物に出ていることは珍しくない。

「私の服装はどうかな…」

リナは気にするように自分を眺める。さすがに農作業着ではないので問題ないといいたい。

「大丈夫じゃないかな」

おしゃれ度はともかく街にいて不自然ではない程度ではあると思いたい…。

「あとで服屋にいく?」

「行きたいけど荷物になるからまた今度にする」

今日は収納袋を家に置いてきているため小さなポーチしか持ってきていない。

「確かに、服屋を回ったら一日つぶれそう」

「そんなにお店あるの?」

村には服屋は2件しかなかった…。ちなみにドレスコードと普段着の店が1店ずつだ。

私は観光ガイドの服飾ページを開いてリナに見せる。

「よくわからないけどこれくらいはあるみたいだよ」

するとリナは目を輝かせて。

「こんなに沢山…、しかも紳士と婦人服で店がわかれているなんてすごい」

とテンションが上がっていた。

しばらく通り沿いに進むと十字路にぶつかった。

「これどっちに行けばいいんだ?」

「広場があるほうだから右かな?」

と水路がない方の道をさす。

「りょうかい」

「こっちは食べ物屋が多いね」

「確かに、パン屋に生鮮食品、肉屋」

リナは店を声に出す。

「なんだかお腹すいてきちゃった」

私はおなかをさすりながらリナのほうを向く。

「さっき朝食食べなかった?」

「えへへ」

とごまかすように笑うと。

「パン屋行く?」

と提案してくる。

「もう少しで露店市場につくからそこで何か購入しよう」

「おっけい、私も何か飲み物買おう」

リナに了解を得られた。

「確かに私ものどが渇いてきちゃった」

「じゃあついたら少し休憩しよう」

「それがいいね」

と休憩タイムを挟むことが決まった。しばらく歩くこと10分

「とうちゃーく」

目的地に着いたことを告げる。

「ここが露店」

私はあたりを見回す。結構な広さの広場の中心には大きなもみの木が植わっている。それを取り囲むように木組みの露店がひしめき合っている。お店はそれぞれおしゃれな装飾が指定ありそれが相まって村の露店とは一線を画している。

「おしゃれ」

リナが目を輝かせている。

「村の露店はテントが並んでいるだけだったけどこっちはちゃんとお店になっている」

「どっちもお店だけどね」

私はリナに突っ込む。

村の露店は野菜や魚、干物など生活用品を販売していたため、生活感あふれる内容であったがこっちはアクセサリーや果物、お菓子など娯楽品が売られていてまるで遊園地に来たような楽しさを感じる。

「とりあえずおなかに入れるものを買いたいな」

「私は飲み物」

ひとつづつお店を眺めながら目的のものを探す。

「お菓子もチョコレートやクッキーからタルトやサンドイッチまであるよ、これは迷っちゃうな~」

するとリナも

「ジュースだけ売っている店や紅茶やコーヒーを扱っているところもある」

と色々と目移りしている。

「せっかくだからお互いに購入したものを交換しようか」

私が提案すると。

「ナイス提案」

とリナは親指を上にあげた。

さて、提案したものの何にしようか。私は小腹がすいているので大体何でも食べられるがシルはそうでもないはす。それならサンドイッチは選択肢から外れる。お菓子は私のおなかでは足りないのでタルトにしようかな。

洋菓子が陳列されているお店の前で商品を眺める。タルト以外にもパイやシュークリームが並んでいる。どれもおいしそうだ。決められないのでお勧めを聞くことにする。

「すみませ~ん」

お店の店主に声をかける。

「はいよ」

店主のおじさんが出てきた。

「おすすめはありますか?」

「そうだね、このなしのパイはおすすめだな。カナン地方でとれた新鮮ななしをパイ生地で包んで焼いたものだ。」

「りんごじゃないんですね」

「おうよ、リンゴも考えたんだがほかの店と商品がかぶっちまうからな」

おじさんはにかっと笑う。

「あとはこっちのタルトもおすすめだね。カンザス地方で採れた桃を使っている。どちらも今の期間しか食べられない代物だ」

「う~ん、どっちもおいしそう」

「ちなみにお嬢ちゃんはどんなものをお求めで?」

「小腹がすいたから何か口にしたいと思って」

「なるほど、それならこっちのシュークリームもおすすめだね。カスタードクリームがたっぷり入ってるから食べ応えあるよ」

「なやむ~」

期間限定というからには今しか食べられないのだろう。すると梨のパイか桃のタルトのどちらかになる。あとは好みの問題だが桃のほうがなんとなく甘そうだ。

「すみません、こっちの桃タルトを2つください」

「桃のタルトだね、袋は分けるかい?」

「あ、お願いします」

「了解、それじゃあ2つで銅貨30枚だ」

「わかりました」

私は財布から銅貨を3枚取り出すとおじさんに渡す。ちなみに銅貨100枚で銀貨1枚、銅貨10枚ごとに10とかかれた銅貨に両替できる。

「まいど、焼き直したてだから熱いので気をつけてな」

「あつっ」

袋越しでも熱が伝わってくる

「ははは、手提げ袋もあげよう」

おじさんは小さな紙の手提げ袋をおまけでくれた。

「ありがとうござます」

私は商品を受け取るとリナを探す。しまったな、待ち合わせ場所を決めていなかった…。とりあえず別れたところに戻ればいいかな。

広場の入り口まで戻るとすでにリナが待っていた。

「遅くなってごめん、待った?」

「ううん、私も今来たところ」

「待ち合わせ場所を決めていなかったけどすぐに会えてよかったよ」

「とりあえず入り口まで戻れば会えるかなと思った」

「はいこれ」

私は袋から個別包装されたタルトを取り出してリナに渡す。

「熱いから気を付けてね」

「うん」

リナは袋を手に取るとそーっと中身を取り出す。

「タルトだ!しかも熱い!」

「あはは、ちょうど焼き立てみたいだったんだ」

「おいしそう…、あっ、私の方はこれ」

腕に抱えた袋からカップを取り出した。

「これは?」

「コーヒーだよ」

「あったかい」

「まだ涼しいから温かいほうが良いかなって」

「ありがと」

「どこで食べようか」

「広場の中心にベンチがあったはずだからそこにしよう」

私は大きなもみの木を示す。

「おっけい」

露店を眺めながら中心まで少し歩く。シンボルマークともいえるのだろうか、もみの木の下に現地が複数囲うようにして並んでいる。

「よいしょっと」

腰を掛けてさっそくコーヒーを一口飲む。

「おいしい」

「でしょ」

にへっとリナが笑う。

「しかもあまり苦くない」

「おいしいでしょ、私も試飲したときびっくりしちゃった」

苦味は小さいが鼻をコーヒーの香りが抜けてしっかりと風味はする。

「しかも砂糖もミルクも入っていないんだ」

「え?ブラックなの?」

「そう、私も聞いたときはびっくりしちゃった」

「この豆なんて言うの?」

「カンザス豆っていうらしい。理由はカンザス地方で採れる品種だから。安直だよね」

面白そうにリナが解説してくれる。

「へー、ってカンザス地方?」

「うん、カンザス地方がどうかしたの」

「実は私が買ってきたパイに使われている果物もカンザス地方産なんだ」

「それは面白いね」

リナはパイを一口かじる。

「桃だ」

「そう、その桃は今が旬らしいよ」

「とても甘くておいしい、パイはサクッとしていて一口かじると桃がトロっと出てくる」

なんともよだれが出そうな食レポをいただいた。

「どれどれ」

私も一口食べる。

サクッという子気味良い音とともにパリパリの生地の触感が舌を伝わってくる。すると桃の甘い味が口いっぱいに満たしトロっとした果実があふれてくる。果実の周りには、はちみつだろうか、シロップがかかっているらしく桃の味と組み合わさって絶妙なハーモニーを奏でる。

「…これは、おいしい」

リナは無言でうなずいて二口目をかじる。

パイで甘くなった口をコーヒーが流してくれて交互に食べることで何度でも触感を味わえる。

「コーヒーもとてもよく合うね」

「たぶん甘いものを買ってくると思って紅茶かコーヒーで迷った」

リナは私が購入しているものを予想して合わせてくれたらしい。

「最後の決め手はこのコーヒーのおいしさだけど、このパイととても合っていてよかった」

しばらくの間2人は無言でパイを頬張る。その間私は改めて露店を見回す。広場の中心を取り囲むようにお店が並んでおり、さらにその外側を取り囲むようにお店が並ぶ。お店はよく見ると電飾で飾られており夜になるときれいに輝いているのだろう。冬になると雪が辺り一面を覆い幻想的な景色が広がるんだろうな。

とそのうちまたここに来ようと心に決めていると。

「私はもう少しこの辺を眺めたい」

と食べ終わったリナがいう。

「じゃあもう少し見て回ろうか」

「うん」

空になった包みとカップを袋に入れて鞄にしまい立ち上がった。

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