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朝の散歩

翌日目を覚ますとリナはまだ横で寝ていた。雨戸の隙間から朝日がうっすらと差し込む。リナの掛布団が半分はげており寝相の悪さは昔から変わらない。起こさないように静かに寝間着から着替えて部屋を出て階段を降りるとおばさんが朝食を作り始めていた。

「朝早いのね、疲れがたまっているからもっと寝ていると思ったわ」

「寝るのも早かったからかな」

おばさんはウィンナーを炒めながら会話を続ける。

「まだ6時よ、もっとゆっくりしていてもよかったのに」

「目が覚めちゃったから」

なははと私は返事をすると。

「はい」

とお茶が入った湯呑を渡してきた。私は受け取るとゆっくりと口にする。

「おいしい」

「それはよかったわ」

おばさんは満足げにほほ笑む。

「これ飲み終わったら少し散歩してくる」

私は空になった湯呑を洗うと玄関に向かう。

「気をつけて行ってくるのよ」

後ろから声が聞こえる。

「は~い」

返事をしながら外に出た。

家の玄関は店の入り口とは反対側にあり小さな通りに面している。外に出ると新鮮な空気が肺を満たし気持ちがいい。ゆっくりと背伸びをすると辺りを見回す。朝はまだ人気が少なく昼間の喧騒とは打って変わって静かだ。通りの両脇には魔道具の街灯と花壇が整備されている。

ぶらぶらと道を進むと大通りにぶつかった。周囲には散歩している人くらいしか見かけない。もう数時間するとお店の準備のためにせわしなく動き回るひとでいっぱいになるのだろう。

近くからパンの焼けるいい匂いが漂ってきて思わず吸い寄せ割れる。おしゃれな看板が掲げられたパン屋を除くと忙しく動き回る人影が写る。パン屋って大変なんだなと考えながら歩くと今度は水路に面した道に出た。昼になると観光客向けに小舟が出ているがまだどこにも影は見当たらない。昨日とは違う風景に少し新鮮な気持ちになりながら道を歩くと時計が目に入った。6時20分、ずいぶんと歩いていたようだ。空を見上げると太陽はだいぶ上に昇っている。今更ながらこれからこの街で暮らすという実感がわいてくる。思わず顔がにやけるのを感じつつ私は元来た道を引き返した。


「ただいま~」

「おかえり~」

シルの声が返ってくる。どうやら散歩中に起きていたようだ。

「散歩はどうだった?」

おばさんがいうと

「やっぱり私たちが暮らしていた村とは違って大きかった」

率直な感想が口からこぼれる。

「なら今度ゆっくりと散策するといいわ」

今まではおばさんの家に宿泊しても数日程度のためこの街のことはよく知らない。

「今度は私もいっしょに行く」

「それがいいわ」

私はおばさんの返事を聞き流しつつ水を飲む。

「さて、シルも戻ってきたことだし朝食よ」

食卓に朝食の支度を始めると部屋はいい匂いで包まれた。


今は2人で店の前を掃き掃除しているところだ。朝食後リナと二人でソファアに座ってゆっくりしていたが、店の準備のためにせわしなく動き回るおばさんを見ていると何か手伝おうと思い立った結果だ。

「お店の手伝いってどんなことするのかなぁ」

リナは落ち葉を片付けながら話す。

「ん~、私たちに難しいことはできないからレジや掃除とかじゃない?」

「魔道具に触ってみたかった」

とリナはこぼす。多分手伝いをしなくても魔道具には触られてくれそうだと思うが…。

「私はどんなお客さんが来るのか気になるな~」

「シルは知らないの?」

「今まではただ遊びに来ていただけだから実のところあまり知らないんだ」

「まぁ私も同じ立場だったとしても同じだと思う」

「それなりに儲かっているみたいだからリッチなお客なのかも」

「そろそろ開店の時間だよ」

おばさんは窓から顔をのぞかせると開店時間が近づいていることを知らせる。

私とリナは落ち葉を袋にしまう。

「これどこに持っていけばいい?」

おばさんは後ろを指さす。

「裏庭だね」

「了解~」

袋を拾い上げると家の横の細い路地に入る。しばらく進むみ木戸を開けると正面に落ち葉が山積みになっている。

「この落ち葉何に使うの?」

「なんだろう」

シルは袋を開けて中身を積み重ねる。

「掃除用具どこに片付けるんだろ…」

「聞き忘れた」

私は用語を持ったまま店の入り口に戻る。

「おばさん、これどこに戻せばいい?」

「店の奥に棚があるからすぐに分けるよ」

「おっけい」

店に入って中をうろうろすると新品らしき箒が無造作に並べてある箇所がある。多分ここではない。

「う~んどこだろう」

わかりやすい置き箱でもあるのかと思ったらなかった。しばらくうろうろしていると。

「シル、ここ」

とリナから声がかかる。横を向くとリナが棚のドアを開けて指をさしていた。

「ここかぁ~、ちょっとわかりにくかったね」

「私もだいぶ探した」

「商品の陳列棚かと思って不用意に開けられなかったからちょっとこれはわからないな」

掃除用具を戻してレジのほうへ進むと荷物の積み下ろしをしていた。

「これ運べばいいの?」

「あら助かるわ、こっちに運んでちょうだい」

手に取ると意外と重い

「重い…」

「素材が入っているからね」

おばさんについていくと裏庭に出て小さな小屋の中に入っていく。

「ここは工房よ、商品は大体ここで作っているの」

シルはあたりをキョロキョロと見渡す。私は小さいころ何度か来たことがあるのでなんとなく荷物をどこに置くのか分かった。おばさんは隅の一角に箱を積み上げると

「ここに乗せて頂戴」

と指示をする。

「よいしょっと」

リナはふーっと一息つく。

「これ何入っているの」

私が木箱を指さすと。

「魔石よ」

とふたを開けて手に取ってくれた。大きさは大体握りこむしくらいのサイズだ。

「小さな魔道具ならこれで半年くらいは魔力が持つわね」

「このサイズで半年ですか」

シルは興味深そうに手に取って眺めていた。この量を一体どこから購入したのか聞こうと思っていたところ。

「さ、開店時間ね。お手伝いどうもありがとう」

とおばさんにお礼を言われた。

「手伝いってこれだけですか」

リナはもう終わり?と言わんばかりの質問を投げかける。

「そうよ、接客は専門知識が必要だからちょっと難しそうだし、あまり無茶をさせるわけにはいかないもの」

「そっか残念」

するとおばさんはリナの目線の高さに顔を合わせると。

「やる気があるのは嬉しいわ、でもリナちゃんは来たばっかりでしょう。だからまずはこの街のことをたくさん知ってほしいわ」

「そういうことなら今日は散策する」

ふんす、とリナは気合を入れたポーズをとる。

「それならこの後は街をぶらぶらしよっか」

私はリナの手を取る。

「うん!」

と元気な声が店の中を響いた。


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