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夕食

目を覚ますとすでに日は傾いておりオレンジ色の日差しが部屋を満たしている。ここにきてようやく旅が終わったという実感がわいてくる。寝起きでボーっとしているためゆっくりと部屋を出て洗面所で顔を洗う。次第に頭が起きてくると荷物はリナが寝ている部屋に置きっぱなしだったことを思い出す。

「リナ、入るよ」

一声かけて部屋に入るとすでにリナはそこにいなかった。私よりも早く起きたらしい。荷物を背負い部屋を出ようとしたら1階からおばさんとリナの声が聞こえてくる。階段を一瞥すると再び部屋に戻り荷物を下ろす。こちらは後でもいいから今は下に降りて行ったほうが良いのだろう。

階段を下ると2人はキッチンにいた。おばさんは私の足音に気が付くと振り向き。

「起きてきたのね」

という。

「疲れがたまっていたのかぐっすり寝ちゃった」

私は伸びをしながらコンロを見るとパスタを作っていた。

「今日の夕食はパスタ」

リナは鍋に麺を入れる。

「私も何か手伝うことある?」

とおばさんに聞くと

「シルはどれくらい料理ができるの?」

と聞き返されてしまった。

「シルは料理が得意だよ、旅先中でもおいしいスープを作ってくれた」

リナが私の代わりに返事をする。

「あら、それならまだ汁物は作っていないからお願いしようかしら」

とお願いされてしまった。

「おっけい~」

保存庫の中身を空ける。保存庫は金属製の箱に冷気を放出する魔道具を取り付けて食材を保存する用途で使われている。

中身はベーコンとキャベツ、ニンジン、きのこその他色々。これだけあれば十分だ。

小さい鍋に火をかけるとベーコンとキャベツ、きのこを刻んでいく。沸騰したころにそれらを投入して上から塩と胡椒をまぶす。

「おばさん、調味料ある?」

私が聞くと

「調味料ならここに並んでいるわよ」

と棚の一角を指さした。

「どれどれ」

棚をのぞき込むと無数のビンが並んでおりラベルが貼られておる。私は蓋を取ってひとつづつ少量小皿に盛り付けて味を確認する。すると肉と野菜のうまみを凝縮したようなものがある。思わず

「おいしい、おばさんこれ何?」

と聞くと

「それは肉と野菜を煮込んで出た出汁を乾燥させたものね」

と言われた。出汁を乾燥させる発想は私にはなかった。

「凄くおいしいね、これなんていうの?」

「何だったかしら。何か書いてあったとは思うけどちょっと思い出せないわ」

「ふーん、市場で売ってたの?」

市場とは露店市のことだ。すると

「調味料屋ね」

と言われた。どうやら違ったらしい。しかし調味料屋ってことはそれだけを扱った店があるということだろうか。さすがだ、私のいた村ではそのような便利な店はなかった。

「便利な店もあるのね、これ使っていい?」

「いいわよ」

許可をもらったのでまずは少量を鍋に入れる。しばらくしてから味を確かめると少し薄い。何度か調節して最終的に小さじ一杯分の分量を使用した。

具材に十分火が通ったことを確認して

「できたよ」

と完成した旨を伝える。

「シル、早いね」

リナはフライパンにとなとソースを入れている最中だった。

「ほんとに料理が得意なのね、手際がとてもよかったわ」

おばさんからと褒められた。

えへへと喜んでいるとパスタのほうからもよい香りが漂ってくる。ジュウジュウという音も相まっておなかが減る。

しばらくパスタを炒めたのちハーブを上からまぶすと

「完成ね」

とおばさんが相槌を打った。

「シル、皿を持ってきてちょうだい」

「はーい」

食器棚から皿を取りだし机の上に並べるとおばさんは上からパスタを盛り付ける。リナのほうを向くとスープを盛っている。

食卓にはたちどころに食事が並びあっという間に夕食の準備が整った。今日の夕食はトマトパスタ、スープ、サラダだ。

「それでは食べましょうか」

という合図ののちまずはパスタを手に取る。するとニンニクのにおいが鼻腔を刺激し食欲がそそられる。まずは一口食べるとトマトとベーコンのうまみが口の中を満たす。

「おいしい」

と思わず声がこぼれる。

「でしょ~、おばさん直伝のパスタ料理」

リンがエッヘンと体を張る。

「リン今度教えてね」

というと

「任せて」

と自信ありげにうなづく。

「こっちのスープもおいしい、短時間でこれを作るとはさすがシル」

「ほんとね~」

リナにおばさんが相槌を打つ。

「調味料がおいしかったからだよ」

私は照れ隠しでスープを口にすると、濃厚なうまみが口に入り、思わずゆっくりと味わってしまった。そんな感じでワイワイと夕食を食べていると。

「ところで私たちはこれからあの部屋を使っていいの?」

とリンが口を開いた。

「そうね、それでもいいけどもう1つ選択肢があるわ」

とおばさんがいう。

「シルは知っていると思うけどもう1軒家を持ってるのよ」

「そうなの?」

とやや驚いた表情をするリナ。無理もない、この街で2件も家を所持しているということは店がかなり繁盛している証拠だ。

「ただ今は空き家になっているかそっちに住むっていう選択肢もあるわよ」

「家が2件も…すごい」

「昔はお店ももっと小さくてもう1つの家から通っていたのよ、でもお店が軌道に乗ってから陳列スペースを広くしたくて今の建物を購入したの」

「魔道具屋ってそんなに儲かるんだ…」

リナは興味津々で聞き入っている。

「おばさんは商才があったからね~」

私が相槌を打つと。

「あらやだ、商才なんて。私は好きにやっているだけよ」

うふふとおばさんが笑う。

「好きにやっているだけ…」

リナは言葉を失う。無理もない友人のおばさんだと思っていたら優れた商売人だったのだ。

「昔から魔道具の着眼点がすごいんだよ」

と私は追撃をすると。

「そんなに褒めても何も出ないわよ」

と嬉しそうにした。

「そういうわけだから私としては賑やかになるからこっちに住んでほしいところではあるけど、2人の将来だから自分で決めてちょうだい」

と言われた。

「でもほんとに空き家を使っていいの?」

と私が遠慮がちに聞くと。

「魔道具は使わないと錆びるでしょ、それと同じで家も使ってあげないと痛むのよ。それにいつまでも空き家じゃ治安も心配になるし」

なるほど確かに言われてみればその通りかもしれない。でもこの街にいたって治安の心配はないと思うけど。

「明後日は定休日だから案内するわね」

とさっそく案内の予定をしてくれた。

「明日はお店があるから適当に過ごしてね」

「なら明日はお店のお手伝いをしたい」

リナが突然提案してきた。

「お世話になっているしそれくらいはしたい」

「あらよくできた子ね」

とおばさんは感心するがその認識は甘いとリナと長年過ごした私の感が告げている。

「実は商売繁盛している魔道具店が気になっているとか」

私がそういうとリナは

「ばれたか」

といたずらをごまかすような顔をした。

おばさんはくすくす笑うと。

「じゃあ明日はお店のお手伝いね、とはいっても危ないことはさせてあげられないけど」

危ないことが一体何か気になりつつも

「ありがとう」

と私とリナは返事をした。

夕食後談笑をしながらゆっくりすごしたのち寝るために部屋に戻るとシルがいた。

「どうしたの?」

私が訪ねると

「ちょっとだけ」

といっていずに腰掛ける。

「これからのことを想像したら眠れなくなっちゃって、リンと一緒に暮らすのを楽しみにしていたらお世話先が一流魔道具屋さんでおまけに家を借りられるなんて夢にも思わなかった」

リナの気持ちは理解できる。私も逆の立場だったら同じことを思っただろう。っていうかリナの中では家を借りることは半分決定事項らしい。

「えい!」

わたしはリナに抱き着くとリナはびっくりした表情をする。

「どうしたの?」

「考えていても眠れないから一緒に寝よっか」

私は眠くてこれ以上は起きていられない。

するとリナは少し恥ずかしそうに頷いた。


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