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おばさんの家

店を出ると時間はお昼後近くになっていた。ひんやりとしていた空気が温かくなり太陽が昇ってきたことがわかる。人通りも多くなりそれなりの活気がある。

「人が多くなってきたね」

リナはあたりをきょろきょろしながら歩く。

「ん~、活気が出てきた」

「朝は意外と落ち着いた街なのかなと思ったけどやっぱり観光地のことだけはある」

「私たちの街はここまで大きくないからいつ来てもわくわくするね」

「えっとおばさんの家はこっちだったかな」

私は地図を広げて道順を確認する。たしか大通りから1本入ったところにあったはず。

「え~っと」

私が迷っているとリナが横から覗き込んでくる。

「どれどれ」

「そこを左に曲がって2ブロック行ったとこだと思う」

「こっちか」

十字路を左に曲がり少し歩くと目的地が見えてきた。

「で、ここの通りを進めばいいのね」

通りを抜けると周囲には花壇が整備されている小奇麗な道に入った。目の前にはベンチがありその脇にはお洒落な街灯が立っている。日当たりもよくとても過ごしやすそうなところだ。前を向くとリンおばさんの家だ。

「リナあったよ」

わたしはおばさんの家を指さしてリナに知らせる。

「お、あそこか~」

リナは家まで駆けていくと入り口で止まった。

「魔道具屋…」

リンは垂れ下がった看板を読んで固まった。

「シル!おばさんの家って魔道具展だったの?」

「え?そうだよ。言ってなかったけ?」

するとリナは不満げに

「聞いてないよ!」

と声を上げた。

「リンおばさんはこの町の知る人ぞ知る魔道具展なんだ」

「さっそく入ろうよ!」

リナは興奮気味に私を誘った。

「んじゃ入りますか」

私が玄関を開けると鈴の聞き心地のよい音が鳴る。目に入ってきたのは掃除が行き届いたこぎれいな店内。棚を見ると用途のわからないものがたくさん陳列されている。

「おばさん~、ひさしぶり~、シルだよ~」

私は大きな声でおい札をすると店の向こう側から足音が聞こえてきた。

「シル!久しぶりね!大きくなったじゃない!」

久しぶりに会ったおばさんは嬉しそう抱き着いてくる。

「ちょっと恥ずかしいよ~」

私は横でニマニマしているリナを見ながら答えた。

「リナちゃんね、お久しぶり。とはいっても前にあったのはもうずいぶん前のことだけれど」

おばさんは私を開放するとリナのほうを向く。

「リンさんお久しぶりです、これからお世話になります」

「あらあら礼儀正しい子じゃない」

おばさんとリナが話している間私は店の奥に進む。店の奥のドアを開けるとそこからは居住スペースだ。居間に入ると荷物を下ろす。途端に体が疲れていることに気が付く。

「ふ~、疲れた」

思わず口ずさんでしまった。

「あらお疲れ様、野宿だったから疲れたでしょ」

おばさんはいつの間にか私の横に来ていた。

「ん~、さすがに別途で寝るよりはね~」

「一日ならともかく数日続くと疲れがたまってくる」

リナが私の続きを言う。

「さて、そろそろお昼の時間ね。少しその辺で休んでいてちょうだい」

おばさんはそういうとキッチンに向かっていった。

「シル、私たちここで暮らすんだよね」

「たぶんそうだと思う」

私は曖昧な返事をする。というのもおばさんはこの町にもう一つ家を持っており、私たちが遊びに来ると時折利用していたのだ。

「う~ん、詳しいことはおばさんに聞かないとわからないかな」

私は続けて言う。

「そっか」

リナはそれだけ言うとソファーに大の字でねころがった。数日とはいえ旅慣れしていないためリナも流石に疲れたようだ。

「風呂に入ってそのまま寝たい」

リナはボソッとつぶやく。私も同感であった。

昼食はコーンスープとサンドイッチ、サラダが出てきた。なんでもお店のほうもあるため簡単に済ませることが多いそうだ。とはいってもタリナ産、野菜はどれもみずみずしく、サンドイッチに挟まっていたハムも肉厚でとてもおいしかった。


「さて、お風呂が沸かしておるから入ってきなさい」

おばさんは私たちの心を見越していたのかお湯を沸かしてくれていた。

「おばさん最高~」

わたしはそれだけ言うと風呂場に駆け込んだ。

「ふぅ~」

風呂場には水か滴る音がする。木で作られた風呂場はぬくもりを感じとてもリラックスできる。魔光灯が明るく輝き湯気をぼうっと照らす。木製だから腐らないかって?実は魔道具のコーティング魔法が使用されているからいつまでも新品同様の輝きを見せる。その魔道具はなんでもおばさんの自作らしい、さすが魔道具屋。

疲れた体にお湯がしみわたる。どういう原理かわからないが風呂の温度は40℃に調節されている。お湯は魔道具でろ過されて循環している、わかりやすく言うと旅館のお風呂のあれだ。こんな素晴らしい設備を作っちゃうのだから全く恐れ入る。

「あぁ~」

リナはおじさんのような声を出すとブクブクと顔半分まで沈んだ。

「やっぱりお風呂は最高ですな」

「ごくらくごくらく」

私は満足げに湯船につかるリナを見ると旅が終わったことを実感してほっとする。

「まさかお風呂があるとは思いもしなかったよ」

リナがいう。

「私もここまでお風呂の設備が充実していたとは予想外だった」

「私の家にもシャワーはあったけどお風呂まではなかったな」

平均的な庶民の家は風呂が付いていない。大抵大衆浴場に行くのだ。

「私の家もそうだよ~」

お風呂最高!

しばらくお互いに無言になりぼーっと湯船につかる。次第に体が温まってきて汗をかいてくる。

するとリナが立ち上がった。

「私はそろそろ出る。のぼせてきちゃったから」

リナを見ると顔が赤くなっている。

「それなら私も出る」

大体10分ほどだろうか。久しぶりに入ったお風呂で体がすっきりしている。

リナと一緒に出ると脱衣所でおばさんとあった。

「ほら、タオルよ」

おばさんは新品のようなタオルを差し出してきた。

「ありがと~」

私はタオルを受け取り体をふく。

「お風呂最高だった」

リナがボソッとつぶやく。

「わかる」

私はそれにうなずいた。


台所で水を飲むとのぼせた体が引き締まるような感覚を覚える。

しばらく2人して無言で水を飲んでいた。

椅子に座ると私たちは魔法で温風を作り出して髪を乾かす。

「その魔法便利ね」

おばさんは興味深げに私たちの魔法を見る。

「これ便利ですよ、髪を乾かす以外に冬は部屋を暖めることができますから」

リナは呆けた顔でおばさんと会話をする。

「その魔法について後で教えてもらうことはできる?」

「いいですよ、泊めていただいているのでこのくらいなんでもありません」

魔法は人によってはその術式を秘匿している場合もある。したがって簡単に人に教えるというのはあまりない。しかし私たちの場合は主に生活の質を向上させるために用いているため人に教えることに特に抵抗はない。まぁ魔術教室を開いて魔法の伝授と称してお金をいただくこともできるがあいにくというか今後もそんな予定はない。

「あら、いいの?」

おばさんは嬉しそうな顔をする。大方おばさんのことだから魔道具にできないか考えるのだろう。

「魔道具にするの?」

私が確認をこめていうと。

「そうよ、これは商売チャンスだもの」

とウインクしてきた。

「でもタダでというわけにはいかないわね、アイデア料と売り上げの何割かは支払うわ」

それはうれしい提案だが。

「いいんですか?」

とリナも同じことを考えていたようで確認をすると。

「当り前よ、人様の魔法で商売をするんだからね」

と返答した。

「それじゃありがたくいただきますわ」

と私は了承した。ここにさりげなく口頭ではあるが商売契約が成立したのである。さすがおばさん、抜け目ない。

すっかり髪が乾いたころ、温まった体が冷えたためか急激に眠気が襲ってきた。リナもうつらうつらとしている。

「おばさん、眠くなってきちゃった」

「私も」

とリナも睡魔と闘いながら反芻する。

「それなら2解の客間を使っていいから夕食までゆっくり休んでいらっしゃい」

と部屋を教えてくれた。

「リナ、行こう」

私は荷物を持ち上げるとリナと一緒に部屋を出て行った。

2階は居住スペースとなっているがキッチンやお風呂など主な生活機能は1階にあるため2階は寝室となっている。

客間と掲げられた表札がついたドアを開ける。中に入るとベッドと机という簡素なつくりになっている。部屋の中は十分に掃除がされており私たちを迎え入れるために準備がされたことがうかがえる。

「シル、ベッドが一つしかないけど」

リナがベッドを指さす。

「確かもう一つ客間はあったはず」

リナの手を引いて部屋を出ると隣にも同様の部屋がある。

「じゃあ私はこっちにするね」

と隣の部屋に入っていく

「うん」

リナは眠そうにしながら初めに入った部屋に戻っていった。

私はこちらの部屋も見渡す。つくりは同じである。窓から日差しが差し込んで宙を舞う埃が輝いて見える。ベッドに吸い込まれるように倒れこむと眠気に加えて疲労感が出てくる。

私は何も考えずにそのまま眠りに落ちた。


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