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街に到着

「ん~、よく寝た…」

リラは寝癖が付いた髪をわしわしとかくと時計を見る。

「もう5時か…、眠いけど起きるか」

旅の朝は早い。移動できるのは日が出ている間なので寝坊していてはもったいないのである。

火の消えた焚火のほうに向いて魔法で火をつけると収納袋からポットを取り出してお湯を沸かす。しばらくぼーっと火を見つめていたら隣でもぞもぞと動き出す音が聞こえる。

「ん、リラ?おはよ~」

私は寝ぼけ眼をさすりながらリナのほうを向く。

「お、寝坊助さんが起きましたな」

「いや寝坊けて」

まだ日が昇っておらずうっすらと明るいだけだよ~。

リラはコップにお湯を注ぎ渡してくれた。

「はい」

「ん、ありがと」

お湯を飲むとふと気が付いたように渡されたコップをリラに渡す。

「これリラのコップ」

「あら」

寝ぼけているのは2人ともらしい。

焚火にパンをかざして温めている間に出発の準備をする。マットと寝袋をしまうと手早く朝食を済ます。

「さぁ、いこっか」

「おっけー」

朝日に照らされた道のりを軽い足並みで歩く。草木は朝露に照らされ、日光を反射する。澄んだ空気の中キラキラと輝き気持ちを上昇させる。

「今日のお昼ごろにはつくのよね」

「何事もなければそうね」

「出発したときは長いように感じたけど始まったら短かったわね」

「楽しい時間は短いからね」

リラは少し名残惜しそうな表情をする。

そんなリラを見て私は

「でも町に着いたらベッドで寝れるよ」

というと

「確かに、そういわれると早く到着したくなってきた」

とリラは気持ちを持ち直す。

「全く、調子が良いのだから」

「まぁね~」

と雑談をしながら道を進む。

しばらく歩くと森を向けて視界が広くなる。見渡す限りの草原だ。風がほほを抜けて思わず伸びをする。

「ん~、気持ちい」

そんなリラを見ていると思わず

「ふわぁ~」

とあくびが出る。

「向こうに見えるのが目的地よね」

とリラが正面に小さく見える街を指さす。

「そうだよ、あそこがタリナの街」

「へ~、どのんなところなの」

「そうだねー、まず水がきれいでおいしいの。地下水を利用しているんだけど水脈の近くに魔鉱石の鉱脈があるらしくてそこから染み出しだ魔力が水を浄化しているんだ」

と私は得意げに解説する。

「あとは水がきれいなので肥沃な大地においしい野菜が育つ」

「なんだかおいしそうなところだね」

「ん~、いつ行ってもタリナの食材はおいしいからおすすめだよ」

するとリラは

「はやくタリナに着きたくなっちゃた」

とやや早足になる。


しばらくすると脇道に小川が現れ、道なりに沿って街まで続いているように見える。

「うわぁ、ほんとに奇麗な水だね」

とリラは水をすくって飲む。

「ぷはぁ~、おいしい」

「でしょ~」

「さ、いそごう」

「おっけ~」

草原を歩くと次第に花がぽつぽつと視界に現れ、その数が徐々に増えていく。横を振り向くとスライムが眠そうに日向ぼっこをしている。自然界でも食物連鎖の下層に位置するスライムが無防備であることを見るとここら辺には外敵が存在しないことが見て取れる。

するとリナが

「ここら辺はスライム以外のモンスターは何がいるの?」

と質問してきた。

「スライム以外だと…蜂や草食動物系かな?」

「あれ、ずいぶんと平和なんだね」

「昔は肉食系のモンスターもいたんだけど、その肉がおいしいからほとんど狩りつくしてしまったんだ」

「そんなことが」

「水がきれいだと植物もおいしいでしょ、その植物を食べたモンスターは栄養価が高くて、それを食べたモンスターは肉質が良いらしいよ」

「へぇ~」

「だからタリナでは畜産も主要産業の一つなんだ」

「なるほど、シルは詳しいね」

「えへへ、むかしリンおばさんに教わったからね」

と雑談を交えながら歩くこと数時間、目的地に到着した。

「はいとうちゃく~」

「ふ~、やっと着いた」

「早いようで長い数日だったね」

「お疲れですな」

「こっちこそお疲れ」

「じゃあ入ろうか」

門をくぐると視界に入ってきたのは木調を基準としたお洒落な街だ。あたりには水路が流れそのわきには花が咲き誇る。石畳の上はきれいに掃除されておりゴミ一つ見当たらない。普段から手入れされていることがよくわかる。

「きれいでしょ」

私はリンの前に回り込むとにへへと笑う。

「想像してたよりすごくきれいなところでびっくり」

「まぁね~、一応有名な観光地の一つだし?」

「街だけど空気が澄んでて気持ちいがいい」

「草原からくる風が吹いてるからね」

「これで飲料水もおいしいのは無敵」

「えーと、こっちかな」

シルは行き先を指さす。しばらく水路に沿って進む。周囲にはところどころ商店があり、買い物客でにぎわている。

「今日は太陽の日だから観光客も多いね」

「さすが観光地だけのことはある」

「街がおしゃれだからか看板もおしゃれだね」

リンは建物から吊るされた看板を見ていう。

「ふつうは文字で書かれていたりするところが絵で描かれてる」

「でもこれだと何屋かわからないところもあるね」

「それは実際にお店に入ってみるまでのお楽しみ」

「確かに言えてる」

するとお店の扉が開いて客が手出来た。

「まいどあり~」

間延びしたような声が響き店主が出てくるとこちらに視線を向ける。

「おや、お嬢ちゃんたちそんなところで立ち止まってどうしたんだい?」

「この店の何屋か話していたんだ」

看板を指して答える。

すると店主は

「あぁ、これかい、ちとわかりにくかったかね~」

と頭をかき

「で何を売っているかわかったかい?」

とにやりと笑う。

「う~ん、スプーンとフォークが彫られているから食器?」

とリナが言うと

「おや、大正解だ」

するとリナはふふんと嬉しそうな表情をする

「入ってみるかい?」

店主はドアにもたれかけながらいう

「リナ、せっかくだから行ってみようよ」

リナを誘ってみる

「おっけい」

リナは二つ返事で答えるとさっそく店の中に足を踏み入れる。

「わぁ~」

私は店を見渡して感嘆の声を上げる。地元にこのような専門店はなかった。あったとしても実用品が取り揃えある雑用品店くらいだ。

「食器がいっぱい」

リンも感心したように声を出すとしげしげと陳列棚を眺める。棚には所狭しと様々な模様の食器が並べてあり、中にはステンドグラス製のコップまで取り揃えられてある。どれも白を基調としている。

「落ち着いた雰囲気のものが多いですね」

近くにあった食器を手に取って店員に尋ねる。

「うちの顧客は貴婦人が多いからね、あまりカラフルなのは仕入れないんだ」

「ふーん、ってことは値段もするんですか」

「そうね、大体銀貨数枚ってところね」

「わお」

平均的な庶民の食器は銅貨数十枚程度、それを考えると高級品の分類だ。

「お嬢ちゃんたちせっかくだから何か買っていくかい?」

リナと目を合わせる。欲しいといえばほしい。しかし銀貨数枚はそこそこの大金だ。支払えないわけではないが初日からこのような高価なものを買ってよいのか。

「うーん」

しばらく思案していると

「せっかくだし少しまけとくよ」

と店員はサービスを促してきた。

「リナどうしようか」

とリナに聞くと

「私は欲しいな。せっかくだから」

「ん~、じゃあ買っちゃうか!」

「そう来なくっちゃ」

と店員は嬉しそうにいう。

「でもどうしようか」

「そうだね~、私は普段使いのできるものが良いかな。せっかく購入したのに棚にしまいっぱなしはさみしいから」

とリナに提案する。

「私も賛成、それならこれはどうかな」

リナは棚から中くらいの皿を取り出す。

「これなら銀貨2枚だから私たちでも購入できる」

「う~ん、お皿か」

お皿なら毎日使うことは確定。でもおばさんの家に宿泊するなら食器は借りることが多そうだ。

「リナ、こっちはどう?」

私はコップと手に取って見せる。

「コップか~、確かにそっちもありかも」

「コップならおそろいで二つ購入できるよ」

名札を見ると2つで銀貨1枚だ。ここの商品の中では比較的良心的な値段だ。それにおそろいというのも悪くない。

「お揃いはいいと思う」

「いくつか種類があるけどどれにする?」

陳列されているコップにもマグカップ、ティーカップ、円筒形のコップなど種類がある。普段使いも兼ねるとマグカップが良いだろうか。そんなことを考えているとリナがとあるマグカップを手に取った。

「これ…」

それは四葉のクローバーがワンポイントの柄、その上下に二重線で線が描かれている。

「色違いもある」

リナはどうやら気に入ったようだ。色違いとは言っても線の色が異なるシンプルなものである。リナの様子を見ていると自然と口からこぼれた。

「それにしよっか」

「うん、なら私は黄色にする」

「私は水色かな~」

すると様子をみていた店員は

「お、お嬢ちゃんたち決まったのかい」

と話しかけてきた。するとリナさっそく

「はい、これにします」

とコップを見せる。

「あぁ、これかい。これは家族用に販売しているやつだね」

「家族用ですか」

とリナは反芻する。

「そうさ、柄の色が少しずつ違うだろ」

私はコップをしげしげと眺めて

「なるほど」

と納得したような生半可な返事をした。

「確かに家族は悪くないですね」

リナはこちらを向く。いわれてみればこれからリナと私は一つ屋根の下で暮らすことになる。家族といっても差し支えないかもしれない。

「そうですね」

と私が答えると。リナは満面の笑みで答えた。


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