チーターとグリッチ使いは、両方性根が腐ってるので実質同じ
こんにちは、みなさん。
トモヤ オダカズです
今日の気温は19℃、降水確率0%の絶好の買い食い日和です。夕焼けの桜並木に見守られる下校中。俺は今、四散して宙を舞っています。
目の前を俺の脚や腕が通りすぎていきます。あれは肝臓かな、綺麗ですね。
高二初日の昼下がり。くるくると回転する視界に一瞬、ツインテールの女の子が見えた気がしました。あぁ、周りが暗くなってゆく。
死ぬのかな、俺。
ボサボサ頭の担任が出ていくと、教室中に緊張のほぐれた声や「磯野、サッカーしようぜ!」などの、いかにもーなモブクラスメイト達の話し声が溢れだした。
やっとおわった初日のホームルーム。背骨にこびりついた気だるさをぐぐっと伸ばして、もう二度と見ないであろうプリントをカバンに詰めこむ。
あぁ、今日はなんて清々しい日なのだろう。この日をどれだけ待ち望んでいたことか。
己が指名を全うするため、気配を殺して席を立つ。
しかし、もはや教室の空気と一体化したはずの俺の前方に、チョモランマ級の障害が立ちふさがった。
文字通り、教室の入り口に立ちふさがったのだ
「トモカツー、トモカツよぉ、帰ろうぜ」
エンド ハルカ
身長は俺より2cm高い171cm(まぁ同じ身長といっても過言ではないが)
獰猛なアナコンダのような腕とパツパツの胸板から繰り出されるチョークスリーパーは、小学生のころから幾度となく、俺の意識を落としかけた。
悪い、ハルカ。
いつもなら一緒に帰るのだが今日は、今日だけはダメなのだ。
なぜなら今日は、エイプリルフール特別仕様の『美魔女戦士アックスバスター 大峰橋ことよ 1/8フィギュア 13年越しのセーラー服Ver.』の発売日なのだから。限定1000体のシリアルナンバー付きだ。
俺は意を決して巨大人喰いアナコンダに立ち向かう。
「すまないハルカ、俺にはやらなきゃいけない事があるんだ」
出来るだけ冷静に、ほのかな焦りを匂わせる
あぁ、なんか大事な用事でもあるのかなぁ
と思わせることにより、俺は穏便にこのピンチを切り抜けられるはずだ。
「なんだよ、超絶美少女との下校より大事な用事があるのかよ」
しかし俺の足掻きも全く意に介さず。無駄な足掻き。濡れた野良犬のごとき無力感。
しまった、こいつは何にでも首を突っ込む女だった。
しかしその自信はどこから来るのだろうか。美少女の美しさが筋肉にあるのなら、なぜ美少女アニメには上腕二頭筋を鍛えるシーンが無いのだろう。
こうなれば、奥の手を使うしかあるまい。
「そもそもいつも一緒に帰ってるんだからいいじゃないか。それともなにか?、そんなに俺が好きなのか?」
そう、好感度を落とすことによる強制ディスエンゲージ。諸刃の剣である。
勘違い男に近寄る女はいない、それがこの世の理である。
すると二匹のアナコンダが、素早く俺の首に巻き付いてきた。
これは、まずい。
「な、なにいってるんだよ!そ、それはお前がその…弱っちいから守ってやろうと!……」
逞しい腕と、弾けんばかりの胸筋が、俺の首を万力のように締めつける。
何かを早口で喋っているようだが、酸欠の脳にそれを理解する力は残っていなかった。
「俺はっ…!筋肉にはっ…!屈しない……っぞ……」
薄れゆく意識の中、大峰橋ことよさんのフィギュアが俺に微笑んでくれる幻想を見た。
「ま、まぁ今日は一人で帰ってやるよ。後悔しても遅いからなっ!」
そういって走り去っていくハルカは、なぜか耳が真っ赤だった気がした。
17時のチャイムで目が覚めた俺は、教室でひとりぽっち。おのが命運を悟った。
テゥイッテーでは完売しましたと言う公式アカウントの呟きに、大きいおともだちが、数人ほど噛みついていた。
メリケレでも早くも数百のことよさんが、定価の4倍近い値段で取引されていて、真の従者達の迎えを待っていた。
ことよさん、俺がもし美魔女戦士の従者なら、叶える願いは転売ヤーの撲滅だろう。
荷物をまとめた俺は、敗残兵のようにふらふらと下校を始めた。
夕陽は優しく俺の背中を撫でてくれた。自分のアカウントで惨敗報告をすると、おっくんやモチモチ8さんが俺に励ましのリプライをくれた。世界はこんなにもあたたかい。
「またれよぅ!君ぃ!」
突然閑静な住宅街に甲高い声が聞こえた。少女のような可愛らしい声。
元気の弾けるフレッシュな声が回りに響き渡る。
しかし周りを見渡しても誰も人はいない。
そこで俺はとんでもない違和感を覚えた。人がいなさすぎるのだ。
普段であればこの辺りは、散歩中のおじいちゃんや、買い物帰りのおばさん達など、まぁまぁの人が通る道である。しかし今日に限っては人がおらず、近くの家々からの生活音もない。無人無音の住宅街にさらに声が響く
「おい!君!無視するな!」
俺はゆっくりと声のする方向へ顔を向けた。電柱の上の細い足場に、その女の子は立っていた。金髪のビックリするぐらい長いツインテールの女の子、ホットパンツにブカブカのジャケット、そして肩にはゲームでしか見たことの無いモノを担いでいた。
「ロ、ロケットランチャー!?」
「君、ものわかりいいじゃないか!」
そして、引き金が引かれた。
一瞬にも、永遠のようにも感じた。身体が、中身が宙を舞う。熟れた無花果みたいに果肉を撒き散らし、俺は地面に飛び散った。
近くの自販機が衝撃で壊れて、ガラガラとおしるこを大量に放出している。溢れたおしるこ缶がが俺の顔にぶつかったけど、熱さは感じなかった。はるの夕暮れはこんなにも冷たいものなのか。
死ぬのかな、俺。いや、もう死んでるのか……
暗闇の中、声が聞こえた
「ミサ子、お前またやったな。殺傷武器は仕様禁止だとあれほど言ったのに」
男の声が聞こえる、声質的におっさんだろうか。
耳はまだ生きているらしい。
「違うもん!ちょっとまちがえただけだもん!」
女の子が元気よく返事をする。
そうか、ちょっとまちがえてロケットランチャーを撃っちゃったんだな。そりゃ仕方ない、人間誰しも間違えて爆殺の一つや二つ、しちゃうよな。
「いや、撃たねぇだろ!」
言い争っていたふたりがこちらを向く、まるで鳩が豆ットランチャーをくらったような顔だ。一人は長身のスーツの男で、咥えていたタバコをポロリと落とした。もう一人は俺にロケットランチャーを食らわせたあのツインテ少女で俺の顔を見てビックリして……
あれ、俺、生きてる……?
「「「生きてるっー!!??」」」
高校二年最初の日、俺は1回目のリスポーンをした。