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2話 仲良くなりたくて

 ニニエは書斎にあったお菓子のレシピ本と睨めっこをしながらいちごタルトを作った。

 そして、ティーセットと一緒にティーカートに載せ、ティエリーの仕事部屋の前に立ち止まっていた。

(旦那様は今、休憩時間のはず...... でも、約束してないのにいきなりお茶に誘ったら困らせちゃうかな。 それに手作りの物食べてもらうのはまだ早いような......)

 彼是10分ほど悩んでいると、部屋のドアが開いた。

「お疲れ様です」

「ああ」

「今ってお時間ありますか?」

「ある」

「一緒にお茶してください!」

 ティーカートを見られてしまったからにはと、覚悟を決めたニニエはティエリーを誘ってみた。

「この部屋でいいか?」

「はい!」


 ニニエはティエリーがいちごタルトを口にするのをドキドキしながら見守っていた。

 ティエリーが口にした瞬間、ニニエの心臓の鼓動は更に速まった。

「どうでしょうか? お口にあいますか?」

「美味しい」

 その一言にニニエの表情がぱああと明るくなった。

「もしかして、君が作ったのか?」

「あ、はい!」

「とても美味しいと思う」

「ありがとうございます」

 目の前で表情筋が緩んでいるニニエを見て、ティエリーは無意識に目を細めた。

「今度、一緒に国立図書館にいかないか?」

「国立図書館?」

「この国で刊行されている本が全て納本されている図書館だ」

「すべての本が......?」

 ニニエは脳内で巨大な図書館をイメージした。

 見渡しても本、本。

 考えるだけで胸が躍る。

「行きたいです!」

「いつがいい?」

「いつでも大丈夫です」

 ニニエのそわそわしている様子にティエリーはある提案をした。

「今から行くか?」

「旦那様は大丈夫なんですか?」

「問題ない」


 ティエリーと共に馬車に乗り、首都にある国立図書館へと向かったニニエは、壁一面本で埋め尽くされ、まるで迷路のように本棚が設置されてある空間に目を奪われた。

「閉館10分前になったらここで落ち合おう」

「わかりました」

 三時間ほど滞在したあとの帰路、ニニエは忘れていたことを思い出すことになる。

「明々後日の夜会だが、そこまで気を張る必要はないからな」

「夜会?」

「......君、まさか......」

「申し訳ございません!」

 すっかり頭から抜けていたが、ニニエは三日後、公爵夫人として夜会に参加することになっているのだ。

(社交界デビューはこれでも一応してるけど、久しぶり過ぎてちゃんと振舞えるかな)

「次からは忘れるなよ」

「はい......」

(やってしまった)

 今日一日で表情がコロコロと変わるニニエを見て、ティエリーは優しい笑みを浮かべた。


 ――三日後

 ニニエは深い藍色のドレスを身にまといながら、髪の毛をアップスタイルにしている。

 いつもはシンプルな恰好をしているので、鏡に映っている着飾っている自分は別人のようだ。

 自室のドアがノックされた。お付きのメイド、アリエルが対応しにいった。

「旦那様どうなされましたか?」

 どうやらティエリーがきたらしい。

「いや少しな......」

 ティエリーが罰の悪そうな顔で入室してきた。

 ニニエの姿を見るとティエリーの動きが止まった。

「旦那様とてもお似合いです」

 普段からきっちりとした恰好をしているティエリーだが、夜会ともなればいつも以上に身なりを整えている。

「ありがとう。 君も......」

 ニニエは真っ直ぐティエリーを見つめるが、ティエリーはそれがむずがゆいようで頬を軽く赤く染めた。

「似合ってる」

「ありがとうございます」

 ふんわりとした笑みを浮かべて、ニニエはお辞儀をした。


 煌びやかな会場の隅で一人ティエリーを待つニニエ。

 女癖の悪い初老男性の元へ挨拶をしに行かなければなんとかで、ニニエはここで待機するよう言われたのだ。

「あらお姉様」

 聞き覚えのある声にニニエは顔を上げた。

 コーデリアがニニエの元婚約者アマウスと腕を組みながら勝ち誇ったような顔をしてその場にいた。

 ニニエは、コーデリアのことが好きになったから。と、アマウスに婚約破棄をされた。

 周りの人間はアマウスの味方で孤立無援状態だったニニエは大人しく婚約破棄を受け入れたが、好きな人を妹に取られた悲しみは大きかった。

 結局、アマウスとコーデリアは婚約することはなかったので、ニニエは脱力感に見舞われたのだが、もしかしたらティエリーとの婚約をニニエに押し付けてきたのは、ニニエへの嫌がらせだけではなく、アマウスと婚約するためだったのかもしれない。

「お一人ですの? ティエリー様は?」

「旦那様は挨拶に行ってるよ」

「お一人で?」

 コーデリアは、妻なのに一緒に挨拶に行かないなんて、と言いたげな意地悪な笑顔になった。

「うん」

(久しぶり会ったけどやっぱり合わないな)

「お姉様、もしかして大事にされてないの? 可哀想に」

 大袈裟な悲しそうな表情にニニエは内心、イラついたが、コーデリアの面倒くささは十分理解しているので言いたいことを抑えた。

「そんなことないと思うな」

「妻を夜会で一人ぼっちにするなんて......アマウス様ならこんな酷い仕打ちしませんよね?」

 上目遣いでコーデリアはアマウスに問いかけた。

(旦那様だ)

 こちらに向かってくるティエリーを見つけたニニエはアマウスの返事を聞く前に、

「旦那様が来たから、私もう行くね」

 逃げるように速足で二人の元を去った。


「旦那様」

「待たせて悪かった。 何かトラブルとかはなかったか?」

「何もなかったです」

「そうか。 まだ早いが帰ろう」

「え?」

 そう言うとティエリーは、ニニエの手を引いた。

「顔が真っ青だ」

「そ、そうですか?」

「ああ」

 初めて触れたティエリーの温かみにニニエはほわほわした気分になった。

(旦那様はちゃんと私のことを大事にしてくれてる。 大丈夫、コーデリアはただ私を馬鹿にしたかっただけで、私の方が旦那様のこと知ってるから)

(それなのに、なんでこんなに胸が苦しいの?)

 伝わってくる温かみとは裏腹に、体の芯が冷え切っていくようだった。

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