再出発
「何?どうしたの?一緒に入ってくれるんじゃなかったの?」
崩れかけたものをもう一度建て直してくれたのはモモだった。
「え!?モモ!?」
3人はとても驚いていたが優奈は澄んだ瞳で微笑んでいた。
「なんか、私がいないと寂しいって言った人がいたんだよね」
モモはいたずらっ子のように笑ったが一瞬で真剣な眼差しに変わった。
「ごめん、みんな。せっかく来てくれたのに来て欲しくなかったなんて酷いこと言ってごめん。前みたいにバドが出来なくなって、みんなとの約束守れそうになくて辞めるしかない、辞めようって決めたのに。みんなの顔みたら揺らいじゃって……私、諦めたくない。今はまだ恐怖心が邪魔してみんなの足でまといになるけど、いつか克服してみんなに追いついてみせる!……見捨てないでくれて、ありがとう」
……追いついてみせる?……
私はハッとした。
……優奈はもしかして……
私は優奈を見つめた。
「良かった…やっぱり戻ってきてくれた。モモは負けず嫌いだから突き放された方が戻るんじゃないかって思って冷たいこと言ったけどちょっぴり不安だったんだからね」
優奈は私の視線に気づいたのか、モモを引き止めなかった理由を話してくれた。優奈はよく周りを見ている。玲奈が先輩にいじめられた時も、私が先輩に叩かれそうになった時もそうだった。優奈の観察力の高さに私達は救われてきたんだ。優奈が「1人減って良かった」と言ったのはきっと少し恥ずかしがり屋の部分が邪魔したのだろう。入部初日、私が優奈と初めて話した時、優奈が頬を赤らめて会釈したのを思い出した。本当は色々考えていて、思いやりを知られるのが少し照れくさくて悪者を演じたのでは無いかと私は解釈した。
「ちょっと1年!遅い!準備もしないで何やってたの!」
体育館に入るなり先輩に叱られてしまった。当たり前だ。時計を見ると部活開始時間より40分もすぎてしまっていたのだから。
「罰として、今日はコート使用禁止!」
「はい!すみませんでした!」
いつものランニングコースにある1本の大きな木。この木がピンク色の着物を身にまとっていた頃はみんなに遅れをとっていたけれど裸木となった今は違う。それは花恋も一緒だ。
「なんか、久しぶりだね、この感じ」
「あの頃からもう少しで1年経つんだよ」
私はスピードを上げてみんなの前に出て振り返った。
「すっごく楽しいね。アニメの主人公になった気分」
そう言って私は再び走り出した。
「何それ!」
「ちょっと待ってよ」
後ろからみんなが追いかけてくる。校門の手前で立っているモモにジャージの上着を投げ渡す。冷たい風がスースーと通り抜けて気持ちがいい。
「あれ?走るの早くなってるじゃない」
聞き覚えのある声に立ち止まる。
「矢野先輩!ありがとうございます!」
「矢野先輩!お久しぶりです!」
みんなも追いついて先輩に挨拶した。憧れの先輩に久しぶりに会ってとても嬉しかった。みんなの顔を見て確信した。矢野先輩に憧れてるのは私だけでは無い。
「みんなでランニング?偉いね!」
「いえ、違います!部活に行くのが遅くなったその罰です!」
矢野先輩は声を上げて笑いだした。
「あははっ!そんなキラキラした目で言われても…それじゃあ罰になってないじゃん」
「わぁ!たしかに!!」
私達もつられて笑った。
「モモちゃんを連れ戻して、やっと全員集合って感じかな?みんな、これからきっと強くなるよ」
「え?」
モモが1番驚いた表情をした。
「田舎は噂が流れるのが早いのよ。のどかちゃんが玲奈ちゃんに体育館から追い出されたのも、一時期部活に来なくなってるのも知ってる」
そう言って笑った矢野先輩は2つ上とは思えないくらい大人っぽく見えた。
「矢野先輩。私、先輩みたいに優しくてかっこいい人になりたいです。そして、この5人で県大会に出場します」
「それはしっかり見届けないとね。頑張ってね」
矢野先輩はそう言って私たちの肩を順番に軽く叩き、自転車にまたがった。矢野先輩の後ろ姿は藍色の街の中へあっという間に消えていった。
ランニングが終わり、体育館に戻る。入口の目の前でモモの足は止まった。モモの顔は引きつっていた。
……聞きたくない音が入ってきても気にならないくらい、ここを楽しい場時にするんだ!!……
私はそう心に決めて耳を塞ごうとしたモモの手を握る。
真冬なのにも関わらず、体育館に入った瞬間、熱気がモワッと包み込む。いつもは気持ち悪く感じたその感覚が今日はなんだか心地よかった。




