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けが

あと3ヶ月もしたら後輩ができるというのに私は1度も遠征に行けていない。遠征メンバーは毎回顧問が口頭で発表している。発表の瞬間はまだまっさらだった私が想像していた以上に胸がえぐられた。


来週末の遠征も私は居残り組だった。私と同じく1度も遠征に行ったことのない花恋を見つめる。花恋は私の視線に気づいたのか花恋と目が合った。

「またお留守番だね。よろしくね」

花恋はそう言って楽しそうに笑った。慌てて私も笑って見せたけど心がうずいた。

……花恋は悔しくないの?辛くないの?……


冬休みに入り、1日練習の日が増えた。"来年度まで大きな大会がない為時間をかけて基礎固めをしよう"ということでノックやフットワークばかりで試合形式の練習はほとんど無くなった。顧問が

「冬を制するものは夏の大会を制す」

とどこかで聞いた事ある台詞を文字っただけなのにあたかも1から自分で考えましたとばかりにドヤ顔で何度も言っている。


冬休みに入ってすぐのある日、騒がしい体育館内にガチャンッというラケットが床に叩きつけられる音と何か重たいものが倒れる音が響いた。まだまだ未熟な鳥は小さくうずくまって泣いていた。モモはアキレス腱が断裂し、全治半年の怪我を負った。1週間の入院中、私達はモモのお見舞いに行った。


モモの左足は白いキプスに覆われ、2倍以上の太さになっていた。

「手術したからすぐにギブスが外れると思う」

モモは私達の姿を見た途端笑ってそう言ったけどモモの顔は引きつっていた。モモが辛くなるんじゃないかと思って部活の試合は一切しなかった。ドラマの話、芸能人の話、ファッションの話、同級生の誰がかっこいいとか誰が付き合ってるとか別れたとか、そんなたわいもない話。こんなにも長く部活以外の話をしたのは初めてだった。今まで部活以外の話をしていてもすぐに部活の話をしていたことに気付いて驚いた。


モモが怪我をしてから私は遠征に行かせて貰えるようになった。あんなに行きたかった遠征なのに心から喜べない。それはきっと"人数合わせ"だから。パズルの欠けた部分にピースの代わりで入れられた紙切れ1枚。その紙切れはもちろん悪目立ちしていた。初めての遠征は恥ずかしさでいっぱいだった。


怪我をしたあの日以降、モモが部活に顔を出すことは1度もなかった。だから、私達がモモの姿を見たのは新学期になってからだった。いつの間にかギプスは外れ、モモはプラスチックでできた靴のような物を使用し歩いていた。1学年に300人もいるマンモス校なのにも関わらず、噂が流れるのは電光のようにあっという間だった。

「柊百花がバド部を辞める」

モモが顧問や担任と話しているのを誰かが聞いたらしい。


私達は下校のチャイムと同時にモモのクラスへと走った。私がモモのクラスにつくと、モモと同じクラスの花恋が両手を広げてモモを引き止めていた。


「何?帰れないんだけど」

モモの低く冷たい声は事前に考えていた私の言葉を通せんぼした。その通せんぼを払い除けなきゃいけないのはすぐにわかった。

……ここで、負けちゃいけない……

「噂で聞いた。バド部辞めるの?なんで?」

「この6人で団体戦組んで県大会出場しようって約束したじゃん」

「手術したの、バドのためでしょ?手術しない方法もあったけど少しでも早く復帰できるように手術したんでしょ?なのに…なんで…」

「私達にできることあったら、なんでもやるから!私が助けて貰ったように、次は私が助けたい」

みんな口々にモモに気持ちをぶつける。モモに辞めて欲しくないのは、私だけじゃないんだ。

「私、何度か部活に行こうとした。だけど、ラケットが風を切る音とか、シャトルの音とか、足を踏み込んだ時のシューズの音とか、全部怖いの。また怪我するんじゃないかって左足の痛みが疼くの……もう、私はバドができない。バドが出来ないのに、部活続ける意味ないでしょ?みんなに来て欲しくなかった!!」

プラスチック製の装具をつけた左足を触るモモの手は小さく震えていた。

「わかった。もう戻って欲しいなんて言わない。モモの好きにすれば?」

そう言って優奈は行ってしまった。

「え?ちょっと優奈。なんでそんなこと言うの?」

他のみんなは後ろを振り返りながら慌てて優奈を追った。

「体育館に入るのが怖いなら、私も一緒に入る。モモがラケット握れなくても、バドが出来なくてもいい。私はモモが居ないと寂しい。モモにいて欲しい」

私はそれだけ言って体育館へ向かった。


「優奈!なんであんなこと言ったの?ちょっと酷くない?」

「そうだよ。モモ、本当に辞めちゃうよ」

優奈はみんなに責められていた。

「ちょっと待って。優奈はきっと何か考えがあるんじゃない?だよね?」

私は必死に優奈を庇った。なのに優奈は1人悪者になろうとした。

「別に?嫌々部活に来られても迷惑なだけでしょ?それにただでさえ部員に対しコートが少ないんだから、1人減って良かったんじゃない?」

「は?なんなの?優奈酷すぎない?」

「サイテー」

……違う。優奈はそんなこと思ってない。優奈は最低な子じゃない。きっと、何か理由があるはず……

でもそれは声にはならなかった。優奈が本当は何を思っているのか、分からないから。


今まで築き上げてきたものが崩れ落ちる音がした。

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