目標
夏休み中はラケットを使った練習をしないけれど次の日も私はラケットを持っていった。玲奈に「一緒に練習しよう」とさそう為に。
「あれ?なんでのんちゃんラケット持ってきてるの?」
「もしかして、間違えちゃったとか?」
アヤとモモがいつものように笑って話しかけてくれた。
「ううん、違う。私も頑張ろうと思って」
……今日は断られたとしても絶対曲げない……
アヤとモモは目を丸くしてしばらく顔を見合わせていた。
「玲奈。来て。話がある」
部活が終わるとすぐに玲奈の手を引いて体育館裏へ走った。そこは日陰になっていて、時折校舎の間を走り抜ける風はひんやり冷たかった。
「玲奈、昨日言ったよね。『同情で一緒にいられても嫌だ』って。でも同情なんかじゃないよ」
「…え?…」
「私は1年の中でも劣ってる。普段の外周でも夏休みに入ってからもみんなについて行くのに精一杯。1年同士で試合してもほとんど負けてる。このままだと、大会に1度も出ないで引退になる。そんなの、絶対嫌だ。私は、強くなりたい。 わかるでしょ?これは私のエゴ。私と一緒に練習して。わたしにバドを教えて」
茹で上がった青菜のような前髪が風でなびいて目を隠したので玲奈の表情は伺えなかった。 玲奈は体育館の方向に少し歩き、
「待ってる」
とだけ言って校舎の影に消えていった。
「あ、のんちゃん帰ってきた」
「どこ行ってたの?一緒に帰ろ」
体育館に戻ると4人が駆け寄ってきてくれた。玲奈に目を向けると一人きりでいた玲奈と目が合った。
「ごめん、私これからは一緒に帰れない。玲奈と残って練習する」
みんな少し驚いていた。
「え、玲奈と?」
「いつの間に玲奈と仲良くなったの?」
「あ、あのね、詳しくは言えないの。玲奈がみんなに玲奈自身で言っていないことを、私が勝手に話すことは出来ない。だから……」
「いいよ、言っても」
後ろを振り返ると玲奈が立っていた。
「別に、勿体ぶるようなことじゃないし」
玲奈は淡々と機械的な口振りで話し始めた。
「……てことで、残って練習することにした。だから悪いけど大葉さんのこと借りるね」
「なにそれ…面白そうじゃん。玲奈のことバカにしてた奴ら、見返してやろうよ。玲奈のこと、正直取っ付きにくいなって思って苦手だったけど努力家なのはわかってすごいなって思ってたんだよ。その話、私も混ぜて」
「そうそう。それに、私達にもメリットあるし。大会ではこの6人で団体戦に出たい。ダメって言われても勝手に混ざるから」
「私、言ったよね『入ったからには真剣にやる』って」
アヤ、モモ、優奈が口々にそういうと花恋も
「え?みんな本気で言ってるの? …なら私も」
と普段と変わらないテンションで言った。
「絶対この6人で団体戦で県大会出場しよう!!」
頭を通さずに出たこの言葉がどれだけ大変なことか、この時の私はまだ知らなかった。1列に並んで見上げた太陽はギラギラと眩しく輝いていた。




