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若月玲奈

3年の先輩達が引退して私達もコートを使わせて貰えるようになるかもしれないと思い、心が踊り出しそうな感じがした。いつものようにコートを張っていると2年の先輩が来た。

「先輩、おはようございます」

「おはよう。ごめんね、夏休みはコート張らなくていいよ」

「はい。……え?」

私達は一瞬顔を見合わせたが慌ててコートを片付ける。

……コート使わないで何をするの?……

その理由は直ぐに察しがついた。先輩がバスケ部の後ろに並んだので私達も後について並んだ。


数分後、バスケ部とバド部の顧問が来て

「夏休み恒例、合同練習を始めます」

というの声で部活が始まった。


時計回りで1時間走った後、体育館を5周全力疾走する。5分間のインターバル後、反時計回りで同じメニューをこなす。花恋とモモが途中で倒れて保健室に運ばれた。いつの間にか先輩達も数人保健室に行ったらしく人数が少なくなっていた。私はフラフラになりながらも、遅れを取りたくない一心で練習に参加した。最後のバービーなどを組み合わせたフットワークの時には心ここにあらずで操り人形になっていた。私はなんとか最後まで脱落しないで参加出来たものの足がプルプル震えて真っ直ぐ歩けなくなっていた。


私はいつものように優奈たちと帰ろうとしていた。自転車の鍵を忘れたことに気づき、みんなには先に帰って貰い体育館に戻ると練習前に片付けたはずのコートが張ってあった。


「あれ?玲奈……と先輩?」

その声に以前迷子になった時に助けてくれた先輩が振り返った。

「あ、あの時の」

私は先輩に軽く会釈した。先輩は玲奈の肩を軽く叩き

「俺じゃなくて同級生に頼んだら?」

と言って帰る支度を始めた。

「玲奈と先輩、知り合いなの?玲奈、なんでも言って。どうしたの?」

私の質問には玲奈の代わりに先輩が答えた。

「玲奈がバド習ってるのは知ってるだろ?俺はそこで知り合って玲奈とも玲奈の兄貴とも仲良くて。その兄貴がずば抜けて上手くてさ、玲奈ももっと上手くなりたいんだとよ」

「え?玲奈、お兄さんがいるの?」

「なんだ、それも知らなかったのか。後は玲奈、自分で話せ」

先輩は小さくため息をついて帰って行った。


「玲奈、お兄さんがいたんだね。どんな人?名前は?」

私は玲奈との距離を少し詰めて訊いた。

「1個上にね。でもこの学校には居ないよ。玲央は…兄は私よりずっとバドが上手くて期待されてて中学は1人上京して強豪校にいる」

私はピンときた。

「もしかして、大会の時言ってた『私は才能がないから』って……」

玲奈は小さく笑って、でも寂しげな表情で言った。

「春季大会で入賞した時、ようやく私も親に褒めてもらえると思ったんだけどね、ダメだった。『玲央は強豪校入って全国大会にも出場してるのに。公立でこんな地区大会なんかで入賞したくらいで。みっともない』だって。私はずっと玲央と比べられて親にも周りにも『玲央はこんなに優秀なのに玲奈の方は全然ダメね』って言われてきた。私はもっと強くなってみんなを見返してやりたい」

「玲奈…」

玲奈はハッとしたように立ち上がった。

「同情で一緒にいられても嫌。帰って!」

「え?ちょっと待って」

「早く帰って!私は1人でやっていく。だから早く帰って!」

私は体育館から追い出されてしまった。他の部からの処刑台を登る罪人を見るかのような鋭い視線を感じ、私は逃げるように家に帰った。

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