春季大会
私達に残されているのはあと2大会のみだ。春季大会と夏の大会。あっという間にここまできた。春季大会でも私達3年全員で団体戦に出場できる。
全てが初めてで胸が高なった。2年前の春季大会。私もこうなりたいと先輩達に憧れを抱いた。私にとって初めての公式戦で緊張して足を引っ張ってしまった去年の春季大会。今の私は去年までと違う。
私達は円陣を組む。隣にいる優奈とアヤの温かい手が背中に触れて安心する。
「冬の練習の成果、ここで出すよ!絶対勝つぞ!!」
「オー!!」
顔を上げるとみんなの笑顔がすぐそばにあった。そして、私達の後ろには1.2年生と顧問が拍手してくれる。負ける気がしなかった。
1回戦目、シングルスは花恋、ダブルスは玲奈とモモ、2組目がアヤと私。補欠の優奈に思いっきり背中を叩いてもらう。優奈に叩いてもらうと強くなった気がするんだ。
「ラブ・オブ・プレイ」
試合開始の合図だ。対戦相手と審判に挨拶すると相手はサーブを打つ。
……え、最初から!?……
ダブルスではショートサーブがセオリーだが最初からロングサーブを打たれ動揺する。慌てて後ろに下がって打ち返すが※ヘアピンで返され手も足も出なかった。
「次だよ次。切り替えよう」
「はい」
なのにどんどん※スマッシュを打ち込まれる。あっという間に5-0になってしまった。後ろで悲しげな落胆の声が聞こえる。ラケットを持っていない左手を上げて「待って」と合図を送る。天井を見上げ深呼吸する。
……どうする?どうすれば勝てる?……
もう、私達がやってきたことを行うしかなかった。
「もっと相手の場所をよく見よう。1球1球拾っていくよ」
アヤは深く頷いた。
……相手は前後にいる。左右に動かそう……
とにかく左右のコートのすれすれを目掛けて打ち返す。今回はラリーが続いている。
……こういう時こそ冷静に……
私はあることに気づいた。相手はずっと後ろの人が打っている。私はヘアピンで前の人に打たせて相手のリズムを崩すことにした。自陣の左側に飛んできたシャトルをクロスで返す。シャトルは相手のラケットに弾かれネットの下を通り私達の元へ転がってきた。
……よし!これだ!……
アヤと軽くハイタッチする。
「もう一本行くよ」
「おう!」
……初めて得たサーブ権、慎重に……
私の打ったサーブはネットすれすれを通る。相手はアウトを狙ってあえてシャトルから離れた。
「お願い……」
シャトルは線の上に落ちた。※線審を見ると線審は手を真っ直ぐ前に伸ばす。入っているというサインだ。
「よし!!」
流れがこちらに来た。少しずつ点差は詰まって11-10でコートチェンジを迎えた。
「1点負けてるけど、ここまでよく追いついたね。2人なら逆転できるよ。足を伸ばせてるのはいいけど、もう1歩多く踏み出してみて」
駆け寄った優奈の話をタオルで汗を拭きながら聞く。対戦相手がコートに入っていくのを見て、慌ててタオルを床に置く。
「大丈夫、落ち着いて」
優奈の声を背中で聞く。私は深呼吸して天井を見る。
……大丈夫、1点ずつ取りに行こう……
相手はスマッシュで私達を追い込んでくる。でも私達は簡単には負けない。とにかく打ち返す。私達は早いシャトルも打ち返せるよう練習したんだ。アヤが打ち返したシャトルはネットに引っかかり力なく落ちる。
「あぁ……もう……」
アヤは両手で顔を覆う。アヤの顔は泣きそうだった。
……ダメ。そんな顔しないで……
「アヤ、大丈夫。まだ3点ある。まだ終わってない」
アヤを励ますけれど私自身も苦しかった。アヤは小さく笑ってみせた。
「そうだよね、ごめん」
アヤは1呼吸置いてから大きな声で叫んだ。
「よし!!ここから、切り替えていくよ」
アヤの声がこの悪い雰囲気を壊してくれた気がした。
「シャー!!」
私も負けじと声を張る。試合が再開され、またしてもラリーが長引いた。優奈の言葉を思い浮かべる。
『もう一歩多く踏み出してみる』
……もっとシャトルに近づくんだ……
相手が※ドロップを打った。私はいつもより1歩多く足を出す。私の打ったシャトルは力強く遠くへ飛んだ。相手はバランスを崩し、ふわふわと甘いシャトルが返ってきた。
……チャンスだ!!……
アヤの打ったスマッシュは綺麗に決まった。私とアヤは大きくガッツポーズをした。後ろから聞こえる声援も一際大きかった。
横目で得点板を見る。20-19だ。私達はもう失敗は許されない。あと1点取られたらゲームセットだ。心臓はドクドクと速く波打ち、手足は震えてくる。自分の息切れが気になって仕方がない。
……今の状態でサーブを打っちゃダメだ……
私はたっぷり時間をとった。深呼吸を繰り返すうちに少し息が整ってきた。
……次に点をとったらデュースだ。2点差着くまで終わらない。まずはデュースに持ち込んでやる……
デュースになればこの負担を相手も同様に味わうことになる。私はシャトルの持ってない左手を背中にまわし、小指を立てる。ショートサーブ打つという合図だ。
「はい、ガンバー」
アヤの力強い返事に後押しされてサーブを打つ。狙いは相手コート左端。私の打ったサーブはネットに吸い込まれた。力が全てネットに奪われ床に落ちた。
……嘘、これで終わり?……
相手チームの歓声で私達が負けたことを悟った。
……嫌だ!!嫌だ!!終わりたくない!!……
私は現実を受け入れられなかった。
「3-0で北中学校の勝利です」
という審判の声でますます追い詰められた。"0”というのがとてもショックだった。挨拶を終えてやっとの思いでコートから出る。
……もうちょっとだったのに。あんなに練習したのに。なんで、なんで……
周りに沢山人がいて騒がしいのにその音がなぜか遠くに聞こえる。涙が次から次へと流れて止まらない。体育館の床に水溜まりができてしまった。
その後のことはよく覚えていない。私の体はカラカラになって干からびているようだった。沢山泣いたせいか次の日まで頭が痛かった。干からびた私は団体戦だけでなく個人戦もボロボロで、あっけなく中3の春季大会は幕を閉じた。
立ち直らないと行けないのにサーブミスで終わった団体戦が頭から離れない。
……あのサーブが入っていればもしかしたら……
洋服についた墨汁のシミのようにいつまでも私の脳裏にこびりついた。
ヘアピン=ネット前からネット上ギリギリを通り相手のネット前に落とす
スマッシュ=シャトルを叩きつけるように打つ攻撃の代表的な打ち方。早く、鋭い角度で相手のコートに落とす
線審=コートに入っているか外れているかを見る審判。コートの対角線上に並びコートの後ろのラインと縦のラインを見る。
ドロップ=コートの奥から相手のネット前に落とす




