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長い冬

バドミントンの用語には※がついてあります。後書きの欄に説明が書いてあるので参照してください

私達が顧問にした提案はすぐに受け入れてもらえた。通常メニューであるアップと基礎打ちの後に新しい練習が加えられた。ネット際からひとりが投げたシャトルを※アンダーで返す。すぐに後ろに下がって今度はコートの後ろに立つ人が投げたシャトルを※スマッシュか※ドロップ、※クリアーで返す。コートを走り回る練習にヘトヘトになった。私のプレースタイルにぴったりな練習方法だった。

「私、スマッシュを打ち返す練習をもっとしたい」

「なら、投げられたシャトルを打つだけじゃなくて、それをまた返すとか?」

「それと、基礎打ちの時に最後に苦手なものを選んでできる時間をプラスしよう」

「そうだ!基礎打ちっていつもペア同じ感じだから、時間のある土日だけでもローテーション方式にしよう」

「1年生の川上さんの※ヘアピン、上手だもんね。楽しみだなぁ」

少しずつ練習メニューも変更して、私達独自のバド部ができてきた。


11月になり、日の短さを感じるようになったそんなある日、事件は起こった。いつも通り準備をしているとポール(ネットを立てるための支柱)が崩れ落ちた。

「危ない!!後ろ!!」

優奈が咄嗟に叫んだものの1年生の足が下敷きになった。何本もの鉄の塊が小さな足に乗っかっている。私達は慌ててポールをどかし、モモは顧問を呼びに走った。下敷きになった1年生は顧問の車に乗って受診した。その日の部活はお通夜状態だった。

「大丈夫かな、川上さん」

誰かがポツリと言った言葉にみんな俯いた。しばらくして顧問と松葉杖をついた1年生が戻ってきた。

川上さんは骨折していたらしい。モモは1年前の自分と重ねているのだろう。人一倍心配そうに川上さんを見つめていた。


ポールが倒れてきたあの事故から1週間たったある日、川上さんは体育館の端で小さく座っていた。

「柊先輩の怪我に比べれば大したことないのに怖いんです。ここから消えて無くなりたい。私は、柊先輩みたいに強くありません」

そう言って俯く川上さんにモモは寄り添い続けた。

「私だって強くないよ。辞めようと思ったし。私がここにいるのはみんなが引き止めてくれたおかげ。怖いなら逃げたっていい。でも、少しでも迷う気持ちがあるなら続けた方がいい。1つだけアドバイスさせてもらうけど……自分のこと全部認めてあげたら案外楽になるよ」

部長決めの時に玲奈の言った『1番支えてあげられるのはモモだ』というのはこういうことだったのだろう。私はどこかで聞いた曲の『悲しみが多いほど人には優しくできる』という歌詞を思い出していた。


今までの顧問は練習を見ているだけだったのに、最近はシャトルを上げたりと私達の練習に付き合ってくれるようになった。しかも練習試合の数が圧倒的に多い。

いつだったか、モモが教えてくれた。

『先生に出来るのはこれくらいしかないから』

と顧問が言っていたらしい。私達の代でバド部が変わっていくのがとても嬉しかった。

「顧問がここまでしてくれるの、私達の代からだよ。絶対を結果出して恩返ししよう」

練習試合で対戦した相手と大会で当たるかもしれないということで他校の情報をノートに書き留めることにした。少しずつページが増えていって3月になる頃には3冊目に突入していた。


公式戦のない長い冬の間、私達は実力もノートも蓄えておいた。中学最後の年だ。この6人でいられるのもあと少し。1年生の頃に憧れていた矢野先輩のように強く、優しい人に慣れているのだろうか。自信はないけれど、できる限りのこと全て行う。少したりとも後悔を残さないように

アンダー=自分のコートのネット前から相手のコートの奥に飛ばす。相手を追い込む時に使うこともあれば、自分の体勢を立て直す為に使うこともある。ロブともいう


スマッシュ=シャトルを叩きつけるように打つ攻撃の代表的な打ち方。早く、鋭い角度で相手のコートに落とす


ドロップ=コートの奥から相手のネット前に落とす


クリアー=シャトルを高く遠くに飛ばす。これにより相手をコートの奥へと追い込む。


ヘアピン=ネット前からネット上ギリギリを通り相手のネット前に落とす


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