雨《追放者ざまぁ》
クロノスが米を吟味している最中。
黒いローブを身に纏ったエレンは、作戦の決行を決意していた。
(よし……ガキが一人になった。雨で人通りも少なく、視界も悪いのが助かる。クロノスも買い物に集中している。)
ロゼがクロノスから離れた事を裏路地から確認すると、エレンは大通りに出た。
探していたのは暇そうな子供。
たまたま傘を差して歩いている獣人を見つけた。
ニッコリと笑いながら近寄る。
「なあ、少年。あそこにいる男が買い物を終えたら、この手紙を渡してくれないか?」
「え? なんで? 自分で渡さないの?」
「銀貨一枚やるよ。キミに渡して欲しいんだ」
「え? 本当! やったあ!」
そして獣人の子供に手紙を渡すと、エレンはゆっくりとロゼに歩いていった。
まるでこの街の住人の様に自然体に、心の中には漆黒の感情を燃やしながら。
「ねえ、お嬢ちゃん」
「ん? なんじゃ? 誰じゃお前」
エレンはロゼの前に立つと、ゆっくりとしゃがみ、視線を合わせてポケットから青い羽を出した。
「前にロックバードの羽を売ったでしょ? そこの店主さんが、お嬢ちゃんが帰った後に床に落ちたこの羽を見つけたんだって。一枚分の代金を渡したいから来て欲しいらしいよ」
「はえ~そうじゃったのか!」
「うん。一緒に行こうか。こっちが近道だよ」
エレンは立ち上がると自然にロゼの手を引き、裏路地へと向かった。
そこには、あらかじめ用意してある荷台と布袋がある。
「こっち本当に近道なのか? 店は逆方向じゃと思うが……」
「そうだよ」
エレンはローブの中に隠し持っていた棍棒に手をかけ……。
――ゴン!
裏路地に入るや否や、ロゼの後頭部を殴った。
(よし……死んでないな……まあ、どちらでも良かったが)
そして、気絶したロゼに素早く口縄を付けると、流れる様に両肢を縛りロゼを布袋の中に入れた。
同時にローブを脱ぐ。
ローブの下は商人らしいラフな服装。しかし、よく見るとその服装にそぐわない長剣が腰に刺さっていた。
エレンは布袋を荷台に乗せ、西へと向かった。
「……くっはは」
予想以上に計画がうまくいったことに思わず口元がにやける。
荷台を引きながら一時間程立っただろうか。
エレンは街を出て、あらかじめ冒険者に討伐依頼を出しておいたゴブリンが住む洞窟へと入った。
(くっくく……今はこの血と糞尿が入り混じった匂いが最高の匂いに感じるぜ)
死と腐臭が漂う暗い洞窟の中、エレンは荷台を止め、布袋を雑に降ろす。
ロゼが目を覚ましたのか騒ぎ出した。
「ん~! ん~!」
「良いぜ。口縄だけは解いてやる」
エレンはロゼを布袋から出し、両手両足を縛られ、芋虫の様にグネグネと身体を動かしているロゼを笑うと口縄を解いた。
軽くせき込んだ後、ロゼは叫ぶ。
「何するんじゃ! お主、儂が誰だか分かっておるのか!」
「知らねえよ。知るつもりも無い。お前はこれからクロノスの目の前で死ぬ。その後、クロノスにゴブリンの糞を食わせて殺す」
暗く、悪臭漂う洞窟の中、エレンは無機質な目でそう答え……。
――雨粒がエレンの頭を叩いた。
「は?」
――いつの間にかエレンは開けた草原に居た。
「……何か言うことは?」
――死臭と糞尿の悪臭は消え、代わりに煙草の煙がエレンの鼻腔を刺激する。
「なっ……は? ク……ロ……ノス?」
目の前にはクロノスが傘を差しながら煙草を燻らせている姿。
その横には、今まで縛っていた金髪の幼女が、きょとんとした顔で荷台の上に座っている姿。
突然の状況に理解が追い付かないエレンを尻目に、ロゼは叫んだ。
「コヤツお主にゴブリンの糞を食わせた後、殺すとか言ってたぞ!」
「へぇ」
――突然の悪臭。
「おえええええ! はあ? 何で俺の口の中に糞が!」
いつの間にか、煙草を捨てていたクロノスが呟いた。
「お前はこの後俺を殺す予定だったようだが……俺は人を殺さない。今逃げて一生俺に関わらないか、戦ってボコされるか選べ」
(は? は? これはクロノスがやってるのか?)
混乱。しかし、分かるのは今起こっている現象は全て、クロノスがやったらしいと言う事。
エレンは一瞬戸惑い……逃げることを考えたが、今まで膨らみ続けていた憎悪が身体を動かしていた。
「死ねええええ! クロノス!」
――剣を抜き。
――振りかぶり。
――動かないクロノスに向けて剣を振り下ろす。
「剣筋が曲がってんだよ」
剣を振り下ろす直前……クロノスの声が聞こえた。
そしてーー空を見上げていた。
どうやら自分は仰向けになっているようだ。と気づいた瞬間……。
「ああああああああああああ!」
訪れる強烈な激痛。
まるで万力の力でもって全身を殴られたようだった。
(痛い痛い痛い! なんなんだ!? 何が起こってるんだ?)
「二度と俺に関わるな」
クロノスが、そう言い残して去っていく足音が聞こえた。
「くそ! くそおおおおおおおお!」
雨を全身で浴びながらエレンは天に向かって叫んでいた。
クロノスと自分との圧倒的な差を思い知りながら。
絶対に敵に回してはいけない人を、敵に回してしまったと、後悔しながら。
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