雨
バラバラと、雨粒が薄い屋根を叩く音で目を覚ました。
くっついてる幼女三人を起こさないように慎重に布団から這い出て、隙間風が入り込むボロイ窓から外を覗くと、土砂降りの光景が見える。
「雨……か」
ロゼの家に住む様になって数週間が経った。
今日は三日に一度の街に食料を買いに行く日。
いつの間にか買い物は、俺とロゼの役目になってしまった。……俺は国賓の筈なんだがな。どうしてこうなった。
(濡れるの……面倒くさいな)
しかし、そうは言っても行かなければ今日の晩飯の食材が買えない。それは嫌だ。
昨日ロックバードを一匹捕ったし、なんと運が良い事に卵も頂戴出来た。
ロックバードは一年に一回しか卵を産まないんだぜ? 超希少品。濃厚で美味いんだ。
ちなみに今日の晩飯は、ロックバードの卵閉じ~米にのせて~と言う俺のオリジナル料理【親子丼】を作る予定だ。
昨日卵を取った段階で幼女たちに約束してやった、楽しみにしてるらしいし食べさせたい。
間違えた。俺が食べたいから作るんだ。
「おい、ロゼ起きろ。朝飯を食え。今日は羽売りに行って米買うぞ」
一時間後。
俺はまだ寝ている幼女たちの布団を剥がすと、寒がってる幼女たちを一人一人抱きかかえて椅子に座らせる。
「眠いんじゃぁ~」
「う~ん……ウチもっと寝てたいわぁ」
「私もぉ~……まだ眠いですよぉ~」
ちっ! 情けないなこいつらは。
ガキは早寝早起きが基本だろ!
「うるせえ! 早く飯食え! 冷めるだろ!」
俺はエプロンを脱ぎ、同じく椅子に座る。
目の前のテーブルの上には温め直したパンと、ビックボアのソーセージと、サラダと、野菜スープがある。
本当は卵もつけたかったんだけどな、晩飯に取っておいてある。
寝ぼけ眼の幼女たちだったが、暖かい食べ物を口に含むと体が起きてきたみたいだ。
徐々にワイワイと騒がしくしながら、食事を進める。
うるさい。静かに食べれないのか。
「儂、黄金人参嫌いじゃ! 臭い!」
「おい! 好き嫌いすんなよ! お前が嫌いって言うから細かく刻んだんだぞ!」
「うえぇ~」
野菜スープに入れた黄金人参を除けたロゼを叱った。
マジでウザい。塩もみして、下茹でして、限界まで臭みを取ってから細かく刻んでスープに入れたんだぞ?
見ろ、ピットとエリザは美味そうに食ってるじゃないか。
魔王のお前がそれでどうする。
「おい、飯も食ったし買い出し行くぞ」
「うええ~雨じゃし、また今度でいいじゃろ。親子丼? じゃっけ? パンと一緒に食べれば良かろう」
「あのなあ、親子丼は米じゃなきゃ本来の美味さを発揮出来ねえんだよ」
「じゃあ行く」
ロゼと一緒に傘を差して買い出し。
傘に当たる雨音が楽しいらしくロゼはスキップなんてしている。
雨なんて濡れるだけだろ。どこが楽しいんだ。
足元を濡らしながらリベルに到着。ロックバードの羽を売って米の買い出しをする。
雨と言うことでかなり人通りが少ないな。店もちらほら閉まっている。
大通りにあるあの米売ってる露店……やってるかな。
(お、良かったやってた)
目当ての露店が開いていて一安心。
米の吟味を始めるとロゼは暇なみたいで俺の後ろでびしょ濡れになってはしゃいでいた。
本当にバカなガキだ
「クロノス! 儂気づいたんじゃ! 一旦全部濡れてしまえば濡れるのが怖くないぞ!」
「ああ、そう」
(バカは無視して米だ米)
露店にある米に視線を向ける。より安く、より品質が良い米が欲しい。
袋詰めにされた米を一つ一つじっくりと見る事三十分。
ふと視線を上げると、店の奥に一際オーラを放つ袋を見つけた。
「っ! まさか! あの米!」
「……気づいたかい? お目が高い……ココヒカリの新米だよ」
「ココヒカリの新米!? 最高級品じゃないか! いくらだ!?」
「一キロ金貨一枚だ」
「高い! 銀貨八枚で!」
そこから商人のおっさんとの値切り交渉。一時間はしたと思う。
帰れって言われてから本番だね。絶対帰らないことがコツ。
「はぁ……分かったよ。兄ちゃんの熱意に負けた。そこの子供に美味い飯を作ってやれよ。 銀貨七枚でいいよ」
「しゃあああ!」
最終的には、銀貨七枚で買えることになった。
でも、代償としてこっそりロゼたちに隠れて貯めていたへそくりが全部吹き飛んでしまったのが残念だった。
仕方ない。美味い親子丼の為だ、必要経費だったと思う。
「おい、ロゼ帰るぞ」
米をアイテムボックスにしまい、振り返る。
(あれ? 誰だ?)
しかしそこにいたのは……びしょ濡れのロゼではなく傘を差した獣人のガキ。
じっと俺を見つめ、一枚の封筒を渡してきた。
「さっき変なおじさんから、これを渡してって言われた。じゃあね」
「ん? ありがとう」
受け取り、中身を確認する。
――時を止めた。
「殺ろおおおおおおおおおす!」
そこに書かれてあったのはこんな文章……。
【ガキは預かった。返して欲しければ武器を持たずに、リベル西にあるゴブリンの洞窟に来い】
止まった世界の中、俺は宙に浮かぶ雨を身体で掻き分けながら西へと向かった。
静止した世界では傘は意味をなさない。
雨は上から降るものじゃなく、空間に満遍なく浮かんでいる物だからだ。
傘をアイテムボックスにしまい、びしょ濡れになりながら進む。
――思うことは一つだけ。
(どこの誰だか知らねえが! 元勇者怒らせたらどうなるか見せてやる!)
ブクマ、評価をしてくれたらモチベーションがグングン上がります!
面白い! 続きが読みたい! と思ったら、ぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれると嬉しいです!
頑張れ! 期待してる! って思った方もぜひ評価をお願いします!
応援よろしくお願いします!