月
食事をしてたら……なんかデカい龍が来た。
外に出て、顔を見せたら縮んでガラムになった。
「……マジで何だったんだ」
小さくぼやきながらリビングに戻る。
軽く脅したつもりだったが相当ビビっていたようで、正直笑いを堪えるのが大変だった。
というか、ガラムのせいで話が中断してしまったが、丁度デザートを食べながら勇者の話をしてたんだよ。
「なあ、ロゼ。さっき言ってた勇者が現れたって本当か?」
「うむ! ピーンと来たんじゃ間違いない! 異世界からの勇者じゃな!」
ロゼは美味そうにプリンを食べながら元気にそう言う。
嘘だと思いたいけど……本当なんだろうな……。
「まじかぁ……時を止める力が無くなっちゃうのかぁ……」
軽く凹んだ。
新しい勇者が出てきたってことは、女神様が俺をもう勇者ではないと見なしたって事だからな。
多分徐々に俺の力も弱くなってくるだろうな。時止め……便利だったんんだけどな。
「ううむ……しかし完全に無くなるわけじゃないと思うがの。さっきも時を止めたんじゃろう?」
「うん……だけど、なんかふわっとしてた気がする」
いつもはカチッと止められるんだけど……ふわっと止まった……気がするんだよ。
めっちゃ説明が難しいんだけどね? なんかいつもと違う。
今のところ、時を止められる時間は変わらない気がするけど……怖いなあ。
「てか、ロゼはそう言うの無いの? 新しい魔王が生まれたら不死じゃ無くなるとか」
「ない! 儂の不死は永遠じゃ! 儂はそう作られたからの!」
いいなあ……。
ずるい。
「ん? 待て待て待て待て」
「何じゃ?」
「作られたってなんだよ! 生まれただろ!? それじゃあまるで……」
「そうじゃよ? 儂ら魔王は邪神様に作られたんじゃよ?」
「「「ええええええええ!?」」」
瞬間──俺だけじゃなく、ピットとエリザも叫んだ。
ええええ!? お前らも知らなかったんかい!
それはそれで驚くわ!
「ウチ……ロゼ姉さんはどこかの魔人出身やと思ってました……」
「私もです……長い年月で力を付けて魔王になったのかと……」
「俺も! そう思ってた! なんかある程度力を付けたら魔王になるんじゃないの!? だから四天王もそれぞれ国を作って力を付けてるのかと……」
「違うぞ? 邪神様の力を持っている者が魔王と呼ばれるんじゃ。……あーそう言えば四天王に儂の血を飲ませたから一応奴らにも魔王になれる条件はあるかもしれんのお」
「多分無理じゃろうけど」と付け加えながらロゼはプリンを美味そうに頬張る。
知らなかった……邪神と呼ばれる存在がいるなんて……。
そして魔王になる条件があるなんて……。
ええ~……マジかよ……一応まだ勇者の力が残ってるし責任あるのかなぁ……。
「その……邪神って言うのはどこにいるんだ? 一応倒さないとマズイかな? まだ時止められるし、一応元勇者だし」
俺がそう言うと、ロゼは少し困ったような顔をしてスプーンを止めた。
「あ~……無理じゃな。神じゃし。というか邪神様の元へは辿り着けもしないじゃろうな」
そしてロゼは席を立って外に出ると、指をピンと立て空を指さした。
その指の方向には……真っ赤な……。
「じゃって邪神様はあそこにいるんじゃもん」
「つっ……月……」
時を止めようが、不死の力があろうが、決してたどり着けない人類未踏の地。
俺は、震える手でポケットから煙草を取り出し火を付ける。
空に赤く輝く月を見ながらロゼに話しかけた。
「じゃっ……邪神は……人類の事が嫌いなのか?」
「分からん。儂も見たのは作られて地上に転移されるまで一瞬だけじゃったしのお」
ロゼは懐かしむ様に目を細め、うっとりと月を見上げていた。
そして、ニカっと笑い俺に顔を向けた。
「じゃが今人類が生きているって事は、そんなに嫌いなんじゃないんじゃないかの」
「それは……本当に助かった……」
一気に身体の力が抜ける感覚がした。
脱力した俺は、もう一度だけ赤い月を見上げ煙草の煙を吹きかけてみた。
……遠い。そりゃそうだ。あんなところ行けるわけない。
「うん。今日聞いたこと忘れる。無理」
「まあ、それが良いじゃろうな。神に挑もうなんて儂らにはおこがましすぎるよ」
そして再び俺たちは家に入ると、みんなで布団に入った。
窓からのぞいているのは赤い月。
まるで俺を見ている様に見える。
俺は寝ている幼女たちを起こさないように時を止めて、カーテンを閉めた。
そして布団に入り、少しの時間ロゼを強く抱きしめると、時を動かし始めた。
「んんう……寝苦しいんじゃ……」
ロゼの小さな寝言をBGMに眠りにつく。
今日はいい夢を見そうな気がした。
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