奈落のダンジョン2
家に帰ると、ロゼが食器を洗っている所だった。
リビングの椅子に座り、まずは一服する。
「いやーやっぱりローランの城まで行ったり来たりは疲れるわ」
「……儂らから見ればまだ五分しか経ってないのじゃがな」
「いや、俺の体感時間だと相当時間かかってる」
ふう、と煙草の煙を吐き出しながら人心地。
隣でエリザがせっせと煙草を作っている音がBGMとなり、なんだか眠くなってしまいそうだ。
「あ、そうだ。一日家を空けるから明日の料理作っとくよ。シチューでいい? 一日くらいなら持つし」
言った瞬間。ざわっと空気が揺らいだ。
エリザが煙草を作る手を止め、ロゼが食器を洗う手を止めた。
「ええ! なんでじゃ! なんでじゃ! 嫌じゃ嫌じゃ!」
「なんでですか! 用事ならいつもみたいに時を止めて行ってきて下さいよ!」
わぁっと凄い剣幕で二人が駆け寄って来る。
地下までその声は聞こえたらしく、ピットも何事かとひょっこり顔を出した。
「ピットちゃん大変です! クロノス様が一日家を空けるって言うんです!」
「なっ! なっ! なっ! なんやて!」
すると、ピットも駆け寄ってきて抱き着きながら叫んだ。
「なんでですか! なんでいなくなるんですか! ウチらを置いてどこに行ってまうんですか!」
「ウザい! 離れろお前ら!」
一旦時を止めて、反対側の椅子へと移動する。
一日くらい出かけることも出来ないのかこの家は!
仕方ない、説明が必要なようだ。
「あのな? 俺はこれからダンジョンに行くんだよ。奈落のダンジョンをマッピングしてくるの! だから時間が止められないの! いや止められるけど! あんまり止めれないの!」
「なんでじゃ! なんでじゃ! 嫌じゃ! お主がいなくなったら夜中急にトイレに行きたくなったらどうすればいいんじゃ! 一人で行かんといかんじゃろ!」
「それは知らん! 話を聞け!」
ごねるロゼを抑え、俺は説明した。
「あのな? お前らは知らないだろうけど時間が止まった世界って言うのは空気も音も止まってるんだよ。だから……」
そう、実は俺の時を止めると言う能力は、非常にダンジョンの探索に不向きなのだ。
特に今回の様にマッピングをすると言う仕事には。
あれは三年と少し前。
魔王討伐だと言うのに、銅貨三枚と木の棒しかくれなかった王に腹を立て、まともな武器を入手しようと奈落のダンジョンに潜った時だった。
●
「……ヤバい完全に迷った」
俺は、奈落のダンジョン三階層で完全に迷っていた。
三階層なんて普通の冒険者でも楽々突破出来るのに、だ。
「俺……気づかなかっただけで実は方向音痴だったのか?」
ほんのりと魔光石が暗闇を照らす薄暗い洞窟型ダンジョンで、俺は数十分前(と言っても止まった時間でだが)木の棒で殴り殺したゴブリンを足で蹴る。
硬直したゴブリンはそのまま壁にぶつかり、そこでまた固まった。
「……くっそ。とりあえず外に出たい」
そこから歩き回ること更に二時間。
ようやくなぜ迷っているかの理由が分かった。
「もしかして……時を止めてるから?」
他の冒険者と俺との違いなんてそこしかない。
時を動かし始め、周りに意識を集中させてみた。
僅かな風の動きや、微かな空洞音が聞こえる。
「こっ……これかぁ!」
この時分かったのだが、実は人間と言うのは常に五感を使いながら生活しているらしい。
特に奈落のダンジョンの様な薄暗い洞窟型のダンジョンになると、僅かな風の動きや物音が非常に重要になり、それが無いと方向感覚が少しづつ狂っていく。
「なるほどなぁ~時を止めてのダンジョン探索は逆に危険なのか」
独り言を言いながら、飛び掛かってきたスライムを一瞬だけ時を止めて躱し、先に進む。
いつの間にか先ほどまでは見つからなかった道を見つけ、地下へと進む道が見えた。
(確か……今までの人類最高到達地点が100階層だったっけ)
そして、食料が切れるまで探索を続け、遂に地下200階層にて聖剣ソハヤを見つける。
「ちっ……ここまでみたいだな」
小さく呟き、時を動かすと聖剣を守っていた巨大なゴーレムが崩れ落ちた。
黄金に輝き、千の手を持つ不思議な服装のゴーレムだった。
「しかし……一体ここはどこまで続いているんだ?」
帰り際、更に下に続くうす暗い道を見て呟いた。
そこから俺を覗いているのは、怒った表情の男性型ゴーレム二匹。
『阿』
『吽』
不思議な言葉を吐きながら俺を睨みつけている。
近づかない限り攻撃してこないようだが……多分この聖剣を使って、時を止めて戦っても相当時間が掛かりそうな相手だ。
面倒くさいし、俺の目的は魔王討伐だからな別に戦わなくても良いだろう。
「いや、俺はもう帰るから。じゃあな」
そして俺はダンジョンから生還した。
〇
「って感じでな? 特に今回の仕事はダンジョンのマッピングだから時を止めたら迷っちゃう可能性があるんだよ。分かったか?」
と、昔話も織り交ぜつつ、ロゼたちにダンジョンで時を止める危険性を話すと、ロゼは顔を強張らせながら言った。
「……え……お主……あの千手観音と戦って勝ったのか……」
「へぇ~そんな名前なんだ。時止めて、ずっと魔法をぶっ放してたら勝てた」
「……儂、昔力試しに地下へ潜って千手観音に勝てなくて引き返したんじゃよ」
へぇ~そんなに強かったんだアイツ。
ん? もしかして、ロゼなら奈落のダンジョンの深層の秘密とか知ってんのかな?
長く生きてそうだし、なんか知ってんじゃないかな。
「ロゼってさ、奈落のダンジョンの事どこまで知ってるの? 俺たち人間が知ってる情報では凄い昔に出来たって事しか知らないんだけど」
「儂ら魔族もあのダンジョンについては何も知らんよ。殆どお主と同じじゃ」
「ふぅ~ん」
なんだ。ロゼも知らないんなら仕方ないな。
少し気になるけど、そろそろ明日の分の飯を作って仕事に行くか。
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