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元最強勇者 商会を出禁になる

 ロゼたちと一緒に住みようになってから、一年が経った。


 国賓なのに、いつの間にか家事全般をするようになり、料理のレパートリーなんて倍以上に増えてしまった。

 今日だって朝早く起きて朝食を作り、クリーンの魔法で幼女たちが脱ぎ捨てた洋服を洗濯してやった。

 そして、今だ寝ている幼女たちに近寄り……。


「おっ……おい。大丈夫か? おかゆ作ってやったから食べろよ? ほら、服も洗濯したから着替るぞ。 汗でびっしょりじゃないか」


「ううっ……コホッ……コホッ……ありがとうなのじゃぁ……」


「コホッ……コホッ……クロノス兄さん……すんませんなぁ……」


「コホッ……ありがとうございますぅ~……おかゆ美味しいです……」


「良いから早く食え。そして寝ろ。半日も寝てれば治るから」


 そう、現在俺は風邪を引いてしまった幼女三人の看病中なのだ。

 全く、なんで国賓の俺がこんな事しなければいけないんだ。

 ちゃんと風呂から上がったら髪の毛を乾かせって言うのに、全然乾かさないからこうなるんだよ。


 幼女三人におかゆを食べさせると、ロゼは服を着替えすやすやと寝始めた。

 よし、いいぞ。そのまま寝とけ。すぐに良くなるからな。

 ピット、エリザお前らもだ。早く寝てくれ。顔真っ赤じゃないか。


「コホッ……コホッ……ありがとうなあ、クロノス兄さん……でも、うちら今日は街に酒と煙草を売りに行く日なんや……行かな……」


「コホッ……そうなんです……国賓のクロノス様はここでゆっくりしていて下さい……それは私たちの仕事なので……」


「……っ!」


 こいつら! 風邪ひいてんのに大人を家で待たせて金を稼ごうとしてやがる!

 ガキにそんな事させるわけないだろ! こっちにもプライドって言うものがあるんだ!


「ダメに決まってんだろ! お前らは寝てろ! 俺が売りに行ってやるから場所教えろ! 売り物貸せ!」


 俺は、立ち上がろうとするピットとエリザを無理やり布団に寝かせると、部屋の片隅に置いてあった木箱をアイテムボックスの中に入れた。

 中にはピットの作った酒が十本とエリザの作った煙草百本が入っている。


「せやかて……クロノス兄さん……悪いですよ……」


「そうですよ……これは私たちの仕事で……」


 うるさい! 早く寝ろよ! フラフラじゃないか!

 俺は変化の指輪を使ってピットの姿に変身すると言ってやった。


「はい! 今から俺ピット! ドワーフのピットちゃんです! 今日は俺がピットの日だから俺が売ってきます! 早く店教えろ!」


「ううっ……クロノス兄さんありがとうなぁ……ありがとうなぁ……」


「ううっ……ありがとうございます……」


「うるせえ! これは貸しを作っただけだ! 今度酒と煙草を献上しろよ!」


 その後、俺は幼女二人から売る場所を教えて貰うと街へと向かった。

 店の名前は【黒髭商会】

 商人『ニギル』が仕切っている商会で、自分の店を持ってない人はそこに商品を卸しに行くんだと。


「ここか……大きいな」


 リベルに着き、大通りを道なりに進むと噂の黒髭商会が見えてきた。

 周りには沢山の商人たちが商品の入った袋を片手に歩いている。


 俺は商会の前で立ち止まると、酒と煙草が入った木箱をアイテムボックスの中から取り出した。

 チラッと中を見て考える。


(そう言えば、この酒と煙草ってどれくらいで売れるんだろうな)


 と、思いながら木箱を持って商会の受付に。

 ドワーフの酒とダークエルフの煙草だ。まあまあの金になるだろう。

 こんなの作れるのに、なんでアイツら貧乏してんだよ。


 〇


「銀貨九枚です」


「はあ!?」


 受付嬢から言われたのは、酒十本と煙草百本で銀貨九枚と言うふざけた買取金額だった。

 ドワーフの酒とダークエルフの作った煙草だぞ? めちゃくちゃ高級品だろ! 舐めすぎだ!


「いやいや、安すぎだろ! この商品には金貨十枚の価値はある!」


 思わず今、自分がピットの姿をしていると言う事を忘れて叫んでしまう。

 すると、奥の扉が開き、でっぷりと太ったおっさんがニヤニヤしながら近づいてきた。


「ま~たお前か。いい加減買い取って貰えるだけでも感謝しろよ」


 黒い口ひげを触りつつおっさんは言う。

 胸元に【ニギル】と書いたネームプレートを付けているし、コイツがここのトップであるニギルだろう。


(なるほど……なんとなく分かってきた)


 ドワーフの酒とダークエルフの煙草を売ってるのに、なんでアイツらがあんなに貧乏をしていたかの原因がな。

 ニギルは臭い口を近づけ、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら言う。


「買い取り価格が不満なら売らなくてもいいんだぞぉ~? 金貨百枚を払って営業許可証を買って自分で売ればぁ~? まあ、そんな金が無いからここに売りに来てるんだろぉ~?」


 ニギルはそう言と、俺から木箱を取り上げ受付テーブルに置くと、代わりに銀貨九枚を俺に向かって放り投げた。

 床に散らばった銀貨が、コロコロと転がっていく。

 俺は腰をかがめ、床に散らばった銀貨を拾い集める。


「と言うか、次文句言ったら買い取らないって言っただろぉ~? 土下座すれば許してやるよ」


「嫌だ」


 瞬間ーーニギルは激昂し、俺が拾い集めた銀貨を叩き落とした。

 再び銀貨は床に転がっていく。

 周りにいる商人たちはニギルに何か言いたそうに口を開け……すぐに閉じて目をそらした。


「ふざけるな! ガキから買い取ってやってるだけでもありがたいと思え! 周りで見ているお前らもこいつらから商品を買おうなんて思うなよ! そんな事したら潰してやるからな!」


 俺はゆっくりと周りを見渡し、再び銀貨を拾い集める。

 商人たちは申し訳なさそうに遠巻きで見ているだけだった。

 床に散らばった銀貨を一枚一枚ゆっくりと拾っている俺に、ニギルは怒声を浴びせかる。


「もうお前から商品は買い取らん! どうしても買い取って欲しかったら今までの倍! 酒と煙草を持ってこい! そしたら銀貨九枚で買い取ってやる!」


 言い終えると共に「ぶはははは!」と気持ち悪い笑い声をあげるニギルに俺は言った。

 拾い集めた銀貨を握り、ニギルの目を見る。


「金貨百枚あれば営業許可証とやらが買えるんだな?」


「買えるものなら買ってみろ! 今、ここにいる商人達が欲しくて欲しくてたまらないものだ! お前如きガキが買えるものではない! 早くその金を持って出て行け!」


「持って帰るのは金じゃないがな」


 と、俺は酒と煙草が入った木箱を持ちながら商会の扉を出て行った。

 数秒後、ニギルは自分の手から銀貨を落とし、叫ぶ。


「なっ……なんでいつの間に銀貨を握ってるんだ!? おい! 待て! なんでお前、その木箱を持っている! 返せ! それがどのくらい価値があるのか分かってるのか! それが無いと俺は……」


 俺はその声を無視しながら商会を後にする。

 もうここには商品を卸さない。

 自分の店を買い、そこで商売してやる。

 金貨百枚? 0秒で稼げるわ。

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