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歌は異世界を救う!?(仮)  作者: なおゆき けいとし
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働くって難しい

                      シリの村編

                    働くって難しい


「ふぁ?」

ああ~よく寝た。そう、伸びをしようとしてありえない暑さとごわごわする毛布に違和感を覚える。


「あら。起きたかい?」

褐色の肌のシオナに声をかけられて、ようやく昨日のことを思い出した。

そうだった。文化祭の準備をしていたはずが、トイレに行った時に何か大きな黒い穴?が広がって、その闇に飲み込まれて異世界転移したんだった。


環境が変わって、眠れるわけない。と思ったのは数分で、疲れのせいで、今まで熟睡してたみたいだ。


「おはようございます。今何時…?」

そこまで言いかけて、はっとする。何時とか分かるのだろうか?そもそも時間の感覚は地球と同じなのか。


「ふふふ。よく寝てたからね。もう8時だよ。」

地球と同じみたいだ。もしかしたら、翻訳機能で、地球語に直してあるのかもしれないけど。


「悪いねえ。今日は仕事で、もう出るんだよ。ケイは気にせず、ゆっくりしててね。」

シオナはそう言うと、鍵を置いてリオを抱っこして、出て行った。


シオナが勤めているのは、羊やゴモラと呼ばれる家畜から捕れる毛を糸に紡ぐ紡績工場だった。社会の資料集にあった工場制手工業を思い出すが、多分あんな感じで、人が糸巻き機みたいなのを回しているのだろう。


リク君を連れて行ったことに驚いたけど、ここでは、普通のことらしい。糸巻き機の周りで遊ばせて、泣いたら手を止めてあやしたり、おっぱいをあげたりして過ごすらしい。保育園とかいう観念はなく、働きたい人は子どもを連れて行くか、少し大きくなると、家の手伝いをしたり、遊んだりするのだとか。

子どもはお互いに面倒を見て、見られて、そうやって村を維持しているのだそうだ。


シオナが用意してくれていたナンとスープを食べると、早速出かける準備をする。シオナは、

「若い子が足をさらして、何かあったらどうするんだい。」

と、言いながら長い布を貸してくれたので、それをマントのようにはおる。


ちなみに昼食も準備してくれていた。これは、ナンに干し肉を挟んだピタパンみたいなものだった。

お弁当を持って、村を探索。


天気が良いせいか、昨日の不安が嘘みたいにウキウキしてきた。

異世界転移、どうせなら楽しもう!

ケイは自分で思っているよりも楽天的だったらしい。


シオナに借りた鍵をかけ、それを外の植木鉢の下に置く。誰かに見られていないかドキドキしたけど、シオナは鍵を預ける時に、

「なに、取られるものはないし、ここらへんは皆同じ場所に鍵を置いてるさ。」

と笑って言っていたから、多分大丈夫だろう。


「うへぇ、暑い。」

外はもう、とっくに30℃を越えているようだった。カンカン照りの中、日陰を選びながら進む。

昨日は不安いっぱいで歩いていたから長距離を移動したように感じたけど、思ったよりも

早く昨日初めて転移した見覚えのある場所まできた。


マントを羽織っているせいか、周りになじんでいるようで行き交う人に不審そうに見られることもなかった。通りは相変わらず色々な種族が歩いている。


ふと昨日と同じ所で止まったら、また時空の扉が開いて日本に帰れるかも…と期待してみたが、数分止まっても、何も起きなかった。

…うん。やっぱりね…

別に期待してなかったし。と強がりながら敬子はまた歩き出した。


しばらく歩くと、土壁と木で作られた家々が並ぶ長屋通りが途切れ、大通りに出た。真ん中には巨大な円形状の噴水の台座っぽい物がある。

一休みしようと、近づいて縁に座る。もちろん噴水台の中には水が一滴も入っていなかった。日照りはどうやら深刻らしい。


通りを眺めていると、

「とうとうここにも水がなくなったわね。」

「ああー全くだ。作物も全部枯れたさ。このままだとそろそろ死者が出るぞ。」

洗濯物を入れたカゴを持った中年のおばさんと、広場で体操をしていたおじいさんがそばで立ち話を始めた。


「なんでも領主様が物資を届けてもらえるよう、王都に直訴に行っているらしいがなぁ…」

「ああ、知ってるよ。でも、この時期だろ?難しいんじゃないかい。」

広場をぼうっと眺めながら、敬子は二人の立ち話に耳をすます。


「北の魔物に、南の大雪、西の大地震に東の日照りときたらな。俺が王でも手も足もでねえや。」

「バカだね。あんたが王になったら、国がとっくに潰れているよ。」

「ちげえねえ。」

オチが着いたようで、二人はがっはっはと肩を叩いて笑い合う。日照りとか、死者とか言っている割に、こんなに笑えるってすごいんですけど。若干引きながら、敬子は二人を見上げた。

途端、笑い終えた二人と目が合う。


「あれ?どこの子だい?見慣れない子だね。」

「おお。どうした。迷子か?」

突然、自分に声をかけられて目を瞬く。


「いや、あの。昨日、ここに来たんですけど、仕事を探していて。」

驚きながらも、敬子は何とか答える。


「仕事?親はどうしたんだい?」

なんだか、ここの人たちはぐいぐい来る感じだ。圧がすごい。

敬子は圧倒されながら、シオナのうちにお世話になっていること、仕事を探して早く独り立ちしたいことを話す。


「うーん、仕事ねえ…」

洗濯カゴを持ったままのおばさんは、困ったように、もう片方の手を頬にやって敬子の全身を見る。

「何かできることないですか?私、なんでもします!」

胸に手を組んで懇願する。それを見た二人は、なぜか顔を見合わせてため息をついた。


ため息をつかれるようなこと、言ったっけ?そう思う間もなく、

「いいかい?まだ小さいあんたには分からないかもしれないけどね。」

「ああ、何でもします。なんてそんなに可愛い顔して言っちゃダメだぞ。よからぬことを考えるヤツだっているんだ。」

なぜか、説教が始まってしまった。


「私、これでも15歳ですけど。」

それに、何でもします。という一生懸命な発言を聞いて下世話なことを考えるヤツの方が問題ではないか。

しかし、『15歳』という言葉を聞いた途端、二人の視線が胸に集中して、そのまま絶句してしまった。


「…で、仕事なんですけど。」

敬子が胸の前で手を振って目線を遮り、二人ははっとした顔で胸から目を離す。


「お、おお。そうそう仕事。」

「うーん。難しいねえ。力もなさそうだし、針仕事は?字は書けるかい?魔力があったりは?」

矢継ぎ早にかけられる選択肢に、力なく首を振る。


「うーん、難しいねぇ。」

選択肢が出てこなくなったことに焦った敬子は、急いで口を開く。

「いや、でも字はこれから覚えるし、多分計算はできます。メイドとか、子守とか商店のお手伝いとか。」


敬子の提案に、今度は二人が首を振る。

「メイドを雇えるようなお貴族様は、この辺にはいないさ。第一コネや紹介もないのに、雇ってくれないだろう?」

「そうだよ。紹介なしでいいんなら、私が雇ってほしいくらいだよ。子守も、この辺では子どものちょっとした小遣い稼ぎで、仕事には向かないねぇ。」


コネの問題で商店も無理らしい。

日本で、多少は不満もあったけど、それでも一生懸命勉強してきたことが、ここでは何の役にも立たない。


今まで頑張ってきたことの全てを否定されたような気がして、敬子は下を向いて唇を噛んだ。


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色んな人に出会いました。

次回は金曜です。


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