拾った少女は・・・(シオナ視点)
シリの村編
拾った少女は…?(シオナ視点)
王都から東に進んだ最東の端がここ、シリの村だ。
高くそびえ立つ山々を挟んで国境があるおかげで、昼間の高い気温、そして夜になってからの肌寒ささえしのげれば、他は平穏な村だった。
元々の住民は、厳しい気候ながらも皆で恵みを分け合い、支え合って過ごしてきた。
時折、高い山に生息する魔物を刈る冒険者や商人、その護衛などの来訪もあり、村はそこそこ潤っていた。
しかし、こんな小さな少女が一人で訪れるには不似合いな場所だろう。
シオナはすうすうと寝息を立てる少女を見やった。
肩で切りそろえられた髪は、よく手入れされているのが分かるように艶のある光沢を放っている。暑さにさらされて頬も唇も少し日焼けしているが、陶器のように白く滑らかで、荒れた所が一つもない。着ている物も清潔で、縫い目が分からないくらい見事な仕立てだ。抱き起こした時の感触も柔らかく、良い香りがした。
そして履き物―――。桃色の輝きを放つそれは高貴な者でなければ手に入らない物に違いない。
言葉も丁寧で、小さいのに庶民とは思えない気品がある。
この突然現れた、ケイと名乗る少女は、どこかの貴族の娘で、突然誘拐されてここに来たらしい。魔法を知らないということは、隣国の機械技術の発展した国か、自分の知らない国だろう。
スンガ地域では、昼間は暑いものの、夜になるとぐっと気温が下がる。
葦で編んだ敷物の上に、羊毛で作った毛布をかぶせてシオナとリオ、そして敬子は横になって寝ていた。
少し寒かったのか、肩をふるわせた敬子に、シオナは毛布をかけ直してやる。
「お休み」
と言ってからシオナはしばらく目を閉じたまま敬子の気配を探っていた。
敬子は葦で編んだ敷物や毛布が体に合わないのか、何度か寝返りを打った後、声を出さないように泣いていたようだった。
「……っ、……っ。」
時折漏れる嗚咽に、シオナまで胸が詰まる。
貴族のように高貴な身なりで、気品もあるのに、どうやらケイは声を出さずに泣くことに慣れているようだった。
抱きしめて、頭をさすって落ち着かせてやろうかとも思ったが、声を出さずに泣いているということは、自分に気づかれたくないのだろうと、止まった。
15歳――――
この地域なら、そろそろ結婚を考える時期だ。
それなのに、ケイの体は、きちんと食べさせてもらっているのだろうかと、心配になるほど小さい。
誘拐されて、食べさせてもらえなかったのだろうか、それとも身内に虐げられてきたのだろうか…。そんな想像をして、シオナは涙ぐむ。
息子のリオがそんな境遇になったらと思うと、ついつい親身になってしまうのだ。
なるべく量を食べさせなければ!シオナは使命感にも似た思いを抱く。
頭の中では、滋養に良く安価な食べ物リストが浮かぶ。
明日、仕事の合間に市に寄ってみようか、そんなことを考えながら久しぶりにウキウキした気分になった。
しかし、小さいながら考えることはしっかりしていた。
訳も分からず誘拐されてきたとはいえ、シオナに頼るよりも自活の道を探そうとしていたのだ。これは、傅かれることが当たり前の高貴な者にありえることなのか。むしろ市井の者の考え方ではないか。
そこまで考えて、寝る前に自分を拝んできたケイのことを思い返す。
スカートを掴んで上目遣いに自分を見るケイは、自分でなくても庇護欲をかきたてただろう。あんな目で見られたら、男でなくとも、なんでも聞いてしまいそうだ。
そう、明日になったら「なんでもします。」なんて、若い娘が簡単に言ってはいけないと注意しなければ…。
シリは平和な村とは言っても、よからぬことを考える人間はどこにでもいるものだ。
日々の仕事と育児で疲れていたシオナは、思考がそれてきたことに気づかなかった。
そして、ケイとの巡り合わせを女神イシュマンに感謝しながら、深い眠りに落ちていった。
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いつになったら歌えるのか!?
・・・続きます。