年齢は胸の大きさとは関係ない
シリの村編
年齢は胸の大きさとは関係ない
夕食は、ナンのような平べったいパンとスープだった。日照りで野菜が獲れないとシオナは申し訳なさそうにしていたが、見知らぬ自分をこうしてもてなしてくれているだけで涙が出るほどありがたい。
「女神イシュマンに感謝を。」
胸に手を当てて感謝を捧げ、シオナは食べ出した。
敬子は、すでにナンに手を出していたが、それをそっと戻して同じように胸に手を当てる。
「か、感謝を。」
シオナの息子のリオが隣でスープに浸して柔らかくしたナンを一生懸命しゃぶっているのを微笑ましく見ながら、ささやかだけ温かい食卓に敬子はほっと息をついた。
お腹が満たされると、落ち着いて自分の置かれた状況をふり返ることができた。
見知らぬ土地で一人。言葉は通じるけどこの国の常識とかないし、お金もない。帰る方法も分からないし、いや、そもそも帰れるのか。
「ところでケイ。あんたこれからどうする気だい?」
考えに沈んでいたら声をかけられた。
「うん、それなんですよね。帰る方法もわかんないし。でもお金もないし。何かできることがあるといいんですけど…」
ここと日本では環境も常識も違う。高校生でバイトすらしたことない自分でも、家事労働とか、子守とか、できることを捜さなければならない。
日本でもあったJKビジネスとか最悪身売りとかを避けるためにも、早めに自活の道を見つけたい。
「うーん。そうだねえ。できることねえ。」
シオナは敬子を上から下までじっくりと見ながら、考え込んでしまった。
黙ったまま固まってしまったシオナを見て、敬子はため息をつく。
この世界で仕事を探すことは、どうやら想像以上に難しそうだ。
「うーん、子どもができることなんかは限られているからねえ。」
「うん?私今15歳ですよ。まあ、子どもの範囲に入るかもですけど…」
「は?今なんて。」
シオナは驚きに目を見張る。
「子どもの範囲に。」
「いや、その前だよ。15歳?8歳くらいだと思ってたよ。」
シオナの目線が胸の辺りにある気がして、敬子は遠い目になる。確かに発育不良気味ではあるけど、8歳はないだろう。
「いや、本当に15歳です。」
というか、この世界の人が育ちすぎではないのか。シオナの胸は服の上から見ても、リンゴ大よりも大きく実っていそうだ。
「あ、あらそうかい。ごめんよ。おかわりはいいのかい?」
おかわりを進められて更に落ち込む。その憐れみの入った『ごめん』もやめてほしい。
おかわりを丁重に断った後、再びお金を稼ぐ方法について考える。
「15だって?私が嫁入りしたのは16だから…いや、でもこれからぐっと伸びる民族なのかもしれないし、小さい方が好きという男性も…」
シオナが何やら、ぶつぶつ言っているが無視だ。
魔法とか調薬とかなんか特化した技術があればなんとかなるんだろうけど、今のところ日本から来て体内に変化した感覚はない。魔法、使ってみたかったな。
そういえば、日本人は幼く見えると聞いたことがある。8歳に見えるならお金を稼ぐことは難しいだろう。
「ま、まあ、今日はもう遅いし、明日この辺を歩いてみてできそうなことを捜したらどうだい?」
黙ってしまった敬子を見て、この話題はこれ以上長引かせてはいけないと思ったのか、シオナが話題を変える。
逆に言えば、今ここで答えられるような敬子にできる職業はないということだ。
その事実に敬子は肩を落とす。
「そうですね。今ここで考えてもしょうがないみたいだし。明日また考えます。」
明日職を探して見つかったとしても、それですぐに自活できるわけではない。
敬子はしばらく逡巡した後、意を決して口を開いた。
「あのう、それでお願いがあるんですが…」
「分かってるよ。身の振り方が決まるまで放り出したりしないから。安心しな。」
言いにくそうにスカートを掴んでもじもじする敬子に、シオナは片目をつぶって笑顔を見せる。
「ありがとうございます!ありがとうございます!私、何でもしますから。」
シオナの温かい言葉に、自然と涙が浮かぶ。
「いいよ、いいよ。大げさだね。さ、今日は疲れてるだろ。もう休みな。」
思わず手を合わせて拝みだした敬子に、シオナはそう言うと、息子のリオを抱き上げて寝室に連れて行く。
その後ろ姿を見ながら敬子は思う。
幼い子と母親二人暮らしなら、それほど豊かではないはずだ。
この優しく温かな親子のためにも、できるだけ早く出て行かなければ!敬子はそう誓うのだった。
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なかなか歌がでてきませんね・・・。