王国の窮状(サマカーン視点)
シリの村編
王国の窮状(サマカーン視点)
イシュマン国は、女神イシュマンを祀る国で、その中央には白亜の宮殿が建ち、そこを中心として円形に城下町が広がっている。
その東は国土の4分の1を占める荒野が広がる。西は海があり、南には人が越えようとするのを阻むかのような険しい山脈が連なり、北は小国のサルマン国、ウイルシュ国と接する。
温暖な気候で農作物もよく実り、侵略されにくい土地柄ということもあって、建国当初より栄えてきた。
つい最近までは…
「一体どうなさるおつもりですか!?」
白亜の宮殿の一角、小規模な議論を行うためにあつらえられた円卓で激高した宰相が叫ぶ。
円卓には王と宰相を筆頭に各地区を収める公爵と、各種族の代表が並び、その後ろには護衛が控えている。
「大きな声を出すな。聞こえておる」
うるさそうに答えるのは、イシュマン国108代目の王サマカーンだ。王冠をかぶってはいないものの、壮齢の男は、薄紫の上衣にゆったりした下衣を履き、絨毯に届くほどのゆったりとした赤いマントを羽織っている。薄紫は貴族のみに許された色で、王の上衣には、女神イシュランの化身として名高い羽根の長い鳥の刺繍がある。
周囲の国々よりも抜きんでて豊かな国であったイシュマンは、今建国以来の危機にあった。
東では日照りが続き、作物が実らない。西では大きな地震があり、南では季節外れの大雪。
北では魔物が増加しており、家畜ばかりか人が襲われる事態。
「閣下、国庫を開いてください。このままでは東の民が飢え死にします。」
「東だけでなく、西にも物資を送ってもらわねば」
東の公爵が言えば、西の公爵も重ねて発言する。
「そもそも国庫にはそこまで残っておりませんぞ」
宰相は、残り少なくなってきた国庫を思い浮かべる。元々平和にして豊かな国であり、国庫には相当な蓄えがあった。しかし、豊かであったがゆえに蓄えを維持していく必要性を見いだせなくなり、王城に住まうものたちが少しずつ少しずつ散財していったのだ。
「国庫には残っていない…」
サマカーンが宰相の言葉を繰り返す。
時期が悪かった。
昨年度は王都創立100年祭で、城下の民にも酒を振る舞う大盤振る舞いだった。それに加え、今回の四地域同時の災害…
王都も手をこまねいていたわけではない。各地に見舞いを送ったり、使節団を派遣したり、収めるべき税を少し減らしたりしてきた。
それでまかなえないほど、災害が大きく、また魔物の襲撃が続いたのだ。
「南では人が足りません。雪かきのための人足を派遣してください」
「北にも人手が必要だ。先日も子どもが襲われた。」
続く窮状の訴えに、サマカーンは額のしわを揉む。
そもそも、四地域同時の災害は初めてだ。つくづく自分は運がない。
「国庫がない。しかし災害は減らず、物資も人足も足らない」
エルフの長がどこか遠くを見ながら、ゆるく言葉を吐く。
「そのような他人事のようなことを。」
「そうです。自分の里は関係ないからと。」
長引く会議に疲れた公爵たちが目をむく。
「そもそもエルフは。」とか「これだから人族は」などとそれぞれが声を荒げ初め、険悪な空気が流れ始める。
「それでは、神殿から物資を送りましょう。今までの皆様からの寄付がありますから。」
唐突に、白いローブをまとう、でっぷりと太った初老の男が、ゆっくりと立ち上がった。
イシュマン教の教皇ミハイルだ。自分に集まった目を満足そうに睥睨する。
仕方がなさそうな声とは裏腹に、ニタリと笑う目は隙がない。
「おお、それはありがたい。」
「さすがは神の遣い。」
険悪だった空気が一転、歓喜の声に包まれる。
「それから、子どもたちが被害にあっては大変ですから、神殿の若い者たちを出しましょう。警備と雪かきぐらいしかできませんが…」
お役に立てて何よりです。と続けるミハイルは太った腕を掲げ、こぶしを胸に当てて女神イシュマンへの忠誠を誓う姿勢をとる。
王がほうっと息をつき、決定をつげようと口を開く。
「それでは…」
「失礼します。」
突然涼やかな声とともに、一人の青年が扉を開けた。サラサラの金髪とアイスブルーの瞳を持つ、美しい美丈夫は、イシュマン国第2王子だ。
慌てふためく衛兵が後ろに控えている。止めようとしたものの、強引に振り切られたようだ。
「……ジュリアス王子」
ぎりっと唇をかみながら、ミハイル神父がおざなりな礼をすると、驚いて固まっていた公爵たちもそれぞれ礼をする。
ジュリアスは、それを一瞥すると、中央に進み出て各々に視線を合わせながら言った。
「会議中失礼する。今、救援物資のメドがついた。詳細は後で目禄に目を通してくれ。北には私の軍と親衛隊を出す。南は王国警備隊第2軍と職のないものを新しく雇うつもりだ。」
そこで、一端言葉を切ると、アイスブルーの瞳を鋭くさせてミハイルに目をあわせた。
「ああ、神殿からも人足を出していただけるようだ。珍しくな。そのものたちも、私の指揮下に入って合同で行う。物資も蓄えているものを全て出してもらおう。どうせ寄付されたものであるなら、この機会に還元するべきだろう?…何か異存は?」
「……ありません」
悔しそうに口元をゆがませながら、ミハイルが小さくつぶやいた。
「では、詳細は後でそれぞれに説明する。共にこの国の脅威を払おうぞ。」
そうして人好きのする笑みを浮かべると、ジュリアスは軍靴を響かせながら退室していった。
残された室内では、思わず「はっ!」とひざまずいてしまった四公爵が顔を上げてお互いを見合う。
ジュリアスのおかげで、この先の展望が明るくなったのだ。その顔は一様に明るい。
「いや、ですが、そもそも物資等のお金はどこから…。殿下、どうなっているのですか。」
ふと我に返った宰相が、サマカーンに問いかける。
サマカーンは、手をあげてその問いを制し、会議の閉会を告げた。
どうなっているのかなんて、自分にも分からないのだ。一体あのジュリアスがどこから物資を調達したのか、そもそもどこにそんな蓄えがあったのか。
「さすがに王子も優秀であられますな。」
会議の序盤では険悪だった公爵たちの賛辞も、どこか嫌味に聞こえるくらい、サマカーンは苛立っていた。
これからジュリアスに話しを聞かねばならない。物資のこと、人足のこと。そもそもなぜ自分の預かり知らぬところでそれだけの準備ができたのだ。
「女神、イシュマンよ。」
思わず、声に出してしまう。
なぜ、今、この自分の代で、建国以来の厄災にみまわれるのか。どうすれば国を存続させていくことができるのか。そして我が子にして優秀すぎる王子は、一体何を考えているのか…。
「我に救いを。」
疲れた声でつぶやかれた言葉は、遠く空に消えていった。
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金曜に投稿できました!
今年は、有言実行の投稿を目指したいです。(・・・でも、遅れると思います。)
次回は、火曜予定です☆