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歌は異世界を救う!?(仮)  作者: なおゆき けいとし
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人生最悪の日Ⅱ

シリの村編

人生最悪の日Ⅱ



 目を開けるとそこは一面砂漠地帯でした…。


そんな言葉が頭によぎる。黒い何かに包まれたと思ったら、西部劇に出てきそうな荒野に空気座りしていた。急なことで前につんのめったけど、なんとか転ばずに踏ん張る。


うん。パンツ履いてからの立ち聞きで良かった。

とりあえず、立ち上がった敬子は、辺りを見回す。


 あまりのショックで気絶したのか。ああ、そうだよね。だって目の前を通るのは馬ではなく、トカゲに乗った荷馬車だし。行き交う人は全員2メートルを超えるであろう人ばかり。男の人はもちろん、町娘風の女の人ですら自分の母親より顔一つ分高い。

巨人でない人は自分よりも小さく筋骨隆々で巨大な斧を持ち、兜をしている。


「もしかしてドワーフ族的な?」


そして人以外の耳長人で、やたら美形の

「エルフ?」

とか


犬の耳が生えた

「犬人?」

とかが二足歩行で服を着ている。


きっとここは夢の中だ。昨日遅くまでやったRPGが出てきちゃったのね。

そう思って目をぎゅっと閉じる。はい、目を覚ますよ。気合いを入れて目を開きーーー


「うん。変化なし」

倒れなかった自分を褒めてあげたい。周囲を見回し、自分を見る。


相変わらず荒野にはトカゲだか巨人だかエルフだかが闊歩している。よく見ると腰に剣を履き、盾を持った冒険者風の人と防具や剣を持ってない庶民風の人がいる。


そして、自分はーーー

白いブラウスにブルーのリボンタイ。黒いプリーツスカートと黒い靴下でいわゆるセーラー服姿。そして………ピンクの便所サンダル……


これは、あれか。異世界的なとこか。マンガとか小説とかゲームとかでよくあるやつだ。

となると私は何か使命をおびて来た?魔王倒すとか聖女とかポーション作る系とか…?


しかし、ここまで考える時間、誰にも声をかけられていない。忙しそうに歩く人々の中で立ち止まる敬子にぶしつけな視線を送る人はいるが、皆通りすぎていく。

「呼んだ人どこよ。」


つぶやいてみるが、もちろん誰もふりむかない。

ゲームや小説では、転移先でまず案内人に出会うのではなかったか。神様か女神様か、魔法使いか神殿か。それが王道ではないか。


「…ちっ」

下手な設定のRPGか!?と突っ込みを入れながら舌打ちをする。


「○▲pa$%\ma!」

訳の分からない状況にイライラして下を向いていた敬子は、ふいに腕をつかまれた。

「え。」

とっさに腕を引こうとしたが、びくともしない。


突然腕をつかんだのは酒瓶を持った冒険者風の男達だった。三人は昼間っから酔っ払っているのか顔が赤い。

「○▲ri”=|su?」

何か言った後、ニタニタ笑い合う姿はどう見ても悪人のそれだ。


「ちょ…放して」

全力で抵抗したが、全く通じていない。

「いやいやいや、意味わかんないし。誰よ。あんたたち」

「▲◆wa’~$#na」


ダメだ。言語も通じてない。一瞬お迎えか?とも考えたがいきなり腕をつかむような酔っ払いが神とか神殿とかのお迎えのわけがない。万一自分を呼んだ人の関係者だとして良い未来は想像できない。


助けを求めて周囲を見回すが、目があっても無視されるか、目が合わないように歩みを早める人ばかりだ。


何とかして逃げなければ!逡巡した後、そう決心した敬子はおもむろに

「あーーーーーーーー!」とあらぬ方向を見ながら指を指す。


合唱部で鍛えられた発声は、半径3メートルにいた人全員が振り向く結果となる。

一瞬ゆるんだ手を振り払って、走り出す。

「_fa&%ga!!」

はっと気づいたらしい冒険者たちも後を追ってくる。


できるだけ雑踏の中を走る。周りから見ても背の低い自分は、すぐに人混みに紛れるはずだ。

しかしーーーー


便所サンダルが走るのに向いているわけはなく、数メートル行った先で盛大にすっころんだ。

「い…た」

痛さのあまり目に涙を浮かべる。焦って身を起こそうとするがサンダルが脱げてしまっている。


そっと後ろをうかがうと、奴らが周囲を見回して何か言い合っているのが見える。

派手に転んだせいで、死界に入ったのだろう。3人はしばらくキョロキョロした後、また酒を口にしながら元来た道を戻っていった。

「・・・・・・・はあ。」


一難去ったか。のろのろと立ち上がって便所サンダルを履き直す。走り辛くはあるが、これがなければすぐに足は血だらけになるだろう。今時整備された校庭ですら裸足の体育なんてないのに。


幸い転んだケガはかすり傷くらいだった。水で洗うくらいで良さそうだ。

「水・・・水」

水と口にした瞬間、喉の渇きがわき上がる。


水分をとったのは、文化祭の看板作りの前。もうはるか昔のようだ。

日本よりも遙かに熱く、乾燥しているここで水分不足は即熱中症になるだろう。

「水・・・」

辺りを見回すが、水につながりそうな蛇口とか、それでなくても井戸とか水たまりとかは皆無だ。


意を決して周りのいくらか優しそうに見える町娘風の人に声をかけるが、

「あのー水…」

「◎▲&%hann」

……やっぱりか。言葉が通じない。ジェスチャーで水を飲むふりをしてみるが、かわいそうな子を見る目で見られ、そそくさと通り過ぎていった。


水もない。魔法とか便利な道具とか、ポーションを量産できるような圧倒的な知識とかもない。ここに飛ばされた目的も分からず、更に言葉を通じない。


…詰んだ…思わず遠い目をしてしまう。


飛ばされて、いきなり死に直面とかどんな無理ゲーだよ。心の中で毒づいてみるが、水場を捜して歩くしかない。

そしてかれこれ1時間は越える時間を、歩き続けることになったのだ。


吹き出していた汗が出なくなり、頭が締め付けられるように痛くなってきた。めまいを覚えた敬子はとうとう歩みを止める。

見渡す限りの荒野に容赦なく降り注ぐ太陽。軒下の影はうずくまる敬子を隠しきれていない。


はあ。もうダメかな。目尻に浮かんだ涙がそのまま落ちて、砂地の地面にシミを作る。

熱さと喉の渇きに加え、手足は棒のように重い。

消えたいとは言ったけど、こんな結末は望んでいなかった。


そう思う敬子の脳裏には今日までの日々が走馬燈のようによみがえる。


蛇口を捻れば美味しい水が出て、スイッチ一つで快適な温度になる現代日本。

友達には恵まれなかったけど、家庭環境は良かった。進路のことでお母さんとケンカしたこと、間に入って話しを聞いてくれたお父さん。お兄ちゃんとのチャンネル争い。弟と海で遊んだこと…それぞれが浮かんでは消えていく。


故郷から離れて、誰にも知られず死ぬのか…

こんなことになるなら、もっとワガママに生きれば良かった。他人の顔色をうかがって、頑張って、疲れて、最後に聞いたのは悪意のある言葉だけ。


絶望の中、敬子はそっと目を閉じ、横たわった。

「時空の歪みに落ちた系か…」

という、もう一つの可能性を頭の隅に描きながら…




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更新全然できていませんでした。

次回は、金曜の予定です。



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