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それは紫色の朝顔のように 藤霞娘



 祭り囃子が聞こえる。空は藍色に染め上げられ、夏の熱気と夜の涼やかさ、祭りの喧騒で一種独特の雰囲気を醸し出していた。

 香沙音は藤色の浴衣に大胆な朝顔の柄をモダン風に描いたものを着て祭りに繰り出す。老紳士が香沙音の手を取り先導する。香沙音の顔に笑みがこぼれ、老紳士もまた微笑んだ。今日の香沙音はどこか少女のような稚さで、瑞々しい輝きを帯びている。



 「奥様も馴染めなくてお辛いでしょう。私が少しでもこの土地と馴染めるように、微力ながらお手伝い致しますよ」

 「高田さん…」



 美しい彼女を連れて歩く老紳士はどこへ行っても声をかけられた。婦人会の女性にも紹介され、さり気なく溶け込む。元々、香沙音は社交的なほうなためすぐに仲良くなる。都会の生活を教え、楽しい話題を提供し、田舎の社交を伝授してもらう。これからは婦人会へ参加することもあるだろう。




 祭りの喧騒を歩く。屋台の灯りが道を照らす。子供の笑い声、女性たちのはしゃぐ声、男たちのばか騒ぎ。どこかぼんやりと脳の芯がとろける。目眩に似たなにかを振り払おうと香沙音は首を振った。夏と祭りの熱狂に当てられたのだろうか、と香沙音は顔をあげた。




 「あら?」





 そこか喧騒から離れた神社の裏手だった。いつの間に、こんなところへ。急いで戻ろうと振り返れば、一人の少女が立っていた。



 平凡だが清楚で柔らかな印象の大学生くらいの娘。朝顔に似た素朴な可憐さ。

 紅紫色の浴衣をまとう少女は、「迷い込まれたのですか?」と問いかけてきた。




 (朝顔姫)



 この神社に祀られているお姫様の名前を思い出す。名も知れない朝顔のような少女は「こちらへどうぞ、ご案内します」と和やかに香沙音の手をとり、連れて歩く。その仕草はどこか老紳士に似た優しいもので、血縁を思わせた。




 「あ、あの…」

 「はい」

 「貴女は?」

 「私ですか?私は…ふふ、秘密です」

 「ええ?」




 小首を傾げる少女に翻弄される。オカシイ。香沙音のほうが年上のはず。

 どこか夢心地で、足元が覚束ない。





 「こちらよ、こちら…」




 少女は香沙音の腹に手をあてる。撫で、愛しげにさする。ゾクゾクと背筋を快感ににたものが奔る。





 「ねぇ?奥様」









 

 

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