それは紫色の朝顔のように 下総雨情
老紳士の奥様は、息子夫婦と同じ天災で亡くなったという。孫娘の死因は聞けずじまいだった。香沙音は老紳士に請われ、朝顔を用意する。今回は準備万端だ。
白い陽射しが庭を照らしている。濃い陽射しの白色が際立ち、明るさで目眩がしそうになる。血溜まりのような朝顔が、裏で咲いている。先日から大切に世話している『夕海』は日陰だったからか成長もささやかで、素人の香沙音でも手におえそうだった。これで巨大に成長していたら、種しか渡せなかっただろう。
老紳士は株ごとご所望だった。なんでもすぐに展示会で使うという。なるほど、だからこんなに急だったのか。
「そうだ、この近所に神社があるのをご存知ですかな」
「え?ええ…そういえば、本日はお祭りですわね」
今まで行ったことがないが、お祭りだ。都会のお祭りならともかく、田舎のお祭りはご近所付き合いが色濃い。そのため、香沙音は遠慮して行ったことが無かった。
「よろしければ、一緒に行きませんか?」
「え?」
老紳士は微笑む。
「ご近所さんとは、あまりお付き合いなさっていないのでは?」
「!!」
息を飲めば、老紳士は続ける。
「排他的な地域ですからね。そうなってしまって無理はないでしょう。奥様は華やかで、この村では浮いてしまう」
「ええ…」
「責めているわけでは御座いませんよ。よし、私が一肌脱ぎましょうか」
「?」