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それは紫色の朝顔のように 初娘
老紳士は居間に座り、茶菓子と孫娘について語り続けた。自分の子供についてや、奥様のことは不自然なほど語られない。香沙音は微笑みながら、老人の一方的な会話を聞いた。内心辟易としていたが、それをおくびに出さない。
曰く、優しくいい子。
曰く、可憐な朝顔のごとく。
曰く、お淑やかで清楚。
使う語彙はバリエーションがあるが、だいたいがそんな感じで香沙音は代わり映えしない会話にうんざりしていた。洗練された老紳士だと思っていたのに、と肩透かしをくらった感じだ。思っていた以上に面白い会話を期待していたようで香沙音は驚いた。
「あの…」
「ん?なんですかな?」
「ええっと…夕海さんのご両親はどうなさったのですか?」
会話を広げたくてずっと聞かずにいたことを聞いてみた。老紳士は困ったような顔で「孫娘が五歳のとき天災で亡くなった」と静かに言った。
「それから夕海が二十歳になるまで育てました。…もう、この世にいませんが」
老紳士は目を伏せ、耐えかねるようにつぶやく。
「私の、最初で最後の孫でした」