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ソロキャンパーの転生先はショタっ子魔族でした  作者: しき
異世界に転生しまして
27/32

第26話 代償として

暗転する意識の中

明滅する視界の中

ぼくが見たのはまさに奇跡だ

それも面白くもなんともない奇跡


喜劇か、悲劇か、それとも笑劇か

ぼくの意識とは関係なく体が動いている

VRで演劇でも見せられているような感覚は酷く気持ち悪い

飛び散る臓物や四肢がそれに拍車をかけている


飛び掛かってきたゴブリンの禿げ頭が弾け飛ぶ

それをしたのはぼくの右手だ

ぼくの手も無事じゃない

拳から白い骨が折れて露出していた


完全に死角の右後ろに裏拳が飛ぶ

ぼくの手首が折れてだらんと垂れる

そこに居たのは斧を構えたゴブリンだったものだ

ぼくの右手も使い物にならなそうだ


それでもぼくの身体は気にせず突進を続ける

露出した右の尺骨を手近なゴブリンの目に突き立てる

突進の勢いを殺さず、左手で首をねじ折った

左手の人差し指が脱臼したようだ


次いで近かったゴブリンの股間を蹴り上げた左足も折れた

痛みに膝をついたゴブリンの首筋に噛み付き動脈ごと引き千切る

視界に移るのは血柱だけじゃない

確実にぼくの歯も抜け飛んでいた


ぼくの意思とは関係なく動く体は既に満身創痍だ

無事な四肢が何もない

全身余す事無く自分の行動でボロボロだ

まともな生活は思いつく限り無理じゃないか


それを眺めているぼくの意識に痛みは無い

この後の不安はすごい物が渦巻いているけど

残った左目1つも自由には動かせない

が、ちらりと映った視界には無傷の右手があった


おかしいな

さっき確実に千切れかけてたよな

骨が折れて露出して武器代わりに使ってたよな

自分の意思と関係なく動かされちゃいるけど生々しい感覚はあったはずだ


無詠唱で連射される光熱波

飛び散る血飛沫

折れて折られて捻じ切って捻じ切れる四肢

バラバラになっていくゴブリン達を見つめる隻眼


ぼくと相手の力量差は明らかに向こうが上だ

それを覆すのは痛みを意にしない行動の結果だ

実際痛みは無く、ぼくの傷は不条理に霧散する

これが治癒の魔術ってやつだろうか


「これは治癒じゃないさ

 復元…かな?」


開いたのはぼくの口

だけど聞こえた音は奴の物だ

紛れも無くあの光の塊の主だ

あぁ、奴がぼくの身体を操ってるのか


「言ったじゃないか

 君に干渉するってさ

 取り急ぎこの状況くらいは打開してあげようじゃないか

 傷の復元はちょっとしたサービスだね」


それは助かる

何回もボロボロにされてるし

一般生活不可能な体にされる所だった

むしろここから出れずに死にそうなくらいに


「そこは安心していいんじゃないかな

 ゴブリン達はもうほとんど生きていないわけだし

 君のお仲間っぽい人間達の気配も近いしね」


ゆったりした喋り口調のままで引き起こされる破壊行動は異常の一言

今度は逃げようとするゴブリンの背後から素手で背骨が引き抜かれた

人知を超えた膂力

場合によっちゃ骨なんて鉄より硬い部分だってあるってのに


「複数の魔術の組み合わせに過ぎないさ

 速度増加、膂力向上、体質硬化

 他にも諸々ね

 街に帰ったら"ブースト"って魔術で調べてみると良いさ」


あぁ、安心した

これならちゃんと五体満足で帰れそうだ

一時はどうなる事かと思ったもんだ

そういや右目がまだ見えないんだけど


「右目か

 うん…右目ね?」


うん?

珍しいな

あんたが言いよどむなんて

まぁ珍しいってほど相対した覚えも無いけど


「右目はこのままぼくが貰う事にするよ」


は?

貰う?

貰うって何さ?

もうちょっと判り易く説明してくれ


「言葉通りさ

 まぁ説明する義務はないけど、義理くらいはあるかな

 要はあれさ

 代償ってやつだね

 僕が君を助ける為のお駄賃さ

 本当なら寿命の半分、とか言いたいんだけどさ

 今回は初回特典で右目だけ頂いて良しとしようじゃないか」


……なるほどね

死にそうなところを救ってやったんだから我慢しろってか

右目だってお前が出てくる前に抉られてたしな

ちなみにそれ契約破棄とか


「出来ないね

 むしろ右目だけでここまでするんだから感謝してもらいたいもんさ

 こういった生体への干渉って本来なら生贄数人くらいじゃ賄えないよ?

 だってこれはもう奇跡そのものなんだからさ」


なるほどね

お前本当に神様なんだな

良いよ、納得した

地獄に落ちろクソッタレ


「アハハハハハハ!!!」


豪快な笑い声が本気で癪に障る

出来るなら縊り殺してやりたいくらいだ

魔神だ邪神だって言われても納得だ

絶対一発殴ってやるからな


「イイネ!!イイネ!!

 イイネ!!イイネ!!

 やっぱりそうじゃないとね!

 君を選んで本当に良かったよ!」


ぼくの身体を好き勝手してくれた上に言う事がそれか

お前の目的がさっぱり判らないよ

お前の所まで来いだの、右目をよこせだの

そろそろ白状したらどうなんだ


「僕の目的かい?

 簡単な事さ

 僕は元に戻りたいんだ

 戻る場所が違っても、大元の目的だけは君と同じだろ

 だから僕らは協力し合える

 僕は君を元の場所に返す

 君は僕を元の場所に返してくれる

 そのために君には僕の袂まで来てほしいって事さ」


おーけーおーけー

それは良いとしよう

でもどうやってそこまで行くんだ

そこがどこなのかも判らないって言うのに


「それはまぁ…

 そのうちおいおいとね

 僕だって君の全てを理解して信用してるわけじゃないんだ

 君だって同じだろ?」


この悪魔め

お前はもう地獄にでも帰れば良いと思うよ

理不尽の極みじゃないか

お前のために何かしてやろうって気が微塵も起きやしない


「まぁそう言わないでおくれよ

 全く嫌われたもんだ

 右目は返せないけど、そうだね

 何か一つくらいはプレゼントをあげても良いかな

 君は何が欲しい?」


デミグラスソースのたっぷりかかったハンバーグが食べたいね

付け合わせはポテトとにんじんのグラッセで

勿論ライスは大盛だ

こっちに来てから味付けが薄いし淡白で詰まらなかったんだ


「……」


おい、なんとか言えよ

それともこういった返事は予想してなかったって?

ぼくも実際そう思うよ

血なまぐさい現場で加工肉が食いたいなんて自分自身正気を疑う


「君は本当にすごいな

 だけどその望みはもう少し取っておいてくれ

 いずれ向こうで好きなだけ食べてくれたら良い」


食べたいのは今なんだけどな

さすがにお腹がすいてきた

それがだめなら、そうだな

ぼくにも魔術の素養が欲しいもんだ


「うんうん、そういうのを待ってたんだ

 確かに君は今発光させるだけの魔術しか使えないしね」


それも使い方次第だろ

発光なんてそれなりにエネルギー量はあるんだ

指向性を持たせればかなりの武器になる

防御不能な光速兵装なんてチートそのものだ


発動した瞬間には着弾する武器

向こうの現代科学だって実現出来てない…はずだ

兵は神速を貴ぶってね

時間差は無ければ無いだけ良いもんだ


「じゃあ君はどういった魔術が欲しい?

 火かい?

 それとも水?

 さすがに新規概念なんてのは僕にも無理だけどさ」


本当に魔術が使えるようになる?

嘘じゃない?

実際今この世界にある魔術なら良いんだよな?

ここまで来てやっぱやめたとかそれは無理とか言わないでくれよ


「あぁ、現存する魔術なら大抵のものはあげられるさ

 君が見たもの聞いたもの、知ってるものなら無理とは言わない

 君が僕をカミと呼んだ僕の名に誓おうじゃないか」


フロウ・フライ


「ん?」


あれが良い、フロウ・フライだよな

空飛ぶ奴

夢みたいじゃないか

いつだって空を自由に飛ぶのは人の夢だし


「…あんな古びたどこにでもある物でいいのかい?

 本当に?

 そりゃ人間にはほとんど使い手は居ないけどさ

 魔族やエルフなら簡単に使えるようになるものだよ?

 君だってエルフの血が流れてるんだからちょっと勉強すれば…」


だからそれをすぐに使えるようになりたい

出来れば完璧に使いこなせるレベルで使いたい

自分にも、他の物にも使えて、細かく調整できると良いね

クリストフは防御フィールドみたいなのも張ってたけど、そこまで高望みはしない


「…あのさ、今回は本当に特別なんだよ?

 なんなら深淵魔術だとかさ

 人間には使えないような魔術だって…」


いや、あれが良い

空が飛びたい

自由に飛びたい

重力の枷から解き放たれてみたい


「…右手を見ると良い」


右手の甲に…

なにこれ?

紋章?

刺青と言うか焼き印と言うか、幾何学模様?


「手っ取り早く君にはそれをあげよう

 魔術の素、と思ってくれれば良いさ

 君の要望通り、重力の枷を破る魔術さ」


ほほぅ

こんな事で魔術が使えるようになるのか

簡単じゃないか

これなら誰でも魔術なんて使い放題じゃないの


「簡単とか言わないでほしい

 普通なら全て理解した奴が数年単位で刻むものなんだからさ

 他人にモノを言うのは簡単でも、理解させるのは難しいだろう

 これはその工程を省いて強制的に理解させるための物さ

 使い方は嫌でも判るようになる」


なるほど便利だ

教えなくても理解できるって事か

じゃあこれと同じ模様を誰かに書いてやれば良いのか

そうすりゃそいつも使えるようになると


「だからそう簡単じゃないんだって

 魔術には総量が決まってる

 使い手が一人なら100%使い切れる

 でも使い手が二人になればそれぞれが50%ずつしか使えない

 それが100人になれば?

 200人だったら?

 500分の1が501分の1になっても大した事無いけどさ

 使い手が増えれば君が損することになるんだよ」


なるほど、そりゃ困る

でもフロウ・フライなんてありふれてるってさっき言ったじゃないか

だったら別にいい気もするんだけどね

割合で変わるなら既に大した事無いんだし


「フロウ・フライは重力魔術の一種

 その基礎中の基礎の派生に過ぎない

 君に与えたのは違う

 重力魔術の奥義だ

 使ってみればそのうち判ると思うけどさ

 もう全くの別物と言っても良い」


その説明じゃ違いが判らない…

同じ系統なんだから同じじゃないの?

もっと細かく説明しないと判らないって

お前教師失格


「…僕を何だと思ってるのさ…

 まぁいいや

 ファイヤーボールを使える人間が1000人居るとする

 でもフレアバーストを使える人間は10人も居ない

 人数が逆転すれば威力も逆転することになるのさ

 同じ火の系統魔術でも違いが出るのはそういう事さ

 実際に君が使うライトニングの魔術

 それをそこまで使いこなせる人間は少ないだろう

 だから君はあんな応用の効いたライトニングが使えるのさ」


じゃああれか

魔術師ってのは自分が使ってる魔術を100%理解してるわけじゃないと

使用人数と理解値を魔術の総量ってので割りあう訳だ

なんかこっち来てまで計算式が出てくるとは思わなかった


「ま、あとはおいおい判っていけば良いさ

 そろそろ時間も無いしさ

 この身体も君に返すとするよ」


なんだよ時間って

こっちはまだ聞きたいことが山ほどあるんだ

こんな中途半端な魔術講座で終わるとか無責任だろ

謝罪と賠償と補講を要求する!


「そうは言ってもさ

 君もう眠いだろ?」


ん?

あぁ、そう言われてみれば

なんか眠い気もする


「体力的にも気力的にも限界なのさ

 僕の精神が入るには君は幼すぎる

 もうちょっと成長したらさ

 その時はじっくりとね」


なんて奴だ

お前は悪魔ってより変態だな


「その変態に少しは感謝してくれると嬉しいね

 次に目が覚めたらさ

 もう少し自分を大事にしてくれると僕も助かる

 今はその睡魔に負ける事を勧めるよ

 その時まで、僕はあそこで待ってるからさ」


しょうがないな…


「君は今、何がしたい?」


無性にお前を殴りたい


「楽しみにしてるよ」


張り付けたような仮面の笑顔

意識が途切れる間際まで奴は奴のままだった




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