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ソロキャンパーの転生先はショタっ子魔族でした  作者: しき
異世界に転生しまして
14/32

第13話 秋の終わりにて

毎日のように朝の静けさが深まりゆき、冬の到来を実感させる

もうすぐ秋が終わり、冬が始まる

もうすぐこの辺り一面は真っ白な雪化粧に変わるだろう

ぼくは4歳になっていた


この大陸の人間の国では暦はキッチリ決められていない

せいぜい春の始まりに半ばと終わり、夏の始まりに半ばと終わり程度の物

四季を感じて時節を知る

ぼくは秋の半ばに生まれたから、この秋の終わりの時期に1つ年を重ねるって訳だ


先日の誕生日パーティーは盛大だった

いつもの親子3人にクリストフが増えたくらいと思いきや

三日三晩に渡り村中の人がお祝いに来てくれた

休む暇もありゃしないほどに


特に収穫祭の時の親子一家などは自分ちの大事な牛まで潰してきたのだ

感謝されて祝われるのは嬉しいが、そこまでされると恐縮だ

彼らは半ば無理やり押し付けるように帰っていった

久々のビーフステーキ美味しかったです


さてそんなぼくが何をしているかと言えばお散歩な訳です

とはいえただのお散歩じゃありません、ちゃんと目的があります

向かうは大森林の入り口付近

ぼくの可愛いカブさんの元へ向かうのです


時折チラチラ背後の警戒も忘れずに

朝早くに警戒するのはケモノや魔獣では無いのです

親です、特に母、メルポです

母はぼくが大森林に近づくのを特に恐れているようです


そりゃそうですね

でっかいクマに村のご神体扱いのカブさんで体当たりする息子ですもの

ぼくだって最大限の警戒網を敷いて見せますとも

だからこっそり朝早くから抜け出すのです



さぁカブさんとの逢瀬です

こんな牧歌幻想的な異世界にあるのが不自然極まりないお姿です

なんせカブさんと言えば現代科学の生み出した二輪技術の最高傑作

液体燃料の無い世界では無用、いや無為の長物です


3年超も放置されたバイクが動くのは不自然だ

だがあの時確かに動いたのだ

カブは息を吹き返した

その理由は判らない


その後、エンジンがかかるか試した事は無い

怖かったというのもある

試してみて動かなかったら、と思うと試す気が起きてこなかった

向こうの、元の世界との繋がりが絶たれる気がしたのだ


だからぼくは毎朝こうしてカブを磨くだけに留めている

いつも綺麗に保っている

埃や土が付着しないように

ぼくは毎日磨いていた


とはいえ出来ることは限られている

カーシャンプーやワックスはおろか、洗剤や石鹸すら無い場所だ

せいぜい古着のウェスで磨いてやって、時折水洗いする程度

満足とは言い難いがカブの見た目だけは綺麗だった


こうしてこの日もカブを磨き上げる

隅から隅まで、スポーク一本まで余す事無く磨き上げる

そこで湧き上がるのはエンジンを掛けて走ってやりたいという衝動

それをじっと押し留める


まだ朝も早い時間、こんな時間から純正バリバリのフルノーマルとはいえ

キャブ仕様の110㏄のエンジンはご近所さんに迷惑がかかるだろう

そうやって自分に嘘をつき今日も心に蓋をする

いつかそのうちきっと、と思いながら


右手に意識を集中する

それだけで右手の上には光弾が浮かび上がった

ここは異世界、魔術があって魔獣が居て魔物が人を殺す世界だ

カブの出番は今じゃないと自分に言い聞かせる


カブを背に、空へ向かって光弾を放つ

レーザーのように収束した光弾は音も無く雲に穴をあける

日の光の下ではその軌道も曖昧だが、雲を散らすくらいの威力はあったようだ

4歳の子供の持つ武器のレベルじゃないよなぁ


「えげつねぇなぁ」


その声は村の入り口からだった

主はクリストフさん

まるで苦虫でも噛みつぶしたような顔をしている

全く気付かなかった


「全くお前は天才だよ、適正は無いくせにな」


そう言って彼も似たように空へ向かって光線を放つ

だがそれはただ指向性を与えただけのものだ

収束されているわけでもない

だから勿論威力と呼べるものも無い


「いくら聞いても理屈が理解できん

 理解できんものは再現もできん、か」


そりゃこの世界に科学技術と呼べるものは無い

科学自体はどこにでもあるものだけど、その理屈体系が確立されているかどうか

それはまた別の問題だ

科学が無いからこそ、魔術が発展したのだとぼくは思うのだ


ぼくの頭の中にはそれこそ沢山の、この世界に無い魔術の設計図がある

空気を圧縮してプラズマ現象を起こすだとか

土を圧縮して圧電効果からマイクロ波を生成、電子レンジにするだとか

水を分解して水素を取り出し、着火して爆発させるだとか


クリストフに聞く限り、この世界に原子論は無かった

水や風、土の組成がどう成り立つか、その理論が無い

理論が無くても物がある以上存在はしている

ただ人がそれを知らないだけなのだ


だがそんなぼくの思いと、クリストフが口にした言葉は全く別の物だった


「お前ナニモノだ?」


その目は鋭い

この質問はなんだ

言葉の裏に何がある

この男は何かを知っているのか


まるで密閉された鉄の箱に閉じ込められた気分だ

この男は箱を開けろと言っている

だがぼくは知らない

箱の外に何があるのか


例えば毒ガスでも充満しているかもしれない

ケモノや魔獣が爪を研いでいるのかも

暴漢の類が剣を構えているのかも

だが楽園が広がっている可能性もあるのだ


箱を開けた途端に毒ガスが入ってきたらぼくは即死だ

魔獣に抗う術なんか知らない、魔術行使の隙もなさそうだ

暴漢なら、もしかしたら蓋を閉める余裕はあるかもしれない

楽園なら飛び出す以外は無いだろう


だけどそれを知る事は出来ない

密閉された箱の中で閉じこもるぼくに知る事は出来ない

だけどここに居ても死ぬのだ

いずれ空気が無くなって、じわじわとぼくは死ぬだろう


これは救いの御手なのか

それとも破壊の罠か

試す余地は無い

選ぶ事など出来はしない


これはシュレティンガーだ

シュレティンガーのぼくだ

ぼくの未来の生死が一言にかかっている

そういう類の死の宣告だ


ぼくは何も言えずに息を飲むだけしか出来ない

口を開けば何かを失う気がして

だがぼくより先に目の前の男がため息で以って返答した

その目はとても鋭いままに


「おれぁ何言ってんだろうなぁ…

 お前はまだ子供だ、4歳になったばっかのクソガキだ

 そんなガキが俺も知らねぇ、思いつかねぇ魔術を作りやがる

 …嫉妬でもしてんのかねぇ」


男はガリガリと頭をかく

何を考えているのか読めない顔だ

思えば彼はシグルドやメルポと一緒に旅した冒険者だった

ぼくはそれ以上彼の事を知らない


彼らの間で何があって旅が終わったのか

その後何があったのか

どこで何をしていた人達なのか

ぼくは何も知らないんだ


「…早めに戻れよ

 こんなとこに居たらまた説教されんぞ

 シグルドはともかく、メルポは怖ぇからな」


彼はそれだけをやっと絞り出すと元来た道を帰っていった

うん、彼の言う事は心底正しい

それは身を持って知っている

さぁ、ぼくもバレる前に帰ろうか




家の中は慌ただしかった

どたどたと母は紙の書類を抱えて走り回り、シグルドはその書類に目を通している

貴族でも無ければそうそう目にしない紙が大量に散乱している

一般家庭にはありえない光景だった


床に落ちた目の前の書類を手に取ってみる

それは今年の村の作物の出来高のようであった

昨年までの平均値、直近3年の出来高量、そして今年の出来高量が記載されていた

こうして見ると今年の出来高は異常なまでに跳ね上がっているのが判った


ところどころに誤字もあるし計算ミスも多い

それが村人の数だけ書類になって舞っている

あぁ、この両親はその後片づけに追われている訳だ

誠にご愁傷さまです


この村の識字率は低い

というかゼロに近い

字が書けるのは村全体で数人、数字が判るのはこの家の者だけという始末

クリストフは除外だ、あれは普通に頭が良いし何でも出来る


村全体の収穫量から村人の数と前年比から今年の年貢を決めるのだろう

少なければ追徴課税とかありそうだし、多ければ村人たちが損をする

シビアで繊細な作業だ

ぼくに出来る事など何もない


「あら、おかえりジーク」


「ただいま母さん、なにこれ?」


あくまで何も知らない子供の振りだ

さっきのクリストフの例もある

沈黙は金なり、ちょっと違うか

でも今は無用な心配や悩みは増えない方が良さそうだし


「あぁ、ごめんね

 今母さんたちちょっと忙しくて」


うん、見ればわかる

未だかつて見た事無いほど忙しそうだ

隅っこで座ってじっとしてますとも

ぼくは物分かりの良い大人しい子供なのだ


だけど好奇心は大人しくしてくれなかったようで

ぼくは足元の書類に目を通しながら順番だけでもまとめていく

その中の誤字と計算ミスを修正していく

元々文系だけど小学校の計算くらいは出来ますからね


足元に散乱していたのは走り書きのメモのようなものだったらしい

正式に提出される書類とは思えない

書式も数式もおかしいものだらけだ

まぁ中世以前の物に求めるものでもないか


そこでぼくはちょいと手を加える

メモ書きの裏にエクセル様式でグラフを書いていく

勿論手書きで暗算だ

ここでぼくが計算間違えてたら面白いよね


でもまぁそこは真剣にじっくりと

しっかり検算も忘れない

土地の面積と収穫量から村人の数に家族構成まで

思いつくもの全部当てていく


ぼくはふんふんと向こうで流行ってた曲を鼻歌に出していた

作業に没頭していたらいつの間にか両親が2人して覗き込んでいる

あ、やば、やりすぎたか

思わず冷や汗が垂れる


「アナタ!

 この子やっぱり天才だわ!」


おや?


「あぁ、さすが俺たちの子だ」


あれ?

状況がおかしいぞ


「よし、さっそく明日からロレーヌに向かおう!

 ちょっと予定より早いが、この子なら大丈夫だ!」


もう完全にぼく置いてけぼりですね

両親は2人でわきゃわきゃはしゃいでいる

異世界無双とかやりたかったわけじゃないけど

あぁ、なんかそっち系のフラグが立ちまくっているようです



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