第9話 森の中にて
ぼくジーク、3歳児!(+36年)
お肌もぷにぷにの異世界転生魔術師さ☆彡
あ、もういいですかそうですか
ぼくは今クリストフさんに連れられて森の中を進んでいます
ソロキャン趣味のぼくですがこんなに深くて暗いイメージの森は初めてです
入って5分もしないうちに日の光も届かなくなりました
かなり近くから聞いた事も無い鳥の鳴き声がしてきます
キシャーキシャーゆってます
なんだよこの鳥知らないよ
踏みつけようとした葉っぱがカサカサ動いて避けたりします
手をかけようとした木の枝がグニャリと動いて避けたりします
森怖い…異世界の大森林ありえない…
とはいえぼくは自分で歩いているわけじゃありません
クリストフさんの肩車です
楽だけど視点が高すぎて怖い
最初こそはしゃいでいましたが今ではすっかり意気消沈
だってムカデとかぼくの腕より太いんですよ
あ、それは元の世界でも同じか
とはいえぼくだって何もしていないわけじゃない
肩車されながらも、ぼくの頭上にはライトニングの光源が浮かんでいます
いくら最初級魔術でもずっとキープは疲れるもんです
まぁ、本来の使い方ってこういうものです
レーザー的な何かとか、千里眼的な何かとか
そういうのは裏技っていうより反則技ですよね
実際あの手の魔術は1日にそう何回も使えません
ぶっちゃけ消費魔力が大きすぎます
素人にはおススメできない、だそうです
というわけでぼくに出来るのはこの光源ライトニングぐらいしかありません
ちょっとは役に立てるかな、と
クリストフさんなら自前でなんとでも出来るんでしょうが
では森の中に目を向けてみましょう
どれもこれも…すごく大きいです…
大森林の名は伊達じゃない
まず木が大きい
葉っぱ1枚とってもぼくの顔はおろか体より大きい
葉っぱに擬態してる虫系の魔物も紛れているので要注意
1本1本の木の幹が太い
大人3人1抱え以上がデフォルト状態
枝に擬態してるツル系の魔物も紛れているので要注意
虫が大きい
クリストフさんより大きいカブトムシとか速攻で死を覚悟です
目が合った瞬間こんがり焼かれてましたけど
蛇が大きい
倒木だと思ったらのたうつ青大将でした
頭どこ? しっぽどこ? 君一体何十メートルあるの?
鳥も犬も猫もネズミでさえもぼくの常識を超えて遥かに大きい
でもゴキブリは小さかった
手の平サイズくらいかしら…十分でかいか…
どれもこれもスケールが大きすぎます
見た目がぼくの記憶のままなのがさらに恐怖をあおります
自重で潰れたりしないのかな?
もちろん見た事無い生物もいっぱい居ます
こうもりっぽい羽根の生えた目玉とか
こいつ摂食排泄関係どうなってんの?
亀の甲羅を背負ったクモとか
細い6節くらいの足が8本生えてました
動きはめっちゃ早かったです
蛍光色っていうより自己発光してるハチドリみたいなのとか
猛毒だそうです
クリストフさんがこんがり焼いた後しっかり埋めてました
緑のスライムと紫のスライムが喧嘩してるのを見ました
最後は入り混じってまだら模様になってました
その後すぐにコブシ大の蟻にたかられて跡形もなくなってました
そんなこんなで方向感覚も無くなった頃でした
小さい声でクリストフさんの指示が来ます
その声はちょっと緊張気味でした
「ジーク、灯りを消せ」
ぼくは無言で光源を消します
辺りを一瞬で静寂と闇が支配しました
さっきまでうるさいほどだった虫や鳥の声も聞こえなくなった気がします
クリストフさんは立ち止まりません
ちゃんと見えているのでしょうか
肩の上のぼくは障害物を避けるように右へ左へ揺られています
それからすぐにクリストフさんが立ち止まりました
水の音が聞こえます
森の中にぽっかりと広場が見えました
浅い川が二股に分かれ、三角州のようになっている部分
そこに小さな集落がありました
こちらからはちょっと距離があるので詳細までは判りませんが
「ゴブリンの巣だ」
ゴブリン…
確か下級の小型魔族だったはず
1匹なら大した事無いが、集団になると一気に危険性が増す
大抵はこういう川沿いに集落を構えている
夜行性の雑食性
虫も食うし木の根も食う、勿論人間も…
ゴブリンには彼らだけの言語があるらしく、他の種族との意思の疎通は不可能
知能指数はかなり低い為、同一言語であっても理解できない個体も多い
金属加工は出来ないが、打製石器レベルの武装をしていることがある
発情期などは無く年中繁殖が可能
1度に2~10匹程度の子供を産み、3年程度で成体になる
魔族らしい特性として自然寿命が無い為際限なく増え続ける
増えすぎて飢え始めると森を抜けて野に散る事もあるが、それはまだマシな方だ
場合によっては雪崩のように都市を襲うこともある
それは一種の災害、もしくは災禍の類と言えるだろう
ゴブリンラッシュ
かつての戦下では兵器としても用いられ、人間の都市すら破壊したという
だが制御不可能である為効率は良くない
体長は平均して80~100㎝前後
子供のような見た目だが割と筋肉質である
人間のように多臓器を持つ為魔族との混血生物を祖先に持つという説もある
殲滅は容易だが根絶は不可能とされる
通常は主に胎生妊娠で数を増やす
だが過酷な環境下では体外卵生変異も確認されている
まれに際限なく成長し続ける個体もおり、2m前後まで成長する事もある
またそういう個体から生まれる次系統は親の特性を色濃く受け継ぐ
その場合集落全体が知能の低い巨大なオークの群れのようになる
発見次第即殲滅が常識とされ、うち漏らせばまたすぐに数を増やす
場合によっては軍隊であっても返り討ちにされることもある
何時の時代でも何処の世界でも物量が物を言うのだ
また魔術は基本的に使えない上に耐性が無い為、魔術師が居れば簡単に殲滅可能
その場合は遠距離から集落ごと大規模破壊に訴えるのが好ましい
可能であれば死体も残らないほどの大火力で焼き尽くすことを推奨される
基本的に大陸に住む全生物の敵である
中途半端に知性があるため、知的生物の天敵となる
放置すれば簡単に大陸全土を不毛の地に変えるからだ
そんなトンデモ生物の集落が、ぼくの村のすぐ近くに存在していた
冷や汗が出る
放置すれば村を雪崩のように襲うだろう
「俺が村に来たのもシグルドに呼ばれただけじゃねぇ
こいつらの目撃談が増えてきたから調査の意味もあったのさ
早めに処置しねぇと、ロレーヌの街だって危ねぇからな」
仮にぼくの村がゴブリンに飲み込まれた場合
ゴブリンはそこを拠点にさらに大きい町を目指す
環境がそろえばさらに奴らは数を増やす
結果、加速度的に数を増やした奴らは大都市でさえ飲み込むという
計算上、ぼくの村が飲まれていれば数年でロレーヌの街に襲い来るだろう
大都市が飲まれれば、人類の存続すら危うくなるのだ
「100…は居ねぇな
じゃあ俺一人で釣りが出らぁな」
クリストフさんは肩車のままで無造作に集落へと歩いていく
え?
このまま殲滅しちゃうの?
「ちょっ!
ぼく邪魔じゃないの?」
「そこで見てろ
実地で戦闘魔術ってのを見してやる」
ゴブリンの集落は、日のあたるこの時間はとても静かだった
建物はどれも木の枝やツルを編んで組まれた簡素なもの
よく乾燥していて燃えやすそうな作りだった
「まずは火の初級、レベル1のファイヤーボールだ」
手の平から生み出された火の玉が手近な建屋に着弾して一気に燃え上がる
「こういう川沿いなんかの水辺ならウォーターボールの方が制御は楽だ」
クリストフさんが無造作に手を振るうと、川から無数の水の玉が浮き上がる
それは次々と他の建屋に襲い掛かり、建屋を吹き飛ばしていく
次々と転がり出てくるゴブリンたち
「ウィンドカッターは連射が効かん
威力は大きいが隙も大きいから狙うなら次弾までに距離を詰めろ」
クリストフさんが腕を大きく振るうと見えない刃がゴブリンの首を跳ねた
体長以上の血飛沫が上がる
悲鳴も上げずに体がゴトリと倒れこんだ
こちらに気付き、駆け寄ろうとするゴブリンの体がビクリと震えて止まる
その足の半ばまでが地面の中にめり込んでいた
「アースバインドは足止めに向いてる
が、大抵は一瞬だ
すぐに抜けてくるぞ」
実際ゴブリンは簡単に振り払うとまたこちらに駆け出してきた
その数は10程度
まだ倒れたままや状況が理解できていないのが大半だ
「同じレベル1でも凝縮しねぇファイヤは目晦ましにも使えるな」
クリストフさんが指を鳴らすと、一匹のゴブリンが一気に炎上した
それはもう目晦ましだとかというレベルじゃない
「アースランスは不意打ちに効果的だ」
別のゴブリンが地面から生えてきた巨大な槍に足元から串刺しにされる
その先端は脳天から突き出ており、即死なのが見て取れる
「ウォーターで顔面を包んでやれば窒息させられる」
「ウィンドブラストで足止めしてからウィンドカッターで跳ねるのが定石だ」
「ファイヤーボールとウォーターボールは連射向きだ、狙いは付けずに打ちまくれ」
「サンドブラストで目潰し、ミストで濡らして、ウィンドブラストで固める」
「この連携は人間相手でも有効だ」
「特に鎧を着こんだ重戦士なんか特にな」
「本能的に火を怖がる生物相手の基礎だ、ファイヤーボールくらいは覚えておけよ」
「サンドブラストで砂を巻き上げればウィンドカッターの軌跡が見える」
「ミストで霧散布しときゃファイヤーボールを減衰できる」
クリストフさんは雑談するような気軽さで次々と魔術を繰り出す
目まぐるしい速さで打ち出される魔術の乱舞は蹂躙と言って差し支えないだろう
初級魔術だけでここまでやってのけるのはさすが宮廷魔術師と言ったところだ
物の数分で100近いゴブリンの死体の山が出来上がっていた
「じゃ、そろそろ終わりにすっか」
ここまでの全ての魔術は詠唱破棄
それをクリストフさんは片手間にやってのけた
魔術師が恐れられる理由が分かった気がする
「大地の精よ
我が力を贄としその威を…
ほい、詠唱省略、っと
アースクエイク」
レベル3の地の魔術
彼はあっさりと詠唱省略して発動させた
もう完全に人外だ
集落よりも少し大きい範囲に光が溢れ、その中だけが振動している
一定範囲だけに地震を起こす魔術
それがこのアースクエイクだった
大地が裂け、ぐちゃぐちゃに攪拌される
ゴブリンの集落は完全に崩壊
川の三角州は無くなっていた
無論、範囲外にも余波はある
こちらにも地震は来ていたが、立っていられないほどでもない
川の水も暴れて濁っていたがその程度
これが歴史に名を遺すとまで言われる4元素の適正者の実力
一騎当千とされる宮廷魔術師の実力だ
それも、最後以外は全てレベル1だけで殲滅する徹底ぶりだ
「じゃ、帰るか」
そういって彼は踵を返す
災害の元をあっさりと消し飛ばして地形まで変えてのける
どっちが災害だか知れたもんじゃなかった




