葉食生活
赤川は動物園を歩いていると喋る猿に会った。
「お前さん、凄く太っているな」
「・・・なんで猿が喋るんだ?」
「猿が人の言葉を喋って何が悪い? そんなことよりお前さん、これからの夏休みに誰とも遊ぶ事が出来ないから動物園に来たのではないか?」
「なんで私が太り過ぎで避けられてる事を知ってるんだ?」
「勘だよ」
「マジか」
「お前さんは痩せたいんだろ?」
「そうだよ。けど運動するの無理」
「なら一日一食外せば良い」
「そんなの無理。お腹空いちゃう」
「それなら、一日一食葉っぱにすれば良い」
「葉っぱ!?」
「そうだ」
「無理無理! 葉っぱ不味い!」
「美味しいものは太る」
「・・・・・・・・・・・・」
赤川は喋る猿に勧められ、一日一食は葉っぱを食べることにした。
「うう、不味い。でもこれで少しは瘦せれるかも」
しかし、赤川は後でやらかした。
「は! しまった。いつもよりお菓子多く食べちゃった」
「おい! お菓子を食べたらダメだ! 折角一日一食葉っぱにしたというのに」
「うわあああ!」
赤川は母親に見つかり、部屋に入り、寝転がった。
「どうしても我慢出来ない。まだお菓子食べたいな」
その時、外から三人の少年がはしゃぎながら走っていく声が聞こえた。
「イエーーイ! カブトムシ!」
「俺はノコギリクワガタ!」
「あの森に行ってみようよ!」
はしゃぎ声を聞いた赤川は思った。
(楽しそうだな。友達と仲良く虫取りか)
そして赤川は本気で痩せたいと思うようになった。
(そうだ。一日三食葉っぱにしよう)
赤川は決意すると学校の宿題を持って家を出て行った。親には長期キャンプをすると伝えておいた。
赤川は山で野宿をすることにした。食べていいのは葉っぱだけで、それ以外の食べ物は一切食べてはならないと決めた。
「うう、やっぱり葉っぱは不味いな。でもこれを続ければ痩せれるかも」
(やりたくないけど走るか。その方が痩せそうだし)
赤川は町中を走っていると近くの家からカレーの匂いがした。
(うわぁ、美味しそうな匂い。・・・は! だめだめ!)
しかし、三日経つと赤川は葉っぱが不味くて嫌になり、葉っぱを食べなくなった。勿論、葉っぱ以外の食べ物も食べない。水分は野水を飲んでいる。でも毎日走っている。宿題は時々している。
それから一週間後、赤川は少し走るのもしんどかった。
(しんどい。やっぱり不味いの我慢して食べなきゃいけないのか)
赤川は仕方なく葉っぱを食べた。暫くすると少し元気になり、また走り出した。
さらに一週間後、赤川はまたしんどかった。ちゃんと葉っぱを食べているのにしんどかった。
(しんどいな。やっぱり栄養不足か。でもそれは仕方ないじゃないか。食べちゃいけないんだから)
赤川はしんどくて走らずに宿題をしていた。家にいるよりもはかどったが、字がいつもより汚い。
そのさらに一週間語、赤川はおぼつかない足取りで喋る猿の所に行った。
「おお、お前さん、ちょっと痩せたね。フラフラしているが」
「葉っぱと野水だけで生活してる」
「お前さんに元気が無いのはそういうことか。そんな生活をしていたらいずれ倒れるぞ」
「大丈夫だ。痩せたいと思えば問題ない」
「一日一食葉っぱにすれば良いとは言ったが、一日三食葉っぱにすれば良いとは言ってない」
「一日一食だと家にいることになるからお菓子が食べたくなるんだ」
「ということはお前さん、家に帰ってないんだな」
「そう、長期キャンプ中」
それからも赤川は葉っぱしか食べない生活を続けた。宿題は全て終わらせ、出来るだけ頑張って走った。途中で美味しそうな物が見えたり、美味しそうな匂いがしたりしてそこに行ってしまいそうになったが、その度に自身の顔を叩いて欲を抑えた。走り終えれば葉っぱを満腹になるまで食べた。しかし、赤川は栄養失調で衰弱していった。
登校日になった。赤川はおぼつかない足取りで学校に行った。走っても頻繁にこけてしまいなかなか進めない。歩いたほうが速いので歩いた。
(毎日走ったのになんでこうなるんだよ)
赤川は結局、遅刻した。赤川が教室に着いた時、皆はいなかった。
「もう・・・昼か。誰もいないわけだ」
すでに下校時刻になっていた。赤川はおぼつかない足取りで帰った。帰ったとはいっても家ではなくいつもの山である。帰ったらすぐに葉っぱを食べた。
その次の日に赤川は喋る猿の所に来た。
「おお、お前さんまた痩せたな」
「目標は六十キロだ」
「ほう、まだ葉っぱと野水の生活をしているのか?」
「そうだ」
「お前さんよ、太ってなかったら死んでる」
「太ってなかったらこんなことしない」
数日後、赤川はついに倒れた。栄養失調で死にかけている。赤川は倒れたまま誰にも見つからず、夏休み最終日の朝になった。そこに、工作馬鹿の後藤が来た。
「うわ! 凄い模様の石だ! これ使えそう!」
後藤は石を持って帰ろうとしたが、触れない。見えない何かがあって取れないのだ。
「何これ!? 全然取れない!」
「が・・・」
「誰だ!? 誰もいないか」
次の瞬間、石は赤川になっていた。
「うっわああああああ!! ・・・・・・石が人になった!」
後藤は驚いたが、冷静になって赤川の肩を叩いた。
「いった、何をす…」
「え? なんて?」
赤川は意識を失った。
「えぇ・・・マジか・・・・・・とりあえずサプリを飲ませとこう」
後藤は薬局へ行き、買ってきた色んなサプリメントを赤川の口に入れ、水で、流し込んだ。
後藤は赤川を放っておけず、赤川の写真を撮り、赤川の家を探した。三時間以上かけてようやく赤川の家を見つけた。
「すいません、この人の家ですか?」
「そうですが。もしかして倒れてるの?」
「やっと着いた。あ、はい。多分栄養失調ですよ」
「そう、連れて帰るから案内よろしく」
「分かりました」
その夜、赤川と赤川の持ち物は赤川の母親と後藤によって家に運ばれた。後藤は買ったサプリメントを全て赤川の母親にわたした。
「このサプリを流し込んで下さい。それから朝に見つけた時、石の姿になってました。体が石に見えただけですが」
「そうですか。ありがとう。気を付けて帰ってね」
後藤は帰っていった。赤川の母親は赤川を赤川の部屋に運び、サプリメントを赤川の口に流し込んだ。
翌日、赤川の部屋に赤川の母親が入った。するとそこには夏休み前よりも太った赤川が寝ていた。
「は? なんで太ってるんだ?」
赤川の母親は赤川の手を持ち、赤川を引っ張ったが見た目の割にとても軽かった。
「なるほど、これが後藤の言ってた事か」
そして、赤川は痩せた姿になった。
「・・・葉っぱの食べ過ぎで人を化かす能力でも得たか?・・・まあいい。起きろ! 遅刻するぞ」
赤川の母親は赤川の頬を叩いた。赤川は目覚めた。
「痛い! 何をするってあれ? なんで家にいるんだ?」
「さっさとサプリ飲んで学校に行け! 化け狸!」
「えぇ、サプリ飲むのか。・・・まぁサプリなら太らなくていいか」
赤川は準備をして、出発した。なぜこうなったのかは分からないまま、登校した。おぼつかない足取りで。
(母さん、私のことを化け狸って言ってたけどどういうことだ? ていうか私、山にいたはずだけど母さんに連れて帰られたのか? そのあたりの記憶が無いな。朝ごはんじゃなくてサプリってどういうことだろ? 太らないように配慮してくれたのかな? いつの間に夏休み終わったのかな? でも化け狸ってどういうことだろ? ・・・猿になれ!)
すると、赤川視点からは何も変わらないが、近くにいた小学生には赤川が猿になったように見えた。
「うわ!! 人が猿になった!!」
(わあ! 本当に化け狸だ! 便利な能力を得た!)
赤川は感心しながら登校した。
「わあ! 猿が学校に入っていくよ!」
(しまった。猿のままだった)
赤川は隠れて能力を解いた。その後、教室に入ると、皆が一斉に驚愕した。
「赤川!? 凄く痩せたじゃないか!」
「なんか顔色悪くね? お前。それにおぼつかない足取りだな」
「葉食生活をした」
「洋食生活? それでそんなに痩せるのか?」
「そのようしょくじゃない。葉っぱを食べるのだ。一日三食」
「はあ!? 葉っぱ!? それってそこらにある木の葉っぱか?」
「そうだ」
「どうりで顔色悪くておぼつかない足取りなわけか」
「栄養ならサプリで摂ってる」
「そうか。それならリバウンドしないな」
「まぁ、欲に負けてお菓子食べたら太るけど」
「・・・・・・・・・・・・」
この後、始業式とLHRがあり、それが終わると下校時間になった。赤川はおぼつかない足取りだが、周囲の人達にはまっすぐ歩いているように見せながら帰って行った。
その後、赤川は毎日サプリメントで栄養摂取して日に日に元気になっていった。食事は変わらず葉っぱである。水は野水ではなく水道水だ。運動においては毎日しっかりと走っている。この生活のおかげで赤川は太ることは無かった。