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プロローグ

[1]


 まだ全てが無だった頃、一柱の原初の神が誕生した。原初の神は天界を造り、天使を創造した。原初の神は魔界を造り、悪魔を創造した。そして原初の神は幾多もの世界を造り、それぞれの世界を管理する為の神を創造した。その後、天界は死後の世界として死した者を審判する場所。魔界は死後の世界として悪だと審判された者を裁く場所として機能していた。


 辺り一面真っ白な空間、天界だ。天界では一柱の天使ーメタトロンが文句を零していた。彼は天使でも大天使に分類される天使である。しかしそんな大仰な呼称とは裏腹に、大天使は下から二番目の階級であり、さほど偉いという訳でもないのだ。そんな大天使であるメタトロンが何に文句を零しているのかというと、天界という世界についてだった。


 天使や悪魔と聞いて何が思い浮かぶだろうか。人それぞれのイメージがあるにせよ、超越的な力を行使する強力な存在というイメージが大半だろう。しかし現実は違う。天界も魔界も、単なるお役所仕事のような形式的な世界でしかないのだ。ルールに則って死した者を審判して裁く。色気もへったくれもない。それがメタトロンには耐えられなかったのだ。


「退屈すぎて死にそうだ、分かるだろ天使君。僕は一体どうすればいいんだ」


 退屈を極めたメタトロンは、とうとう彼の部下である天使にうざ絡みをしていた。うざ絡みをされている天使は内心でイライラしながらも、それはおくびにも出さない。一応は上司だからである。天使は知っていた、何らかの答えを返さないとこの上司にひたすら絡まれると。さっさとこの面倒な上司から逃げたい天使はとある答えを口にした。


「それなら下界に降りてみるのはどうでしょう。休暇を取るという形で」


 それを聞いたメタトロンは「成る程!」と叫ぶと興奮した表情になる。どうやら彼にはその発想が無かったようだ。思いついたら直ぐ行動とばかりに、早速行動に移す。天界の天使は、存在する全ての世界を見る事が出来る。その権能を利用して、どの世界に降りてみようかと思案するメタトロン。しばらく世界を見ていた彼は、とある一つの世界を見つけた。


「よし決めたぞ!僕はこの世界に降りることにしよう」


 メタトロンは天界から下界に降りる為の扉を召喚すると、その扉を開けた。後ろに控えている部下の天使の方を振り返ると、満面の笑みで「僕はしばらく休暇を取るからね!後の事は全部天使君に任せる事にするよ!」と言い放ち、開いている扉をくぐると消えた。メタトロンという存在は天界から、下界の中の一つであるヴァーシュと呼ばれる世界に転移したのだった。ちなみに残された部下の天使は、面倒な上司が居なくなって大層喜んだそうだ。


[2]


 ヴァーシュと呼ばれる世界は、まさにファンタジー世界と言って差し支えない世界だ。具体的に説明すると、地球の数倍もの大きさの世界に人間のみならず、亜人ー森精種に土精種に獣人種ーと魔族ー魔法の扱いに長けているーが存在しており、空気中に含まれる魔素と呼ばれる物質から生まれる、魔物ー誰の味方でもない平等な敵ーまで存在するステレオタイプな剣と魔法のファンタジー世界である。


 ヴァーシュは地球と同じ大陸の形をしている。地球で言う所のヨーロッパに相当する場所にある国が、人間のみが暮らすディア王国だ。そんなディア王国にあるヘイム伯爵家には、とある一家相伝の魔法があった。それこそが、異界から自身の使い魔を一度だけ召喚出来るという召喚魔法である。ヘイム家の今の地位は召喚魔法のおかげであるといっても過言ではない。


 ヘイム家の閉ざされた秘密の地下室、そこにはヘイム家の人間が揃っていた。何を隠そう当代の娘であるフィリアが十五歳になった為、召喚魔法が行われるからである。召喚魔法とは一度きりの魔法だ。ヘイム家の人間は十五歳になると召喚魔法を行う事と決められている。行使出来る回数が限られている分、召喚出来る使い魔は強力だ。一族の過去には幻獣種最強と名高い龍を呼び出した者も居たという。


 さて現在、当事者であるフィリアは緊張していた。それもそうだろう、絶対に失敗出来ない一家相伝の魔法だ。緊張する事も無理はなかった。フィリアは手順通りに召喚魔法の準備をする。魔法というのは、自身の体内に存在する魔力を用いて直接的に事象改変するタイプと、描かれた魔法陣に魔力を流すことで発動するタイプの二つがある。


 現在の主流は圧倒的に前者であるが、後者が完全に廃れたという訳でもなかった。召喚魔法はまさに後者である。全ての準備を終えたフィリアは、ヘルム家の秘匿している召喚魔法を発動する為の魔法陣に魔力を流した。更に発動を安定させる為に、呪文を唱える。すると、魔法陣が白く発光して辺りに莫大なまでのエネルギーが放出される事が分かる。発光が更に強くなり、光が辺りを飲み込んだ。


 フィリアだけでなく見届けていたヘルム家の人間までもが思わず目を瞑る。しばらくの間続いた発光が収まると魔法陣が描かれていた場所に一つの人影が見える。フィリアはその人影を見て、自分の発動した召喚魔法が成功したのだと理解した。思わず笑みが零れる。しかし、光が完全に消え、人影がはっきりと分かるようになると、フィリアだけでなくヘルム家の人間も驚愕に顔を歪めた。


 それもそのはずフィリアが召喚した存在というのは、紛う事無き天使だったからだ。純白の衣服に翼はまさしく召喚された存在が天使である事の証明であり、天使は神々しいオーラを放っていた。天使は自分が召喚された事に満足するかの様に頷くと、フィリアを見ながら笑みを浮かべてこう言い放った。


「問おう。貴方が私のマスターか。なんつってね」


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