中編
あの事件から数年後、クルトとフミカは別れていた。あの遊園地を最後にデートをしておらず、最後はフミカの浮気発覚によって別れた。その後、フミカは海外に引っ越した。
クルトは美術系の大学に入学している。
この日は、大学で有名な漫画家の講義があり期待をしている。朝、目が覚めるとまずデジタル時計を確認した。8月3日(木)と表記されている。支度を済ませ大学に行く。漫画家の講義は思いの外つまらなかった。昼時に食堂に行くと、ゴキブリが出たと言って大騒ぎしていた。そんなところで食べたくないので、ファストフード店でハンバーガーとドリンクを買った。すると店員がお釣りを百円間違えたので指摘してやった。その後、外のベンチに座って昼食をとった。そんな風にして1日を終え布団に入った。
目が覚めた。デジタル時計には8月3日(木)と表記されている。故障かと思ったが、時間は正確に表記されている。一先ず、大学行った。すると昨日の漫画家が全く同じ講義をしていた。不思議に思いながら、ノートを開くと書いたはずのことは全て消えていた。講義はやはりつまらなかった。昼時に食堂に行くとゴキブリが出たと大騒ぎになっていた。明らかに変だと思いながら、昨日と同じファストフード店に行った。すると店員がお釣りを百円間違えた。それを指摘しながらひどい違和感を覚えた。そんな1日だった。
目が覚めた。デジタル時計は8月3日(木)と表記する。大学に行くと同じ漫画家が同じくつまらない講義をしていた。その講義を抜け出し、食堂に行く。まだ騒ぎにはなっていない。食券を買おうと券売機のところに行くと、足元に5センチほどのどデカイゴキブリがいた。思わず大声を出した。クルトはすぐさまその場から逃げ出す。ファストフード店に行って店員にハンバーガーとポテトを頼む。すると店員はお釣りを間違えなかった。その近くで立ちながら食べて、家に帰った。1時間ほど悩んだ末にあの遊園地が頭に浮かんだ。時計とスマホと財布を持って遊園地に行った。
「今日はあと8時間くらいで終わる。その時どうなるかだな。」
遊園地に入ると真っ先に観覧車に向かった。頭痛がし出したが、急いでゴンドラに乗った。と、突然外が濁った。
「これは、あん時の夢か?」
「同じ空間。だけど夢じゃない。」
あの少女が前の座席に座っていた。クルトは、少女を問いただした。
「これは一体なんだ?俺はなんで8月3日から出られない?」
「それが『輪廻の呪い』。同じ日を繰り返させる。呪いにかかっている貴方と、呪いの宿主である私だけが記憶を保っていられる。」
「『輪廻の呪い』ってなんだよ?」
「2度は言わない!って言いたいけど説明不足。『輪廻の呪い』というのは、かかると同じ日を繰り返させる時間の輪廻と、呪いの本体を殺すと世界がゼロから繰り返される世界の輪廻からなる呪い時間の輪廻は本体と対象の2人が記憶を保てる。けれど、世界の輪廻は本体だけが記憶を保つ。いまこの世界は3周目。」
「どうすれば回避できる?」
「わからないの?世界は繰り返される。2周とも本体が殺された。それ含めて繰り返される。」
「1周目と2周目は誰がお前を殺したんだ?」
「なんで、私が本体だと?」
「何周目かわかるのは記憶持ってる本体だけだろ?そもそも、最初に宿主って言った時点で、本体だって言ってるようなものだろ?」
「けど、本体の協力者かも知れない。」
「だからカマかけたら、乗っかった。」
「1、2周目にこのやり取りはなかったわ。…2周目で私を殺したのはあなた。諦めるしかないのよ…」
「だったらさっさと自殺したらいい。そうしないのは…まだ諦めてないってことだろ?」
「…」
少女は目を涙ぐませ、歯をくいしばる。
「前に俺がここに来た時、お前は『また輪廻の呪いに入ってしまう』と言ったな?一度は抜けてるんだよな?」
「2周目、前の世界であなたは一度抜け出した。」
「どうやって?」
「フミカを殺して。」
「なにぃ?からかってるのか?」
「本当の事。元々はフミカにかけられた呪い。輪廻の呪いは発症するまでに2、3年かかる。その間に貴方に呪いを移した。それが1周目、2周目はそのことを教えたら、貴方はフミカを殺したの。そして警察に捕まった。」
「呪いの対象の移し方って?」
「自分の血かける。そうすると相手は気絶する。そうしてその相手が呪いに耐えられれば成功。ダメだと相手は死んで、呪いは自分に残ったまま。」
「…お化け屋敷でのあれって」
「フミカが貴方に血をかけたの。」
「は…はははは。。。やっぱりな…」
「大丈夫…私がいるから。」
「?…なに?」
「貴方は私が愛してる。」
「…あはは…気ぃ使わせちゃった?」
「そんなこと……」
目が覚めた。デジタル時計は8月3日(木)を表記している。
「クソッ!……取り敢えず、フミカを探すか。」
ありとあらゆる手段で探すも、見つからないまま日が暮れてきた。クルトはアパートに戻った。
「それなら無駄。」
少女がクルトの部屋のリビングでお茶をすすっている。
「ぬぁ?」
「フミカは、アメリカで死んだわ。」
「マジか…マジかぁ!」
「それに、誰かが呪いにかかっているなら時間は進まない。」
少女の目の奥が少し悲しそうに光る。
「ひとりぼっちは辛いんだな…俺がその一人ぼっちを、どうにかしてやる!お前は今から言うことを、俺に伝えてくれ。」
クルトは提案を全て伝えた。少女は全てを聴き終えると、覚悟をした。
「わかった…さぁ、また世界を繰り返させましょうか。」
「その前に…」
クルトは少女をベッドに寝かせる。
「俺は、お前に恋したんだ。夢に出て来た時から…でも一目惚れじゃない。これは、どの世界の俺も同じか?」
「それは…違う。」
「だよな。」
クルトは少女に覆いかぶさる。
「きっと、世界を重ねながら、俺はお前を愛していったんだ。なら次の俺も絶対に愛してくれる。だからそんな悲しそうにしないでくれ。」
クルトは少女の唇に、自分の唇を重ねた。長いキスをした後、2人は見つめ合う。
「あ、」
「大丈夫か?痛くないか?」
「痛いに決まってる。だから…優しく。」
「ん…」
「笑顔だな?どんな感じなんだ?」
「とっても、あったかい…。」
「ハァッハァ…お前 …名前は?」
「私の名前はね。リンネっていうの。」
「そっか、輪廻か…俺の名前はクルト。」
「知ってる。」
「お前は何者なんだ?」
「呪いを存在させるために作られた呪いの器。お父さんもお母さんも知らない。」
「そっか、ずっと1人なんだな?」
「ううん。違うよ。今はクルトがいる。」
「そうだな。次の世界も俺が隣にいる。安心しろよ。」
「うん。すごく、あったかいよ。クルトの手のひらは。」
リンネのみぞおちから、心臓にめがけて刺されたナイフを、クルトはユックリと引き抜く。吹き出す血を全身に浴びながら、クルトはリンネの亡骸を抱きしめる。
「リンネ…この想いも輪廻してくれますように。」
リンネは目が覚めた。