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運命の出逢い Ⅱ



古庄自身は届けを出していないので、そのまま帰るわけにはいかなかったが、真琴を捕まえて、この前ゴミ保管庫でキスしたみたいに、誰もいない物陰で抱きしめるつもりだった。



靴を履き替えて、職員の通用口から外に出る。薄曇りの冷たい空気の中、職員の駐車場を見遣って、真琴の車のある場所へと走った。


けれども、そこにたどり着いてみても真琴の姿はなく、古庄は混乱して、にわかに焦り始める。



――さっき出て行ったばかりなのに、どこ行ったんだ…?!



キョロキョロとあちこちに目を走らせ、真琴を探しながら職員の通用口まで戻って来て、ふと校門の方に目をやると、そこに愛しい人は佇んでいた。



真琴は校門横のしだれ桜の梢を見上げて、一輪二輪、ようやくほころばせ始めた桜の花を探しているらしい。古庄はホッと息を抜いて、その愛らしい姿を見つめた。



古庄の中に、二年前初めて真琴に出逢った時のことが甦ってくる。


ラグビージャージに着替え、これから部活指導に行こうとしていたあの時。絢爛に咲き誇る花々を見上げ、桜の下に佇む真琴を、古庄はこの場所から初めて目にした。


初めて経験した感覚――。


体中に強い電流が流れたみたいに動けなくなり、反対に胸の鼓動はドキンドキンとどんどん大きくなった。


自分に婚約者がいることも、自分自身の存在さえも意識からなくなり…、古庄の中には真琴しかいなくなった。

声も聞かず、顔さえよく見えなかったのに、自分にとって世界中でたった一人の〝運命の人〟だと思った。


あの時は遠く手の届かないところにいた人が、今は自分の伴侶となって、子どもを宿してくれている…。


その現実に、心だけでなく体までも震えて、古庄はそこに立ちすくんだ。



「ほら、あそこ。お花が咲いてるよ」



真琴の声が聞こえてきて、古庄は物思いから覚醒する。



けれども、真琴は古庄に向かって話しかけているのではなかった。大きくなった自分のお腹を抱え、そこを見下ろしながら優しく続けた。



「お母さんがお父さんに初めて逢った時、お父さんはこの桜を眺めてたのよ。夢の中の出来事みたいに、本当にすごく綺麗だった……。この桜がお父さんとお母さんを繋げてくれたの。だから、お母さんにとって、とても大切な桜なのよ」



そう言いながら、真琴は再びしだれ桜の梢に目をやる。



「……もうすぐ、もっとたくさん咲くね。とっても綺麗なのよ。また見に来ようね…」



今、桜を見上げる真琴も、あの日、この桜の下に佇んでいた自分を思い出してくれている……。

こんなにも想いが通じ合っているのならば、それはもう、抱きしめ合っているのと同じことだと、古庄は思った。


その時、花曇りの雲の切れ間から日が射し始める。


春の明るくまばゆい光の中、桜の梢を見上げる真琴だけが、まるで照らし出されているように輝いている。


古庄はしばらく、その光景を心に留めるよう見つめて…、真琴へと歩み寄った。



「帰るって言ってたのに、こんな所で道草食ってるなんて、…悪い子だな」



古庄の声が聞こえて、真琴が振り向いた。いつも自分を見つけた時に見せてくれる、ニッコリと嬉しそうな笑顔に、古庄は今更ながらにキュンと甘酸っぱい感覚を覚える。



「もう桜が咲き始めてるんですよ。ほら」



真琴が腕を上げて、ほころんだ花弁を教えてくれる。



「うん……」



古庄は桜を仰いで頷いただけで、何も言葉にならなかった。


この桜には、あまりにも思い入れが強すぎる。この桜の咲き誇る様を見たり、心に描くたびに、古庄はいつもそこに真琴を投影した。


二人はそれぞれに思いを抱えて、絢爛に咲き乱れる満開の枝を思い描き、まだ咲いていない枝々をただ見入っていた。



その時、ウグイスの鳴き声が、隣の神社の社叢から、陽だまりが作る暖かな空気の中に響き渡る。



「お!ウグイスの初鳴きかな?もう…ほんとに春なんだな」



目を細めて、古庄は鳴き声のした木々の方へと仰いでみる。


真琴は、ウグイスのきれいな声よりも、そんな古庄の仕草とその様に心を奪われた。


自分を見つめる真琴の視線に気が付いて、古庄が優しい眼差しを真琴へと返す。

目が合って、真琴が恥ずかしそうに顔を赤らめた時、



ホ――――――ホケキョ!



もっと近くにウグイスが鳴いた。


二人は思わず、同時にウグイスの声のした桜の梢に視線を移す。

そこから……、その上に広がる、春の柔らかい日が作る淡い青空を見上げた。



二人の未来も、晴れ渡っていくこの空のように明るく拓けている。


そして、そこにある温かく確かなものを、一緒に目指し見つめていた。












  「恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜」


       ―― 完 ――


      






※ この後、「恋はしょうがない。〜幸せな結婚式〜」に続きます。



※ この作品に登場する佳音を主人公としたスピンオフ作品「恋は死なない。」、古庄や真琴の同僚石井先生を主人公にした「毎日、休日。」も、ぜひあわせてお楽しみください。



※ 次ページの「あとがき」も、どうぞお読みください!





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