女子会 Ⅳ
「ごめんねー。お待たせしてしまって」
谷口の声がして、3人が合流する。
「賀川さん、お腹冷やさないように。風邪も引かないようにしなきゃね。私の友達で、出産直前に風邪引いちゃって…おなかの赤ちゃんも感染して…結局死産だった人もいるから…」
石井が真琴を心配して、そう助言をしてくれた。すると、それを遮るように谷口が口を出す。
「そんな。縁起でもない話、しちゃダメよ!でも、この中で誰も経験したことのないことだから、とても心配してるのよ。用心するに越したことないからね」
「赤ちゃんが産まれるのって、本当に不思議なことなのよね。人の染色体って22対46本からできてて、この私たちの体の細胞一つ一つにこの46本の染色体があるんだけど…。ただ精子と卵子という細胞だけは、23本しかないのよね。ちゃんと2つが結合して、46本になるようになってるの。ね?人間の身体って、よくできてると思わない?」
あげく、中山は生命の神秘を説きはじめて、一同は一様に感心する。
「へえ~、そうなんだ」
「中山さん、さすが生物の先生ね!…って、こんな寒いところで立ち話なんてしちゃダメよ。早く帰らなきゃ!」
石井にそう言って急かされて、真琴も自分の車に乗り込む。親友たちの温かい気持ちに包まれて、それに感謝しながら、真琴は車のエンジンをかけた。
でも、もうこうやって、親友たちと楽しい時間を過ごすのも、しばらくはできなくなる…。
この親友たちと会えなくなって、仕事からも遠ざかり、生徒達とも触れ合えなくなって…、4月からはどんな生活が待っているのだろう…。
そんなことを考えていると、真琴の中に一抹の不安と寂しさが芽生え始める。このどうしようもない感情は、古庄との新しい生活に踏み出すための代償のようなものだ。
真琴は車のウインカーを出し、自分のアパートから古庄のアパートへと進路を変える。
無性に、愛しい人に会いたくてしょうがなくなった。
今日は平日だし、明日だって職員室で古庄には会えるし、4月からはずっと一緒に暮らせる。
こんな時間に訪ねたら、多分古庄はびっくりするだろう…。
それでも古庄は、こころよく部屋の中に迎え入れてくれて、きっと優しく抱きしめてくれる…。
いつでも両手を広げて待ってくれているような、古庄の真琴に対する普遍的な愛情は、もう疑う余地もなかった。
優しく可愛がってくれる両親、心から信頼できる友達――。
そんな温かい人たちに支えられ、どんなに明るい幸せに包まれていても、真琴が一番求めるものは、古庄だけが与えてくれる。
今はただ…、真琴がお腹の赤ちゃんを守っているように、この不安や寂しさごと古庄に包み込んでもらいたかった。




