女子会 Ⅲ
戸惑って何も発せられない真琴に、理子は開き直ったように言葉を続ける。
「……実は、少し前に、古庄先生に告白したんです……。3月で任期が終わって、離任してしまう前に思い切って……」
――……ええっ…!?
真琴は息を呑んで、自分の耳を疑った。その事実は古庄からも聞かされておらず、真琴の驚きに、さらなる追い打ちをかけた。真琴の知らないうちに、どこで、そんなドラマが展開されていたのだろう…。
「…でも、フラれてしまいました。その時に古庄先生が言ってたんです。今はまだ事情があって公表できないけど、心から愛している人と結婚したんだって……」
理子にとってはとても悲しくて辛い話を、ただ淡々と語る。真琴はただ耳を傾けるだけで、相づちさえも打てなかった。
「それから、古庄先生を見ていると……、その『心から愛している人』というのが賀川先生だってことは、すぐに判りました…」
この会話を、遅れてレストランから出てきた中山が聞きつけて、目を丸くする。
「…えっ!…えっ?!賀川先生の結婚相手って…!」
と、騒ぎ出そうとしたところで、谷口から肩を掴まれ、石井から口を塞がれる。
「校長から、相手が古庄くんだってことは『秘密にしろ』、って指示されてるみたいよ。だから、賀川さんは打ち明けてくれないの」
石井が中山の口を押えながら、小声で事情を説明する。
「そう!秘密にしてるんだから、知らないふりをしてあげなきゃダメよ」
石井に補足するように、谷口も声を潜めて中山に忠告した。
「……二人とも、知ってたの?!」
中山は同じくヒソヒソ声で、石井と谷口を見つめ返した。
「私は校長から直接聞いたの。…その前から勘付いてはいたけどね」
したり顔で石井が笑みを含み、谷口は開き直ったように肩をすくめる。
「私もずいぶん前に気が付いてたわ。古庄先生に婚約指輪を買う店を相談されたの。それで、間を置かずに賀川先生が指輪してるじゃない?賀川先生は一宮ちゃんに気兼ねして真実が言えないのかな…って思ってたんだけど、そうか、校長先生の差し金だったわけね…」
「……はぁ……」
中山が驚いた顔のまま、溜息をついた。いろいろと状況を説明されても、まだ自分の中の驚きを、なかなか処理できないみたいだ。
「古庄くんや賀川さんのクラスの生徒たちも、かなり気が付いてるみたいよ。本人たちには逆に気づかれないようにしてるみたいだけど…」
「そうそう。それでその生徒たちが、すっごいコトをしようとしてるのよ。楽しみよね」
石井と谷口は、まるで自分のことのように嬉しそうに話をしている。中山も同じ眼差しになって、お腹の大きくなった真琴を見つめた。
果たしてどうするのが一番いいのか…。真琴には分からなかったが、理子の目の前に回り込んで、頭を下げた。
「今まで本当のことを隠してて、ごめんなさい…。一宮先生が古庄先生を好きなこと知ってて…、嘘ついてて…、ひどいことしてると思ったでしょう?」
面と向かって謝られた理子は、少し涙が込み上げてきたのか、唇を引き結んで目を瞬かせた。
「…事情があるって古庄先生も言ってたし…、賀川先生がやむにやまれずそうしてたことは解ってます。…それに、賀川先生だったから、気持ちに踏ん切りがつけられたんです。いつも私を助けてくれる優しくて大好きな賀川先生だから…、古庄先生も好きになったんだって…」
「……ありがとう…。そう言ってくれたら、胸のつかえが下りたわ…」
真琴はもう一度、理子へと頭を下げた。
頭を下げながら、涙が溢れてくるのが抑えられなかった。
「これが…、賀川先生じゃなくて平沢先生だったら…、絶対に納得できなかったと思うし、古庄先生のことも嫌いになってたと思いますけど」
息を抜きながら理子が、少しおどけるようにそう付け足すと、真琴も涙を拭って小さく笑った。




