女子会 Ⅱ
「そうそう」
デザートを食べ始める頃、真琴の浮かない顔に気が付いて、谷口が新しい話題を持ち出す。
バッグの中から数枚の写真を取り出し、テーブルの上に並べてみる。
「私の友達が、ジュエリーショップのバイヤーをしててね。参考のために、いろんな人の意見を聞きたいらしいの。どの指輪が良くて、どれはダメ?」
ダイヤモンドやルビーやサファイア…色とりどりの宝石が付いた指輪たちの写真を、皆はそれぞれ食い入るように見つめて、忌憚のない意見を出し合う。
そんな中でも口を開かない真琴に、谷口が声をかけた。
「賀川先生は、どれが気に入った?それとも全部イマイチ?」
問いかけられた真琴は、困ったように肩をすくめた。
「…どれも素敵だとは思うけど…、私は、こういうの、あんまり分からなくて…」
「そっか、賀川さんは、旦那様からもらったその指輪が一番のお気に入りなのよね」
石井からそう突っ込まれると、真琴はますます困ったように笑顔を作った。
「そういえば、賀川先生。その指輪は婚約指輪よね?結婚指輪はしないの?」
そして、中山からのこの指摘に、いよいよ真琴は窮してしまう。
結婚をする前に、こういうものはきちんと準備するものなのだろうが、そんなことを考える時間もなく入籍してしまっていた。その後も、婚約指輪を買って安心したのか、古庄は何も言い出さないし、真琴もそんなことには頓着なかった。
「…バタバタしてたから、まだ買ってなくて…」
とりあえずそう言って、ごまかすしかない。
「そうなんだ。それなら、これ。参考にしてみて。賀川先生が実際に着けるとしたら、どれがいいと思う?」
と、谷口はまた新たな写真を数枚テーブルに並べる。今度は先ほどとは違って、少し地味な結婚指輪だった。
何も言わず写真を眺めるだけの真琴に引き替え、友人たちは一つ一つを品評しあい、真琴に似合うもの、今の婚約指輪と重ね着けが出来るものなど、アドバイスしてくれる。
そして最後に、谷口がもう一度真琴に確認する。
「さあ、この中から賀川先生の『いいな』と思うのは、どれ?」
皆の注目も一身に集まり、真琴も答えざるを得なくなる。真琴がおずおずと一つの写真を指差して、
「……これ、かな…?」
と、つぶやくと、その一言に谷口はニッコリと微笑んだ。
それから、食事が終わり支払いをする時、石井と谷口と中山とが化粧室を使いに向かった。
先に支払いを済ませた真琴が、レストランの外へと出ると、時間を置かず理子が出てくる。
気まずい雰囲気になる前に、何か話題を持ち出して理子の気持ちを紛らわせようと、真琴が考えを巡らせていると、理子の方から口を開いた。
「まだ夜は寒いですから、あんまり体を冷やさない方がいいですよ。大事な赤ちゃんですもんね」
「……ありがとう。そうね、気を付ける…」
理子の優しい言葉にホッとしながら、真琴も素直にお礼が言えた。
「男の子か女の子か、もう判ってるんですか?」
「うん…。男の子なのよ。だからかな?ものすごく活発に動くの」
「男の子ですか…。古庄先生に似てたら、やっぱりイケメンになるんでしょうね」
「…………!?」
理子の何気なく投げかけられた言葉に、真琴は寒さを感じるどころか、凍り付いてしまった。
何も言葉を返せずに、真琴は理子の顔をじっと凝視する。その視線の意味するところを感じ取って、理子はその可憐な相貌に笑みを浮かべた。
「…お腹の赤ちゃんのお父さんは、古庄先生ですよね?」
そんなふうに確認されても、真琴には何と言って答えていいのか分からない。
このまま理子の言うことを認めて、事実を全て打ち明けるべきか…。
それとも、全校に公表するまでは隠し通すべきか…。
そもそも、理子はどうしてその事実を知っているのか…。




